乗り込みに行きましたとさ
「スマン。古ぼけ過ぎてよく分かんねぇわ。要約してくんね?」
「む、そうか。まぁ簡単に言うと、だ。50年だか前にも同じように町一体が濁った霧に包まれたそうだ。その時は2か月にかけて続いたと記録にある」
突っ返した記録を俺の代わりに要約してくれるご老人。こういう記録簿とかってさ。妙に固く書かれているから苦手なんだよな。
「その時はどうやって事態が終息したんだ?」
「記録だとその辺は残されておらん。期間と症状と応急処置程度じゃのう」
意外に役に立たねぇな。まぁ過去にもあった事。んでもって、症状が把握出来た事はプラスか。
それらを元に再度情報収集だな。
「爺さんは当時の記憶とか無いのか? 50年前なら覚えてるだろ?」
「生憎、当時は冒険者として動き回っておったわ。スマンのう」
僅かでもと思って聞いたが、まぁ、そうだよな。
「ありがと、爺さん。何とか解決に向かうよう努力してみるわ」
「一刻も早く頼むぞ。儂もいつ発症するか分からん」
「そういや爺さん何とも無いのか?」
「若いもんとは鍛え方が違うわ! これっぽっちで倒れるわけにゃあいかん」
膝を叩いて笑う丈夫な老人にお礼と別れの挨拶をし、外へ。
さて、やる事は決まったな。
「一体何するつもりですかい? あまり有益な情報は得られなかったと思いますがね」
「記録に似たような事が残されてたんだ。だったら、他にも記録してある物があってもおかしくない」
「んで? その当たりは付けてるんだろうな? 相棒」
「じゃねぇと自信満々に言うかよ。けど、まぁ気は乗らねぇな」
「ご主人様、一体どこを探すおつもりで?」
「んなもん決まってらぁ! この街の――」
「この街の、統治者の、所。そこなら、過去の記録、ある筈」
メルヴィさん? 何でわざわざ俺の言葉に被せて言っちゃいます? しかも結構俺ドヤ顔してるんだけど? 滅茶苦茶恥ずかしいんだけど?
「口布とゴーグルで隠れてるから大丈夫でさぁ」
フォローありがとう、トゥオン。けど、あんまり嬉しくないな。
「けどさ、相棒。統治者の所に行くって、結局前の選択肢のその4まんまじゃねぇの?」
「確かにそうだが、その時とは確実に今の状況は違うからな。今は過去の記録があったって情報を持ってる。そもそも街の統治者として何かしら動いている筈なんだ。だから、それのお手伝いをしてやればいい」
「その為に記録を見せろ、と統治者に言い寄る気ですかい? 素直に応じるとは思えませんぜ? 第一、忘れてませんかい? これまでの冒険者は、風の魔法って切り口から調べて、街の統治者の関与の可能性を暴いた時点で皆閉口したんですぜ?」
すでに歩みは、統治者の居る館に向かっているのだが。……確かにトゥオンの言う事も最もだ。
だからこそ言わせて貰おう。
「それで統治者がちょっかいかけて来るってんならぶん殴って知ってる事洗いざらい吐かせればいい。素直に応じてくれるならそのまま情報をいただける。――どうだ?」
「どうだも何も、それ、直接押し掛けるのと大差ねぇと思うぜ相棒」
「揺さぶら無いと知らぬ存ぜぬで追い返されるだろうが! 話聞いてたか?」
全く、これだからこいつらは。
「何であっしらひとまとめで幻滅されてるんですかい? 流石に抗議させてもらいますぜ?」
「シエラ、と、まとめ、られるの。……不快」
「お前ら覚えてろよ。あと相棒もな! いつかぜってぇ仕返ししてやる!」
「まぁ! シエラがぐれて、ご主人様に楯突いていますわ!」
「元々盾だろ、こいつ。……統治者の屋敷に着いたから気を引き締めろ。シズ、いつでもWWとSW発動できるようにしておいてくれ」
流石に何も準備をしないなんて自殺行為はする訳にはいかない。
「んじゃ、行くぞ」
屋敷に歩み寄り、
「何者だ!? 止まれ!」
門番に止められた為素直に止まり、門番へと返す。
「統治者に取り合って貰えねぇか? この霧について話があるんだが?」
「こちらも目下原因究明に奔走中だ。それらの話は他の冒険者からも来ている。そっちで手を組み捜索に当たれ」
「手伝うとか言い出すわけじゃ無いんだ。ただこの屋敷にありそうな過去の記録をちょーっと調べさせてもらいたいんだけど?」
「――――。確認してみよう。ここで待っていろ」
僅かに空気を飲み込む音が聞こえたけど、隠せたと思ってんのか? 明らか動揺してやがんな。
……トゥオン。俺の思考を全員に繋げろ。
「合点承知の助」
(シズ、両方の魔法発動しといてくれ。胸騒ぎしかしねぇ)
(かしこまりました)
足に魔力が集まるのを確認出来たのと同時に、屋敷の奥から俺目掛けて大量の矢が飛んで来た。