精霊にも色々あるそうなのじゃ
「何じゃ、話せるのか」
「いきなり攻撃してきたのはそちらだろう? 対話の意思無しとみて反撃したが、まさかと思い問いかければ反応ありときた。一体全体何がしたい?」
「わだつみからの頼まれ事じゃ」
「そうか。ならば語ることはない。帰るがよい」
もしかすれば説得できるやもと期待したのじゃが、期待した妾がバカだったようじゃな。
そもそもわだつみの命令を無視している以上、妾たちには取り付く島もないといったところか。
「待て。なぜわだつみの命令を無視するか、理由だけでも聞かせよ」
「命令……命令か。あのようなものは命令とは言わぬ」
「何を言われたのじゃ?」
母上が理由を尋ねれば、命令の内容には触れずに憤慨するカリュブディス。
これはあれじゃの。実は構ってほしくて、聞いてほしくて触れなかった腹じゃの。
妾は親切だから聞いてやるが。
「序列を明け渡せとのことだ」
「序列とな?」
「そうだ。精霊にも序列がある。当然一番上は四大や二天、唯一などのその属性の天辺だが、我は序列二位であった」
「それを譲れ……と?」
「そうだ。来る日が近いと一方的に言い、オオモノヌシにこの座を明け渡せと言ってきたのだ」
何じゃ、何事かと思えばようは誰が偉いかの争いかの。
正直な話、そんな序列で何が変わるとは思えんが。
「その序列って奴は、どんな旨みがあるの?」
妾と同じ疑問を持ったらしいスカーレットが尋ねる。
「序列の順序は基本的に絶対だ。今回の様な理不尽な要求以外は、拒否権がない」
「結構好き勝手に出来ちゃうって事?」
「有体に言えばそうなる。――が、精霊が精霊に対してなど無茶な要求はほぼしない」
「ちなみにそれだけなのじゃ? 聞く限りでは別に明け渡しても支障はないように思えるが……」
「否! 序列を退くという事は、その存在は序列から外れるという事だ」
「それはまぁ、そうじゃろうが」
「この序列というのは精霊全てが関わっている。その序列から外れることは、精霊として認められないことと同義だ」
そこまで聞いて、ようやくカリュブディスがわだつみの命令を拒絶した理由に納得がいった。
他の精霊の為に――オオモノヌシの為に精霊でなくなれ、という存在そのものを否定されたから怒っているのじゃな。
……となればなぜわだつみがそのようなことを言い出したかを考えねばならんが――。
(ケイス、何ぞ心当たりはないかや?)
(俺に聞くのかよ……。まぁ、理由についてはわだつみ自身が「来る日が近い」って言ってるらしいし、その『来る日』ってのが分かれば簡単に分かるんだが……)
(ほとんど情報が無いようなもんですからねぇ。……ちなみにセレナ様はその『来る日』ってのに心当たりは?)
(あるわけないのじゃ。あったらとっくに伝えておるわ)
(ですよねぇ。……とりあえずカリュブディスに聞いてみてはどうですかい? 何か心当たりはないか、と)
(そうじゃな。そうさせてもらうのじゃ)
とりあえず何か引っかからぬかとケイス達に問うたが、流石にここまでの情報だけでは分からぬらしい。
というわけでトゥオンの提案通り、カリュブディスへと問いかける。
「序列を譲れと言われた理由に心当たりはあるかや? 具体的には『来る日』というものがどんな意味を持つのかに心当たりは?」
「あるわけがない。あったら納得して序列を渡している」
「そうか……」
そうよな。そうであるよな。
つまりわだつみは正当な理由なく、あるいは正当な理由を伝えずに序列から追い出そうとしているという事じゃ。
果たしてそれにどんな意味があるというのか。
「うん? 待て、何故オオモノヌシの気配がしやがる?」
妾が考えていると、漂っていたカリュブディスが途端に不機嫌になりそんなことを。
オオモノヌシの気配と言っても、あやつがここにいるはずも――。
まさか……『青頭巾』に反応しているのではあるまいな!?
いや、ありえる。あり得るのじゃ。せっかく話をするまでにこぎ着けたのじゃ。ここからまた戦闘などとは――、
「あ、それ私かも。今のこの姿がオオモノヌシの力の一部だし」
ああ、スカーレットよ。何故にここで最悪の選択肢を選んだのじゃ……。
「ほう。オオモノヌシの力の一部か」
まずい。先ほどまでと態度が一変しおった。
カリュブディスを取り巻く渦潮は流れを早くし、触手は妾たちを囲むように伸びてきおる。
一体何を――、
「ならばその力を取り込めば、オオモノヌシの力も取り込めるのだな!!」
途端、スカーレットに向けて殺到する触手たち。
しかし、
「させるわけがない!!」
その触手たちを母上が横から翼で打ち払い。
カリュブディスへ向けてブレスを一発。
そのブレスは、カリュブディスを取り巻く渦潮へと命中し、その中へと取り込まれていく。
「どんな攻撃も渦に飲まれりゃそれまでよ。わだつみの頼みと言っていたな? それがどんな頼みかは知らんが、俺は貴様らの話など二度と聞かねぇぞ!!」
完全に妾たちと敵対する意思を示したカリュブディスは、自分の周囲を漂う渦潮を一つ掴むと。
それを妾たちへ向けて、思いきりぶん投げてきたのじゃ。




