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引き上げるのじゃ

「セレナ、体は大事ないか?」

「母上、気怠さはあれどそう深刻でもなさそうじゃ。――ただ、少しばかり休息は欲しいのう」


 地に下り次第膝をついた妾を気にかけてくれる母上。

 自分も地に伏しているというのに優しいのじゃ。

 流石母上。


「休息は必要であろうな。……第一、スカーレットが目を覚まさぬ」


 母上の手の上に乗せられたままのスカーレットは、母上の言う通り揺すっても目を覚まそうとはせぬ。

 よもや死んではおるまいな?


「安心せするがよい。死んではおらぬよ」


 と、何やらやることを終えたのかわだつみがこちらへと近づいてきた。


「何故……と問うのは愚問か」

「然り。配下の契約者の事なぞ、もはや分体と同義よ」


 その口からはスカーレットの無事が告げられるが、だからと言って目を覚まさない今の状況が好転するわけではない。

 ひとまずは体を休めることを優先し、休まりスカーレットが目を覚ましてから行動再開かのぅ。

 ……次はヴァーユか。あまり面倒な奴でないといいが。


(セレナ、一つ聞かせてくれ)

(何じゃ?)

(イフリート、わだつみ、ユグドラシル。ヴァーユを除く四大の三体だが、こいつらは面倒ではない奴らか?)

(全員一癖も二癖もあって限りなく面倒な奴らじゃが?)


 妾が一縷の望みを考えておると、その邪魔をするケイス。

 問いかけられたのだから、その問いに答えてやれば、


(じゃあ、残りのヴァーユが面倒な奴ってことは確定じゃねぇか? 他の三体は面倒だけど一体だけは面倒じゃありませんとかちょっと考えられないんだが……)

(ケイス)

(はい)

(たまには期待位はしても罰は当たらんじゃろう?)


 至極もっともで。けれども認識したくない事実を突きつけてきよった。

 ケイスは嫌いじゃ。


「そういえば霊薬を貰っておらぬぞ?」

「心配せずとも渡す。……というよりは、いつでも出せるようにしておいた」

「? どういう意味じゃ?」


 わだつみの面倒さは回りくどさ。

 初めから説明すればいいものを、わざわざこちらの反応を楽しむように、苛立たせるように迂回して与える。


「オオモノヌシと契りし者。そやつが望めば自然に出現する」

「ふむ。……個数は当然一つじゃな?」

「もちろん。複数なぞ核はない。そもそも今回の為に特別にこさえたのだぞ?」


 少しからかい気味に。

 あわよくば困らせたり、慌てさせたりでも出来ないかと思って口にしたが、それ以上の反応を、答えを与えてくれた。

 ()()()()()

 それはつい先ほどかや? それとも、こうなることを見越して予めかや?

 ……ケイス、記憶しておくのじゃぞ?


(だってさ、メルヴィ)

(にい様、たまには、自分で、頭、使う)

(もう年でなぁ……。頭が固くなっちまってんのさ……)


 何やら茶色い風でも吹かせてそうなケイスは無視。

 さて、となると本格的にスカーレットを起こさねばならん。

 一体どこに連れていくか……。


(まぁ、宿屋だろ。……って待て、セレナって金持ってたか!?)

(持ち歩いておるわけなかろう。大体、今回は宿は事前に取ってあるわ。必要になどならぬ)

(いや、どれくらいスカーレットが目を覚まさないかにもよるだろ。これで宿の代金分をオーバーしたら、追い出されるぞ……)

(こんなことなら、妾分の冒険者カードとやらを貰っておくべきではなかったかの?)


 予め取っていた宿。確か宿泊三日分を前払いしておったのじゃったな。

 リミットは三日か。それまでにスカーレットが目を覚ますとよいが……。


(それ貰ってたらお前すら国に使われてたかも知れねぇんだぞ……)


 声だけでわかるケイスのげんなりした顔を想像しながら、もしもの時はどうするかと思考を巡らす。

 ……と、


「何かあれば我の素材を売ればよかろう?」


 あっけらかんと。簡単じゃないか、と。

 思考に入り込んできた母上からの発言は、言われてみれば至極単純な解答じゃった。


「そうか。……では妾も――」

「ダメだ」

「はひ?」


 母上が売るならば妾も、と、口にしただけで母上に凄まれる。

 な、何か妾は悪い事を言ってしまったかの?


「光の眷属が簡単に素材を売ろうなどと考えるでない。力に溺れる人間を産みかねんぞ」

「そ、そうなのかや……」

「我の素材で許容ギリギリ。セレナの素材であれば鱗一枚すら許容を飛び越えるぞ」

「いや、ちょっと口を挟ませて欲しいんやけどな?」


 母上が妾に諭していると、横から控えめに挙手して入ってくる藤紅。

 そうか。まだこいつも居たのであったな。さっさと帰ればよいものを。


「金ならぎょーさん持ってんで?」

「貸しを作って何を企んでおる?」

「誤解やって。うちはゾロアスト様に命令されて渋々あんたらの手伝いせなあかんねや。手を貸せるところは手を貸す。やないと、うちがどやされるんやから」


 ……つまり、藤紅は今は本意ではないが妾たちの手伝いをせねばならぬ……と?

 なるほどの?


「では藤紅。言葉に甘えさせてもらうぞ?」

「へ?」

「取りあえずは食わねばのう。市場の売り物を買い占めるところからじゃな♪」

「いや、わっちの財布にも限度は……」

「取りあえず出回っているポーションや薬は全部試してみるぞ。一刻も早くスカーレットを目覚めさせねばならんからの!」


 妾たちの懐がちっとも痛まぬ便利な財布を手に入れたのじゃ。

 どれだけ泣き言言おうが限界まで絞り出してもらうぞ?


「俺、初めて藤紅に同情してる気がする」

「聖白龍は一体何を考えているでありんす!?」

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