何やら貰ったのじゃ
「この時期にアニッセムに行きなさるのか?」
宿を確保し、アニッセムがどんな場所かという情報を集めようと町の人へと話を聞くことに。
まぁ、宿の確保も、情報集めもスカーレットがやってくれたのじゃがな。
そうして情報を集めようと、釣りをしておった老人へと声をかけてみれば、あんな場所に本当に行くのかと目を丸くされる。
「時期が悪いんですか?」
「悪いも悪い。元々あの場所は年中渦潮が発生する荒れた場所じゃ。しかし、今の時期は気温のせいか、それとも潮の影響か、普段は複数発生する渦潮が一つに合体するんじゃ」
「合体すると危険であるのか?」
老人が危険な理由を述べるがピンとこん。
母上も同じだったようで、即座に質問をする。
「そりゃあ危険よぉ。流れが速いしそのせいで打ち付ける波もデカい。崖に立てば即座に飲まれるほどじゃよ」
「そっか。ありがとおじいちゃん」
「ほんで、行きなさるんか?」
「うん。どうしても行かなきゃいけない理由があるから」
「そうか。……まだ時間はあるんじゃろ?」
「そんなすぐには行かないけど……」
欲しい情報は聞けたと、礼を言って会話を打ち切ったスカーレットじゃったが、老人の方は何やら用があるようで。
「ちぃと待っとれ」
そうだけ言って竿を畳み、どこかへと歩いて行った。
「なんだ?」
「分かんない。けど、何か持ってきてくれるんじゃないかな? それが家にあるから取りに行ってくれてるとか?」
「ふむ、『何か』とは例えばどんなものじゃ?」
その目的が見えず、あくまで仮説でしかないが、それをスカーレットは口にして。
「地図とかならうれしいかな。……後はあんまりピンとくるものはないかも」
等と言っている間に老人が戻って来る。
その手には、何やら筒のようなものが握られていて。
「元々はこの時期になると町の連中全員でアニッセムへと捧げものをしとった。もう誰もせんくなってしまったがな」
そう説明し、その筒をスカーレットへと突き出した。
「これは?」
「牛の角を加工した物じゃ。本来はお守りで、危険から遠ざかる効果があるとされておる」
「それをどうして私に?」
「前にお嬢ちゃんと同じように、この時期にアニッセムに向かった者が居たんじゃ。すぐに戻ってきて、「自分以外にもあの場所へ向かう人が居たら、これを渡してほしい」と言ってわしにこれを押し付けてきての」
遠い記憶を懐かしむように、目を細めて遠くを見た老人は、
「わしにはお嬢ちゃんたちが何をしようとしているか、どうしてアニッセムに行くかは分からん。だが、こうしてわしにこれを預けたあの青年は、このことを見越していた気がするんじゃ」
ゆっくりゆっくり。手繰り寄せた当時の記憶を言葉にする。
「ありがたく受け取るぞ」
「危ないと感じたらすぐに戻って来るんじゃよ」
「うん! ありがとね!」
妾がお守りを受け取り、スカーレットがお辞儀をし、母上が手を振って。
思わぬ収穫を手に入れ、妾達はアニッセムへと向かった。
*
「……何これ」
「想像の何倍もひどいのう」
その後も正確な場所を確認するために町の人へと話を聞いて、聞いたとおりに向かってみれば、アニッセムが見下ろせる崖へと到着した。
都合がいいとそこから見下ろしたアニッセムは、入り組んだ地形故に終始強風が吹き荒れており、渦潮によって岸へと波が毎秒打ち付けられて。
その渦潮に捕らえられてはあらゆる生き物は為す術もなく引き摺り込まれること必至というのが伺えた。
「あの場所に『カリュブディス』ってのが居るんだよね?」
「その筈じゃが?」
「無理じゃない? 崖に立ったら飲まれるよ?」
「かもしれん。が、『カリュブディス』を何とかせねば、ケイスが死ぬぞ」
「正直、私はケイス死んでも特に――」
「お前はよくても俺が困るんだよ!! お前が手を抜いたら化けて出るからな! 夜中のトイレとかの時に!!」
「滅茶苦茶嫌なやつやめて! ていうかそれくらいで済むんだ……」
まぁ、諦めたくもなるのも分かるのじゃが、もう少し考えよ。
取れる手立てはいくつかあろう。
「現状で出来そうなことを挙げ、その中から一つ選択して実行するというのはどうじゃ?」
「諦める。以上」
「わだつみがわざわざ送り出したのだ。汝は必須であろうから却下」
「忘れているようじゃが我等は竜じゃ。もし逃げなんだら貴様の町を焼く」
「ひどっ! 流石に逃げないってば」
「はぁ、発言いいか? 一番手っ取り早いのはセレナかハウラがあの渦潮にブレスぶっ放すことだと思うんだが」
初手でふざけた回答を寄こしたスカーレットへ、本気の脅しを突きつければ観念したかようやく真面目な顔になり。
その事を確認してか、ケイスが雑な提案を我らに発表。
「それで何の解決になるのじゃ?」
「いや、ああいった類って大体渦の下に居て、引き込まれたもの食ってるとかじゃね? だったら、そこに遠距離攻撃をぶち込んでみればいいわけで」
「なるほどの、一理ある。……じゃが、それならば別にブレスでなくてもよく、今試してみた方が早い」
考えを聞いて納得したので、そのプランをまずは試してみるとしよう。
ケイスの呪いの装備は一式持って着ておるし、誰じゃったか……。
「シズ……じゃったか?」
「? ……あ、はい。私ですか?」
「うむ。ほれ、暴風の魔法があったじゃろ? あれの一番威力高い魔法を渦潮の中心へとぶっぱなすのじゃ」
「分かりました! ……威力が高すぎて海峡が壊れそうなんですけどどうしたら?」
「加減せよ!!」
「はい! 《風断『天羽々斬』》!!」




