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来るとは思いませんでしたとさ

大体作戦を立てて、上手くいった試が無いんですよね……。

「面白い事言うな?」

「? 人質取って脅迫するんが面白い事かえ?」


 恐らくはどこかに隠れていたのであろうメリアを探し出し、それを盾に俺らへと交渉を持ちかけるのは、確かに筋が通っているかもしれない。

 ――だが、だからこそ不自然だと、俺は感じた。

 『狼狐妖(ろうこあやかし)』という二つ名を持ち、二天精霊、闇を司るゾロアストの眷属。

 そんな存在の藤紅が――真正面からではなく、これまでも不意打ちや待ち伏せ等を行っていた藤紅が。

 人質を取るという、素直な手を使うのが、とてつもない違和感があった。


「あんまりあんたの事は知らないが、余裕が無さそうに感じるぜ?」

「知らんなんて酷いわぁ。うちをあんなに手のひらで遊ばせといて……」


 顔だけで泣くふりをするが、メリアの首筋から手は離さない。

 いかに人質が不自然で、他の所に罠がある可能性がありはすれど。

 そもそもとして、メリアは死なせてはならないことは確実なのだ。

 ……だからこそ、俺らは従う必要がある。

 ――この時までは、そう考えていた。

 ――だが、


「私の体に気安く触れるでない」


 メリアの口から発せられた言葉は、声は。

 別段何の対処をせずとも大丈夫だと、俺とセレナが理解するには十分で。


「ねぇ、ケイス。精霊入れただけじゃあ、メリアちゃんは対応出来なくない?」


 傍にいて俺に耳打ちをするスカーレットは、知らないせいで、今の状況を理解できていない。

 メリアの首に手を当てる存在が、何なのかを。

 そして……今メリアの()()()()()()()()()が一体どんな存在なのかを。

 そして……、


「嘘……であろう?」


 そのメリアの中の精霊に覚えがあるのか、信じられないという顔でメリアに視線を向けるハウラと、


「お前が動くなんて珍しい事もあるもんだなぁ……。えぇ? 『土の』!」


 驚愕ではなく歓喜の表情を向け、メリアへと話しかけるイフリート。


「ふん。貴様がそれだけ力を解放すれば、気が付かぬ訳がなかろう、『火の字』よ」


 そんなイフリートの前に、いつの間にか藤紅の拘束から抜け出したメリアはゆっくりと歩いていき、


「どうだ? 手合わせなら久しぶりに相手になるぞ?」


 誰もが驚愕する言葉を……言い放った。


「っちょ、待つでありんす! 一体何が起こって――」

「黙ってろよ紫の狐! 今こいつの中にはユグドラシルが入ってんだからよぉ!!」

「煩ければ口を枯らすか? 体を朽ちさせてもいいな」


 突然の事に訳が分からないと騒ぐ藤紅だったが、メリアの中の存在をイフリートに言われ、挙句にはその存在に脅されて。

 嫌が応にも黙る以外の選択肢はなくなってしまう。

 何せ、四大精霊というのは本来、どうしようもない存在であるハズなのだから。


「……ケイス、ユグドラシルってマジ?」

「マジだぞ。前に分体と会ったことがあるが、あんな声だったからな」

「会ったこと……あるんだ」

「しかし人間に入るとは妙な。……いや、あの小娘には関連の精霊の核が埋め込まれた過去があるのだったか」

「ついでにその騒動の解決に妾もケイスも奔走したからの。……恐らく、その恩返しも兼ねておるんじゃろ」


 いつの間にか寄ってきたハウラとセレナが、そして、元から傍にいたスカーレットが思い思いの事を口にする。

 まぁそれでも、視線は常にメリアを見ているし、視界の端には必ず藤紅を写すようにしていて、警戒は解いていないんだけどな。

 それでも、四大精霊同士の戦いという、見たことあるやつの方が稀。

 どころか、数える程すらいない可能性すらある出来事が目の前で起ころうとしている。

 その事実に、ほんの少しだけ……ワクワクする。


「紫の狐よぅ? 下手に動かねぇ方がいいぜ? 珍しく『土の』がやる気みてぇだ。変な動き見せると土塊に変えられちまうぜ?」

「うっ……分かってるでありんす」

「黙って見ているならばそれでよい。……構えるか?」

「必要ねぇ。いつでも来いよ」


 よもや自分側のイフリートかから警告されるとは思わず、しかしそれ故に素直に従うしかなくなった藤紅を一瞥すると。

 ユグドラシルはイフリートへと向き直る。

 方や筋骨隆々で炎を纏った大男。

 方や老婆とも青年にも見える、あらゆる見た目が相反する存在の不思議な人物。

 体格では圧倒的にイフリートが上だ。

 が、俺はユグドラシルの力を欠片とはいえこの目で見て、肌で感じた。

 もちろんイフリートの力も先ほどまで感じていたわけで、どちらがぶっ飛んでるかと言えば……間違いなくユグドラシルだった。


「では、遠慮なく」


 そう言った直後、イフリートの足元は異常なほどに隆起して。

 そこから逃げようと飛ぼうとすると、左右と後ろの土の壁が出現。

 仕方なく前へと跳ぼうとしたイフリートに、大量の土の(つぶて)が襲い掛かる。

 そんなのが当たった程度で――そう思っていた時期が俺にもありました。

 実際イフリートもそう思ったのか、体から溢れる炎の勢いを増し、腕で顔をガードしながら突っ込んだのだが……。

 ユグドラシルの放った礫は、イフリートに触れる直前、爆発を引き起こした。


「私とお前では絶望的に相性が悪いのは知っているだろうに」


 その爆発に吹き飛ばされた訳でも、仰け反った訳でもないのに、イフリートはがっくりと膝をつく。


(何したんだと思う?)

(恐らくじゃが精神力……お主ら人間で言う魔力や気力、体力の複合みたいな力じゃな。それを直接削り取ったと思うのじゃ)

(あ、セレナちゃんでも確信は無いんだ?)

(四大以上の操る力は理不尽そのもの。我らとて理解が及ばぬところにある)


 なんて、脳内会話で解説よろしく二人の状況を聞いていると、


「だからどうしたよ。……まだ俺はこれっぽっちも本気出してねぇぞ!!」


 怒髪天という言葉が似あうほどに。

 一目でブチ切れていると分かる表情で立ち上がったイフリートからは、天へと昇るほどの炎が、燃え上がっていた。

ユグドラシル「火の字の奴が暴れすぎて煩いから少し黙らせて来るか」


現実世界と精霊世界を一緒にしたせいで起きた被害を受けて軽いノリでイフリートと対面するユグドラシルだったり。

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