これからですとさ
一つだと内から膨れる。
二つだと感覚が溶ける。
では三つでは? ……その答えは、感覚が広がるである。
(うぉっ!? なんだよこれ)
自分だけの情報ではなく。周囲で戦うセレナやハウラ、スカーレット達の情報が、どんどんと頭の中に入って来る。
息遣い、鼓動に始まり、体勢、動き、魔力の集まり。
およそ普段は知り得ない情報の奔流に、脳がオーバーフローしそうになる。
……が。
(いらない情報はツキがシャットダウンしちゃうの~)
という言葉の後からは目の前のヴァーユ本体の情報以外が消える。
ツキすげぇな。本当にありがたい。
(それで? 旦那はこれだけ重なった能力をどう振るうんですかい?)
(とりあえず使う。恐らくだが、ヴァーユにも有効な重なり方をしてるはずなんだ)
トゥオンからの問いかけに応えながら、一先ずはシズの能力を使用。
ヴァーユの立っている場所から竜巻が発生し、その竜巻は紫色の靄がかかった様な表現がなされていて。
「当たると思う?」
余裕そうに後ろに下がって回避するヴァーユだが、避けられるのは想定済み。
避けた分だけヴァーユの前の空間へとトゥオンの力を発言させ、その空間を貪り喰らい。
「ちょっ!? 何これ!?」
突如として発生した自分を竜巻へと引き込む駿風に驚愕し。
そうして体勢が崩れたヴァーユの背後へ風となって移動して、トゥオンを構えて竜巻へ押し込む最後のお手伝い。
デバフだと分かっている竜巻へと突っ込むか、トゥオンに貫かれて喰われるか。
その押し付けられた二択を、ヴァーユは竜巻へと自ら突入することで回答する。
どうせトゥオンで貫かれて喰われた後にもデバフをかけられるならば。
デバフだけで済ませた方がマシ。そう考えたのだろう。
ほんの数瞬前まではそれで正解だった。……しかし。
今はトゥオンも重なってるんだよ! つまり、
「デバフで削った能力を喰らえ! んで、糧としろ!!」
「合点!!」
喰らうという能力の幅は広い。
ただ打ち消したり、排除したりだけではない。
イフリートの出す精霊を喰らい、『降魔』の接続時間に変換していたように。
喰らったエネルギーを別のエネルギーに変換できるというのならば。
それは、奪ったステータスを、自分のステータスに変換出来るのではないか。
机上の空論の筈のソレは、呪われた装備と言う規格外の性能のせいで実現する。
身に滾るは高揚感。トゥオンを握る手に一層の力を込め、天を差して声高く。
「風よ!! 降り注げ!!」
生身では――いや、シズを『降魔』してもなお不可能であった風を操るという行動は、ヴァーユのステータスを喰らうという行為を経て初めて実現し。
風そのものであるがゆえに、操られて動けないヴァーユへと。
雲を割り、視界すら歪める高圧縮の風は。トゥオンの喰らう力を乗せて、ヴァーユへと降り注ぐ。
「やるじゃん」
負け惜しみか、それとも純粋な称賛か。
風に飲まれる直前のヴァーユの口からはそんな声が零れ。
圧縮された風に飲まれ、姿が消える。
そして、それと同時に周囲でも変化が起きたようで。
「あれ? ……ここは?」
アトリアが、エルドールが。グリフが、ラグルフが。
消えたアイナを除く四人が戦闘途中であるにも関わらずに意識を取り戻し。
それまで宙に浮いていたのに、ヴァーユの支配が切れてしまったせいで。
当然その場には留まれずに落下を開始。
仕方なくそれぞれ相手をしていたハウラやセレナたちに助けてもらい、全員が地面へと降りたって。
「何が起こったの? ……あれ? アイナは!?」
当然、アイナが居ない事に気が付き周囲を見渡してアイナを探す。
……が、まぁ、見つからないわけで。
どうしたもんかと頭を掻いていると、おもむろに空間がひび割れる。
それは、精霊世界から俺らの世界へ干渉されている証であり、一体何事かと身構えると。
そのひび割れから、ペイッっと。
まるで吐き出されたような勢いで、アイナが放り出された。
……無事か。良かった良かった。
「アイナ!? 無事!?」
「何とか。……ていうかケイスは?」
俺? ぶっちゃけ姿見せたくなくて、現在風と同化中。
いや、だってさ。ヴァーユに取りつかれたままなら殺そうとしてたんだし、出ていくの恥ずかしくね?
気まずくね?
……それにさ。
「今度はこっちでやろうよ。制限とか一切ないから」
精霊世界からヴァーユに呼び出し喰らったんだよ。
……行けねぇよ。お前らの所になんて。
(ご主人様、精霊世界では文字通り制限はなくなります。……つまり――)
(言わんとしてることはわかるさ。四大の全力が襲ってくるんだろ?)
(はい)
(構うもんかよ。……つーか、さっき言っただろ? 俺は元々死ぬつもりだった。だから、死んで元々、決死の覚悟で抵抗してみるさ)
(いさぎいいな相棒。だったら、もう一個重なっとこうぜ。全力の抵抗としてさ)
(まぁ、それもいいかもしれんけど、とりあえずは今のままで)
(ぶーぶー! いいじゃんかー! 重なれよー!)
(やべぇってなったら重なるから。……ていうか、どうせすぐ重なることになるだろうからさ)
なおも文句を言うシエラをなだめながら、俺はヴァーユが手招きしている方へと進み始める。
一世一代、正真正銘の四大精霊とのマジ喧嘩。
惜しむらくは誰にも見られていないことくらいか?
なんて、久しぶりに傭兵やってた頃に戻ったような気分で、俺は戦いのフィールドへと入っていくのだった。