知らなかったのじゃ
ぴきりぱきり。
突き刺さった部分を中心に、笠の表面を氷結させていくトゥオン。
途端にのたうち回り、槍を抜こうと伸びてくる触手に、
「行き止まりどす。迂回を願いますよって」
進行方向に闇が出現し、その闇へと侵入した触手の先端は、黒ずんでボロボロと朽ち果てて。
それを言われた通りに迂回した先には、母上とスカーレットが立ちはだかり。
「対陣営のブレスは喰らったことがあるか?」
「残り時間も少ないから全力で行くよ!!!」
母上はブレスを。そして、スカーレットは虚空から激流を。
……母上はしっかり藤紅を巻き込む角度でブレスを放っているのが何と言うか。――流石とでも言っておくのじゃ。
「さぁさぁさぁ!! 知らない間に序列とか何とか訳わかんないもの出来ちまってますが、元々はあっしの席っすよそこは!!」
「トゥオン……隠さなくなったな」
「結構、頭に、きてる? 多分……」
「頭が冷えた後が見ものだな! HAHAHA」
調子よく凍結の範囲を広げていくトゥオンは、高ぶっておるのか妙な事を口走り始めるし。
それを聞いて恐らくジト目になっているであろうケイスと、フォロー? を入れるメルヴィに煽るシエラ。
「ぐぉぉぉぉっ!! 猪口才な!!」
と、刺さったトゥオンを振り払うように身をくねらせたカリュブディスは、一直線に自分が出てきた荒れ狂う渦潮へと向かい。
「どこへ行くん? まだまだ遊んでや」
回り込んだ藤紅によって、進行方向は黒で塗りつぶされ。
急ブレーキをかけたカリュブディスは……。
「あ゛ーーくそったれが!! 全部飲まれやがれ!!!」
やけくそに渦潮を発生させる。
頭上に、左右に、そして、自分の身体を中心に。
「んなっ!!」
そのカリュブディスを中心とした渦潮に巻き込まれてしまう母上。
マズいのじゃ!
「トゥオン!!」
「はいさ!」
「何とかせい!!」
「ごっそり魔力を貰いますぜ!?」
「持っていけ! 母上を救えればいくらでもくれてやるのじゃ!!」
掛け合いは咄嗟。それこそ、渦に飲まれる母上を見たくないという思いで持ちかけた取引。
その取引の完了を示すように、がっつりとした気怠さが襲ってきて。
これが魔力を大量に持っていかれたことによるものだと気づくのは少しあと。
思わず膝をつき、その膝に霜がかかる頃。
「うっひゃう!! いいっすね!! これだけ魔力がありゃあ旦那の時じゃあ出来ない芸当が出来ちまいますぜ!!」
「トゥオン! 早く!!」
何やら高揚して悦に入っているようじゃが、現在進行形で母上は流されておる。
一刻を争うのじゃぞ?
「分かってますって! ……『氷獄』!!」
瞬間じゃった。視界が白に染まったのじゃ。
「――は? 何が起こってん?」
「トゥオンの魔法の筈じゃが……これは?」
藤紅が説明を求めてきて、それに対し妾は可能な限り自分の知っている情報を渡す。
それでも……それでも。
トゥオンを突き立てたカリュブディスはおろか、周囲の渦潮も。
母上やスカーレットでさえも氷漬けになっていて。
何故妾たちは無事なのかと一瞬思うが、それよりも母上じゃ。
「トゥオン、母上を救えと――」
思わずトゥオンへと怒鳴ろうとしたとき、凍っていた母上が氷を砕き、渦潮の中から脱出する。
ついで、スカーレットも氷が解けるが、すでに『青頭巾』の時間が終了しており気を失っている様子。
身動き一つせぬままに落下していくところを、渦潮から脱出したばかりの母上にキャッチされる。
いや、無事ならいいのじゃがな?
「凍結した空間はあっしの領域。凍らすも解除するも全部あっし次第。これがあっしの最終兵器、『氷獄』っす」
「原理が分からん……が、倒せたのかや?」
どや顔で説明してくるが、残念ながら四大や二天の力を知っておる妾にはそこまで凄いとは感じられぬぞ?
精霊が扱っていい能力ではないのは分かるがの。
「どうっすかねぇ。一応抑え込めたようですけど」
確かにカリュブディスはピクリとも動かぬし、渦潮も完全に凍結しているようじゃ。
……しかし、何故に藤紅まで氷漬けなのか。
「藤紅は今この瞬間は一応仲間の様じゃぞ? 何故に氷漬けに?」
「え? ――ハッ!? 今まで散々されてきたせいで自然に敵って認識してたみたいでさぁ。すぐ解除します」
と、パキリと音を立てて藤紅が氷から解放される。
顔が真っ青じゃが大丈夫かや? 別にくたばるならくたばるで構わんがの。
「あ、焦った……。まさか水属性の魔法で死にかけるとは思わんかったなぁ……。いや、というかこれ水属性よな? なんや不安なんやけど……」
ふむ、話を聞くにもう少しで藤紅を倒せたのか? だとすればもう少し解除させるのを遅らせれば良かったやも知れん。
まぁ、氷じゃし水属性じゃろ……。
「え? あっしは闇属性っすよ?」
「はぁっ!?」
「いや、水とか一切扱えないんで」
「いやいや、氷は水が凍ったものじゃろ? ならば水を出し、凍らせているという事でそれは水属性では……?」
「あっしに出来ることは『奪う』事。氷は温度さえ奪えば空気中から出来ちまいますぜ?」
何やら重大な事実を聞いた気がするのじゃ……。
あれだけ氷塊を出したり、凍らせたりしておったのに水属性ではないとは……。
――と、そんな時、
「だあああああぁぁっっ!! クソ! クソ! クソ野郎がぁっ!!」
氷漬けになっていたカリュブディスが、自ら氷を砕き、動き始めたのじゃった。




