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知りませんでしたとさ

 普通、風というのは一方向に吹くものである。

 それが追い風だろうが向かい風だろうが、どちらかからどちらかへ吹き流れるのが風だ。

 ……では、出所が増えて四方から風が――それも突風が吹き荒れた場合どうなるか。

 風と風がぶつかり合って乱風となり、暴れ回る弩風となる。

 精霊たちが作為的に作り出さなければ発生しないソレは、精霊の怒りだと伝えられる。

 人間はおろか、動物も、建物をも吹き飛ばす。

 そんな……暴力。

 それを――。


「作り出そうってのか!?」

「ご主人様! 急いで退避を――」


 出てきた三体の分身と、本体とで俺の四方囲み、先ほどと同様に風を発生させようとしているヴァーユを視認して、シズが警告を出すが。


「一体どこに逃げようって?」


 俺が視線を投げた先には、すでにヴァーユが回り込んでいて。

 ならばと振り返ったところには、分身がすでにいる。

 風に溶け込むという性質上、移動に費やす時間はほぼなし。

 動作すら必要としない移動方法ってのは、ぶっちゃけズルの領域だ。

 俺がシズを『降魔』しているから同じことが出来て文句を言わないだけだ。


 通常四方を囲まれたら逃げ道は無いが、俺も今は風になれるわけで。

 風なんてのが、地に足を付けていないと駄目だなんて縛り付けられているはずもないわけで。

 だったら上に逃げればと考えたが、あからさまに上だけ空いてるなんてむしろ罠じゃね? と思うわけで。

 ならばと取った行動は、俺の左側を固めている分身への突撃だった。

 別に確証があった訳じゃない。けど、分身だったら本体よりも強くないだろうという予想と、他の分身やヴァーユ本体に比べて妙に俺から距離を取っていたから気になった。

 シズを『降魔』した恩恵である風に溶け込んでの移動。

 咄嗟に防御でもしようとしたのか、両手を腕の前に突き出してくるが……。

 

(悪いな……)


 そう思いつつ、股の間を潜って背後へ移動。

 振り返って睨みつけられるが、気にしてられる状況でもないんでな。

 分身の背中を蹴飛ばして三方向からの風へと送り出し。

 直後に分身が霧散したのをみて、絶対に直撃されないようにしようと固く誓う。

 風だよな? 産み出してるのは本当に風なんだよな!?


(風は風でも刃と同義の風ですよ。ご主人様が当たったら輪切りになります)

(シエラとかメルヴィで防げねぇの?)

(――多分防げますけど……出来ます? ちょっとでも失敗したら、腕とか足がさよならですよ?)

(まぁ、最悪防げるようにする。いかに喰らわないかを考えなきゃだな)


 まぁ、普通の風じゃないって知ってたけどさ。

 文字通り必殺に等しい風って、マジでシズが『降魔』してくれてなかったらお陀仏だったな。


「んー。まぁ、下手な小細工するよりこっちのがいっか」


 四方から囲んで刻もうとしたヴァーユは、今度は残った分身二人を連れて空へと飛び。


「えー、本日は晴天なり。しかし、風刃、所により強力な下降気流が降るでしょう」


 俺らを見下ろす格好から、どうやら先ほどの風を降らせてくれるらしい。

 ありがた過ぎて涙が出るね。涙の色は赤だけども。


(言ってる場合じゃないっすよ旦那! 避けるか防げなきゃスライスされちまいますぜ!)

(分かってるよ! 一応聞くけど、トゥオンの作る氷で防げたりしない?)

(多分、無駄っすよ。やってみますかい?)

(ご主人様、氷塊でヴァーユ様の姿が隠れ、見失う可能性があります)

(あー、そりゃ不味いな……。トゥオン、氷は出さなくていいや)

(あいあい。……けど、どうするんすか?)

(どうするって――気合で避ける!)


 覚悟を決めて天を見る。

 来いよ風刃。俺が全部綺麗に避けてやるぜ!

 ……と思ったのだが。

 流石にびっしりと刃が敷き詰められて降って来るなんて聞いてねぇぞ!?

 なんじゃそりゃ! 致命傷の攻撃を絨毯爆撃するんじゃねぇ!!


「トゥオン!!」

「あいあい!!」

「全部食えるか!?」

「任してくだせぇ!!」


 そんな降り落ちてくる風の刃へ、空腹な狼(トゥオン)を振り回す。

 風の刃一つに当たる度、金属音を鳴らしてそれを取り込んでいくトゥオンだったが、流石に全部は処理出来ず。

 それでも大幅に減った風の刃から自身を守る様に、シエラを翳して防御する。


「げふぅっ!?」


 盾から変な声が聞こえた気もするが無視。一度目の風刃の雨を無傷で突破。

 さて、次は何をしてくる?


「あら、てっきり『降魔』を重ねると思ったのにしないんだ?」

「それやって四大の核集めに奔走させちまったんだぞ……。やるわけないだろ」

「いや、私らの核使って作ったあれがまさか人間一人を瀕死から救うだけだとでも?」

「……うん?」

「いや、人間を死の淵から引き戻すなら別に私たちの核じゃなくて、眷属でも代用出来たよ?」

「……マジ?」

「マジマジ。んで、それでも私らの核欲してるから、()()する気だと思ってたのに……違うの?」


 どうやら、ヴァーユ――というか、四大の持つ知識と俺らが持つ知識は同じではなかったらしく。

 ただ回復薬の凄いのという認識だったエリクサーは、他にも効果があるらしい。

 克服? 一体何を?


「生憎そこまで情報は知らなくてな。……何を克服出来るんだ?」

「んー……ま、いっか。エリクサーはね、死にかけた事象を克服するの」

「……死にかけた事象?」

「そ。今回で言うなら『降魔』を重ねて死にかけたじゃん? だから、重ねても死なないように克服された。多分、いくつでも重ねられるんじゃない? 『降魔』を」

「マジか……」


 ヴァーユの口から出てきたのは、信じられない事実。

 けど、不老不死にすらなりうる薬ってメリアが言ってたっけ。

 なるほどな……繋がったわ。


「というわけで、これからは『降魔』を重ね放題。さぁ、見せてみてよ。イフリートが楽しみにするような、人間の可能性って奴を!!」

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