呼び出したのじゃ
これ書いてるときはまだ大丈夫だけど、今回の台風はマジでヤバイっぽいです。
更新止まったら色々と察してください。
普通に更新してたらこれまで通りよろしくしてくださいね。
「取ってくれぬかや? って、出来ないと思うんだけど……」
妾の頼みに、否定から入るスカーレット。
何故試してもおらんのに出来ないと考えるかのぅ。
「まずはやってみよ。……と言っても、流石に媒体が無いと出来ぬじゃろうし、あの水晶はどうしておる?」
「祠に厳重な封印をかけて置いてるよ? あれが必要なの?」
「無いよりはあった方がわだつみとコンタクトを取りやすくなる筈じゃ」
ひとまずは僅かでもわだつみと接点が出来る様、所縁のアイテムを間に挟んでみるのじゃ。
それでダメなら、オオモノヌシを体に宿してから再度試してもらうかの。
「じゃあ、祠に行ってみよっか。……意識がないメリアはどうする?」
「どこかしらで目を覚ますじゃろうし連れて行くのじゃ」
ユグドラシルが体から抜けて、力なく地面に横たわっているメリアを見ながらスカーレットが尋ねてくるが、置いていくわけにもいかんじゃろう。
そこまで重いわけでもあるまいし、妾が運ぶとしよう。
*
「んで? 水晶を持って来たはいいけどこれからどうするの?」
「ちと呼びかけてみる。静かにしておれ」
祠から水晶を持ち出してきたスカーレットは、水晶を妾達の前に置き。
その水晶へ、語り掛ける。
(海の由来を知りしものへ、妾は問う。……汝を降ろす際に必要なモノとは何ぞや?)
(――この身具現させるには、儂の存在を示す道具を晒せ)
(汝が配下に授けし水晶はある。他には何が必要か?)
(――確認した。ならば一つ、汝が持つ槍を掲げよ)
槍? ……槍とな?
――トゥオンの事か!?
何故に今トゥオンが出てくる!?
(やー、あっし元々わだつみ様の眷属だったんすよねぇ……)
(マジかよ!?)
(初耳じゃの)
(誰にも言ってなかったっすからねぇ……。まぁ、ハウラ様は知ってたみたいっすけど?)
(知っていたというか、トゥオンを封じたのは我ぞ)
激しく気になる事を母上が口走った気がするが、そんなことを気にせずにトゥオンを水晶へと翳す。
……すると、突然ありえない現象が起こり始めた。
まずは雨。それも、堰き止めていた川を解放したときのような、視界が潰れるほどの豪雨。
そして、豪雨の筈なのに、なぜか妾達の体に雨粒が当たることは一切なく。
その豪雨を斬り裂いて、妾の何倍もありそうな剣が、水晶目掛けて落下してきた。
――しかし、その剣は水晶を貫くどころか傷つけず、水晶に剣の切っ先が触れる寸前で、ピタリと落下が止まっていた。
そんな剣を目標に、天から身をくねらせて、ゆっくりと降りてくるのは水色の竜。
オオモノヌシを何周りも大きくしたような、強大な威圧感を持つ存在。
それは剣へと巻き付くと、髭を雨に濡らし、風に揺らせながら口を開く。
「儂を呼んだのはそちらか」
湖に水滴を落としたような、静かな声。
浸透するように発せられたその声は、思わず目の前の竜から発せられたものとは思えないほど。
そのせいで、返事が遅れていると……、
「用がないならば帰るぞ?」
拗ねて帰ろうとするわだつみ。
「ま、待つのじゃ。呼んだのは妾じゃ」
「であれば早う返答せぬか。寂しいだろうが」
何であろう……、イフリートも中々な正確じゃと思ったが、わだつみも負けず劣らずって感じじゃな。
……ヘイムダルがああなのを考えれば、この程度はまぁ許容なのじゃがな。
「申し訳ない。……さて、貴方をお呼びした理由についてだが」
妾の代わりに詫びを入れ、早急に本題へと入る母上。
「ああ、よい」
「? よい、とは?」
「ユグドラシルより聞いている。霊薬が欲しいのであろう?」
何事かと思ったが、どうやらユグドラシルが先に根回しをしてくれておったみたいじゃ。
それならば話は早いかと思った……が。
「その答えは却下だ。残念だが、例えどんな理由があろうと、相手が誰であろうと渡す気はない」
無下に断られる。
「理由を……聞いても?」
しかし、スカーレットがわだつみに尋ねると、態度が一変する。
「おぉ、お主が新たな契りし者か。めんこい子じゃ」
まるで肉親のような丸みを帯びた口調で。
スカーレットへと語り掛けるわだつみは……。
突如として光を放ったかと思えば、巻き付いていた剣もろともその姿を人の姿へと変えよった。
白い髭を伸ばし、白い紙を束ねた老人。
それが、わだつみの人の姿の印象。
ただその姿からは、隠しきれない威圧感が放たれているし、何なら竜の姿の時よりも、気配はずっと凝縮されていた。
「聞けばお主らは人間を助けるために我らの霊薬を欲しているという。……それに応えんと霊薬を渡す約束をしたユグドラシルもユグドラシルよ。儂らが個人に肩入れなど絶対にしてはならん事」
「その割にはスカーレットへの対応は俺らとは違うみたいだが?」
「当然。契りし者の家系は代々の付き合い。いわば関係者。対応が変わるのも不思議ではなかろう」
どうやらユグドラシルほど簡単に霊薬は渡してくれそうにないの。
……そもそも渡す気はないと最初にしっかりと言われてしまっておるが、渡してもらわねばケイスが復活せぬからの。
妾は一歩も引く気はないぞ?
「その契りし者が契れるようにと奮闘した者を復活させるために必要なのじゃ。考えては貰えぬじゃろうか?」
「そのような事、知っておるわ。……もちろん無理だ。そもそも前例がない。それこそ、かつての英雄すらも儂らの霊薬を欲するようなことはなかったぞ」
「英雄?」
聞き慣れない単語らしく、ケイスがわだつみへと聞き返した時、妾達のすぐ隣で、爆発的に膨れ上がった気配と、焦げるような匂いが発生したのじゃ。
昔の話も少しづつ出していきたい今日この頃