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舐められていますとさ

 今宵は満月。ツキとの降魔も可能な状況。

 風そのものであるシズを解除するなんてことは出来ないし、する気もない。

 ……俺の手札はツキと、トゥオンと、シエラの三枚。

 藤紅が驚愕したツキのデバフ。イフリートを追い詰めたトゥオンの暴食。

 そして、遠距離への打撃という非常に使い勝手のいいシエラ。

 ぶっちゃけ迷うよな。


(トゥオン)

(何ですかい?)

(誰で重なるのが適切だ?)

(そりゃあもちろん――なんて、そんなの分かりっこないっすよ)

(そうなのか?)

(はい。だって、ぶっちゃけ降魔を重ねてどんな能力になるかなんて、やってみなきゃ分かんねぇっすから)


 というわけでトゥオンの意見を聞いてみればこれだ。

 ……ん? 待てよ?


(けどお前、シエラと重なるってなった時、あたかもどうなるか知ってるような口ぶりじゃなかったか?)

(あー、あれっすね。だって、あっしは自分の能力把握してるでしょう? それで、シエラの能力も把握してて、じゃあ、掛け合わせたら容易に想像出来ないっすか?)


 ……確かに。

 ていうとあれか? シエラの能力が単純だったから分かりやすかった……と?


(身も蓋もねぇっすけどね。……んで、シズの能力は風に溶け込む事と風を捉えることが出来るってやつっすよね?)

(え、えぇ)

(それと全てを喰らうあっしが重なって、どうなる予想になりますかい?)


 えーっと? シエラと重なった時準拠で考えるなら、風になって触れたものを喰らう?


(即効で胃袋パンクしますぜ? どれだけのものを口に入れりゃあいいんですかい?)

(となるとトゥオンは除外か……)

(悪ぃが相棒、ツキ一択だと思うぜ?)

(ほう、どうして?)

(考えてもみろ、風と衝撃波なんざ相容れる訳ねぇだろ。風なんて殴っても手応えなんてあるか?)

(ねぇな)

(さらに言やぁ、ヴァーユ様が物理的なダメージを負うと思うか?)


 シエラからの最もな質問。

 それは、存在そのものが風のヴァーユに打撃は通るのかという、疑問。

 なるほど? つまり最初から選択肢なんてねぇわけだな。


(まぁ、メルヴィが降魔を認めるのもありっちゃありっすが――)

(無理)

(とまぁこんな調子なんで、ツキ一択っすね。おーい、ツキー。出番っすぜー?)

(ん……ふぁ~。おはようなの)


 何故だか降魔を嫌がる――いや、降魔はそもそも普通はしないんだったな。何故だかもクソもねぇや。

 とりあえず、長い長い睡眠から目を覚ましたツキが覚醒するまでほんの数瞬。


「よし! バッチリお目目覚めたの!!」

「お、いよいよやる気だね」


 トゥオンの繋ぐ脳内会話ではなく、普通に発言として口にしたツキの言葉に、目を輝かせながら待つヴァーユ。

 ……悪いな。こいつはイフリート戦では使わなかったんだ。完全初見でどれくらい効果があるか、試させて貰うぜ!!


(使わなかった、じゃなく、満月じゃなかったんで使えなかっただけでしょうに……)


 呆れたようなトゥオンの声が聞こえた気がするが、これを綺麗に無視。

 人生二度目、今度は副作用が無い事が約束された降魔を重ねる行為を敢行。

 ――しかし、


「ふふ、早く早く」


 絶対に妨害してくると思ったヴァーユは動く事すらせず。

 何なら、作り出した分身すらもこちらを見て微動だにしない。

 ――そうかい。そんなに初見で倒されてぇならお望みどおりにしてやるぜ。

 ツキ、最初っから全力でデバフをばら撒け!!


(分かったの~!! え~~い!!!)


 風になり、風を捉えるシズの能力と、膨大なデバフと数多のバフを振りまくツキとの降魔は。

 風に乗って敵を捉えまとわりつくデバフと、味方を把握して相乗されるバフへと変化。

 つまり、俺という存在が要る空間に同席する敵と味方その双方に、俺に都合がいいようにバフとデバフを付与できる能力となった。


「ンえ!? 体が重い……?」


 そんな能力とは露も知らないヴァーユは首を傾げ、思ったように動けない体に困惑。

 バカデカい隙が発生し、それを見逃すはずがないわな。

 風に乗ってヴァーユの眼前に移動し、トゥオンを降り下ろす。

 そこで、トゥオンが降り下ろされてから俺の動きを理解して回避行動に入るヴァーユ。

 おせえな。デバフ様様だぜ。

 誰が見ても間に合わないと分かるタイミングでの回避行動は、ヴァーユの動きを制限する。

 候補とするならば、もっと早く移動するか、何かを身代わりにするか、である。

 もっと早く移動できるのであれば最初からそうしているはずで、それが出来ないという事は、それはツキのデバフで制限されている。

 ――ならば。


「くっそ!!」


 分身の一体へと手を伸ばし、……瞬間。

 ヴァーユと分身の立ち位置が逆転。俺の降り下ろしたトゥオンは分身へと突き刺さり、トゥオンに喰われた事で、分身は風へと霧散する。


「び、びっくり……した」


 先ほどとはまるで勝手の違う自分の入っている体。

 精霊体ではありえない不可に、肩で息をしているのをヴァーユ本人は気が付いているだろうか?


(ま、どっちだって関係ねぇや。……シズ!)

(はい!!)

(デバフの風でヴァーユを包め!!)

(はい!!)


 さて、先ほどよりもさらに重いデバフが追加。

 頼むから……頼むからこれで満足してくれよ!!

 そう思いながら俺は、トゥオンの切っ先をヴァーユへ向け、その態勢のまま、風に乗ってヴァーユへと――突撃した。

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