集まったのじゃ
「おー、『土のバカ』じゃん。やっぱり面白い事になってんのねー」
「面白いかどうかはさておいて、稀有な事象にあることは事実であろうな」
「相変わらず面倒な喋り方だし。んで? あんたはなんで……って核渡しに来たに決まってるか」
歩行はなく。滑るようにヴァーユの目の前へと移動したユグドラシルを宿したメリアは、その口からユグドラシルの言葉を紡ぐ。
「『水の字』からは渡されて、『風の字』からもまた渡された。……時に『風の字』よ」
「ん? なぁに?」
まるで妾らなど眼中に無いように――いや、実際に無いのじゃろうが、無視して四大のみで話が進む。
「ケイスが復活した後はどうするか。念のために聞かせよ」
「念のために……ねぇ? ま、いいや。手合わせするよ?」
「その理由を尋ねてよいか? 何を目論む?」
ユグドラシルの懸念は、折角復活させたケイスの命を即狩り取られる事の様じゃな。
実際、ヴァーユがどの程度の強さかは知らぬが、弱いという事はあり得まい。
最低でもユグドラシルと同格なのじゃろうからな。
「別に? だから気分だってば。ちょちょいと手合わせして、興味が尽きたら構うのやめるし、それまでに死んじゃったらそれまでじゃん?」
「だから問うたのだ。何がしたい?」
ヴァーユは登場から今まで何一つ変わらない自分勝手。
自由気ままに、やりたいことをやると言っているだけ。
正直、そこにユグドラシルが突っ込む理由が見えてこぬのじゃが……。
「だーかーらー、気分なんだって!! 手合わせしたいきーぶーんー!!」
「言い方を変えるぞ? 二天は何を知っている?」
ユグドラシルがその質問をした瞬間じゃった。
ヴァーユの纏う空気が……変わった。
しかし、それは一瞬の事で、瞬きの間に空気は元に戻り。
「そっちの二天に聞けばいいじゃん。……なに? 私の核いらないの!?」
先ほどの質問で明らかに機嫌を損ねたヴァーユは、取り出してテーブルに転がる自分の核を持ち上げようとする。
――が、
「悪かった。忘れよ」
ユグドラシルが素直に謝罪したことで、その手の動きは止まる。
「うーっし。じゃあ早速ケイス? って人間の復活ショーをやっちゃってー!」
(なぁ、流石に抗議したいんだが?)
(してもいいが機嫌損ねれば核回収して帰るぞ? そうなればお主はそのまま死ぬだけじゃ)
(大人しくしときま~す。……クソがよ)
本来四大相手じゃと思っただけでアウトなのじゃがな。
四大の分体ではなく、人間に憑依しての具現であるため思考までは読み取れぬようじゃ。
……命拾いしたの。
「まずはケイスの体がなければ始まらん。……今はどこにあるのか?」
「キックスターという男が病院という施設に転送しておる。……詳しい場所は分からぬのじゃ」
「ふむ。……まぁ、大地の上に建てられた施設ではあるのだろう? そんなもの、すぐに探せる」
どうやらすぐにケイスの復活ショーとやらを行うらしいユグドラシルに、ケイスの体のある場所を尋ねられるが、詳しくは知らぬと返せば……。
ならば探すとユグドラシルは息巻いて。
「ああ、見つけた。引っ張って来るか」
ものの数秒で発見したと呟いたユグドラシルは、地面へと腕を突き刺して。
草でも引っこ抜くように。グイッと。
……地面から、ケイスの体を引っ張り上げた。
「えぇ……マジで何でもありなのかよ」
「? 別に不思議でも何でもないであろうに。転送は人間ですら扱える技術であろう?」
「魔法陣もなく単騎でやってるのが人間じゃあり得ねぇって話だよ」
「まぁ、四大だからな。さて、わだつみの核をここに」
ユグドラシルにわだつみの核を取り出せと促され、よく分からずに両手を胸の前へと持って来たスカーレットに。
「きゃっ!? びっくりした!」
突如、青と蒼と碧の入り混じる球体が降ってきて。
突然の事ながら取り落としたりせず、ちゃんとキャッチしたスカーレットは後で褒めねばならんかの。
じゃが、今はそんな事より落ちてきた球体じゃ。
異様な魔力を発するそれが、わだつみの核だと理解できる。
「さて、核をここに」
そう言って自分の核をケイスの胸の上へと動かすユグドラシル。
そこに、落ちてきた核を両手で恐る恐る持っていくスカーレットと、手首の動きだけで投げて寄こすヴァーユ。
ユグドラシルの核に当たる、と、ヴァーユの核を受け止めたのじゃが、その核は非常に『重く』。
思わずよろけてユグドラシルの核へとぶつけてしまう。
――と、
コーーン
という乾いた音が反響しあい、核同士が溶け合うように、その境界線を曖昧にしていき。
「わだつみのもだ」
ユグドラシルから言われ、スカーレットもわだつみの核をユグドラシル、ヴァーユの核へと密着させて。
三つの核が混ざり、溶け合い、形成し、いつしか妾たちの手から離れた核は、宙に漂いその存在を変化させていく。
徐々に徐々に、高度を落としながら。
ゆっくりゆっくり、ケイスの体に近づきながら。
そうして出来上がった蠱惑色の液体は、静かに、ケイスの体へと浸透していった……。




