怪しい動きなのじゃ
「口調も変わっちゃってるしどんな豹変ぶりよ!?」
「全く、お主が余計なことを言わなければ戦わずに済んだかも知れぬのに!」
「いいから避けよ! 巻き込まれればおよそ無事ではすまんぞ!!」
カリュブディスの投げた渦潮を回避しながら、スカーレットへと愚痴る。
本当に余計なことを口走りおって……。
とはいえ投げられた渦潮はそこまで早い速度ではないし、回避は難しくは――、
「爆ぜよ」
などという考えをしていれば妾たちの傍を通った渦潮は、カリュブディスの言葉に反応しその場で飛散。
妾たちに向かって数多の水飛沫となって襲い掛かってくる。
たかが水飛沫だと喰らうわけにもいかんとシエラを構えるが、
「ちょっ!? 待って!! 私は魔法耐性ねぇんだって!!」
と喚かれ引っ込めるしかなく。
眼前に迫る飛沫をどうするかと悩む前に、盾ではなく槍で――トゥオンでせめて顔だけでもと防御を計る。
すると――、
「あっしも魔法耐性高くないんですけどねぇ……。相手が水なら話が違いまさぁ」
と言って飛んできた飛沫を統べて凍らせ。
速度も殺してそのまま氷塊を落下させる。
……トゥオンとはもしや凄い武器なのかや?
「む……。その力はフェンリル……だったか? わだつみの力を何故?」
妾の問いはカリュブディスの言葉で解けたわ。
ほぅ。わだつみの力……のう?
(トゥオン、何か言う事はないか?)
(えぇとですねぇ……き、聞かれなかったんで……)
(通用するかよ……。ていうかトゥオンがわだつみなら他の装備は? どうせそれぞれ四大だかの力なんだろ?)
(ノーコメント)
(まだ、早い)
(ご主人様、いずれ明かしますので……)
装備内で話しているのは無視し一先ずは礼を言うぞトゥオン。
カリュブディスよりも序列が上のわだつみの力というならばトゥオンはこの場で言うジョーカーじゃな。
オオモノヌシの序列が気になるところじゃが、カリュブディス相手に即負けするような序列ではないじゃろう。
うむ、勝てそう……かの?
「んじゃあこういうのはどうだ? 《白驟雨》!!」
なんて考えを起こした矢先、カリュブディスは漂う渦潮を上へと移動させ、渦潮の範囲を広げていく。
……何をしようというのじゃ?
「全員、渦潮の下から離れてくだせぇ!!」
と、トゥオンの警告が発せられ。
それに従って宙を蹴れば、さらに渦潮を一つ追加して範囲を広げてくるカリュブディス。
「何が起こるというのじゃ!?」
「広範囲にダメージのある雨をばらまく気っすよ!!」
「冗談でしょ!?」
カリュブディスが何をする気か、トゥオンが教えてくれる……が。
そんなことをされてしまえば正直大人しく食らう以外に無いと思うのじゃ。
ん……? 待てよ?
「セレナ様? 何を考えています?」
「トゥオン、さっきやったあ奴の水を凍らせる術、いつでも可能かや?」
「へ? まぁいつでも出来ますけど……流石に降ってくる雨を全部凍らせるってのは無理ですぜ?」
妾の目論見を察したかトゥオンが不安そうに聞いてくるが、残念ながら今の状況を打破するにはこれくらいしか思いつかんのじゃ。
「分かっておる。雨をどうこうするとは考えておらん」
「じゃあ何を?」
それはもちろん……こうするのじゃ!!
「ちょっ!? 投げるんですかい!!?」
雨がどうこう出来ぬなら、雨を産み出そうとしておる渦潮をどうにかすればよいのじゃろう?
ならばその渦潮にトゥオンを突き刺せば、今の状況はクリアーじゃろう?
「防げば問題ないではないか」
もちろんそれをカリュブディスが黙ってさせるとは思ってないが、妾の行動に釘付けになっているならば母上やスカーレットから意識は逸れる。
「こっちだ!!」
「隙しかないし!!」
となればそれを逃す筈もない母上とスカーレットはそれぞれに攻撃を仕掛け。
母上はブレスを、スカーレットは水刃をカリュブディスへと集中させる。
妾が渦潮に投げたトゥオンを防ぐか、自分に向かってくる攻撃を防ぐかの選択を迫られたカリュブディスは……。
まず脅威となり得ると判断したトゥオンを防ぐ為に動いた。
――が、トゥオンを何か知らん為のその行動は、残念ながら大外れじゃ。
妾が呪いを一時的に解いているから思い通りになる呪いの装備は、妾の手を離れた瞬間に元の主の場所へと移動しようとする。
それが肉体の方か、精神の方か確証はなかったが、妾へと来ないあたり肉体に戻るようじゃの。
結果、本来の軌道を描かないトゥオンはカリュブディスの思惑とは当然異なり。
戻るトゥオンを移動してキャッチしながら、母上とスカーレットの攻撃を受けるカリュブディスを確認。
身をくねらせるカリュブディスからダメージの気配を感じつつ、妾は当初の目的の渦潮へとトゥオンを突き立てに動く。
――が、
「予定変更だクソが!! 呑まれて潰れろ!!」
カリュブディスの怒号が聞こえ、それまで雨を降らさんと範囲を広げていた渦潮は――。
ゆっくりと地面へ向けて降下を開始した。
その範囲に、妾はおろか母上とスカーレットもしっかりと捉えたうえで。




