出てきやがりましたとさ
何話か前から久しぶりに詠唱とか考えるようになりましたけど、クッソ楽しい(呼び起される厨二)
パイルバンカー。それはもちろん近接武器である。
密着とまではいかなくても、肉薄程度までは距離を詰める必要のあるそれを、遠距離から撃ったとしても当たるはずがない。
……にも関わらず、イフリートへとぶっ放したハウラの一撃は、まるで未収した光がパイルバンカーによって射出された様に。
超密度の弾丸となって、イフリートへと襲い掛かる。
「ちぃっ!!」
足を捕まえられているが故、回避行動はとれず。
防御も、体の前で腕を構える程度しか不可能で。
そんなイフリートへと着弾した光の弾は、着弾と同時に――爆ぜた。
咄嗟にイフリートの足から手を放し、距離を取るセレナと。
そんなセレナとは対照的に、光の爆発へと突進していくハウラ。
俺は、ハウラの邪魔にならないよう、イフリートの真上から『餓狼衝』をぶっ放し、ハウラとセレナ、両方へとフォローをかけられる位置へと移動する。
これでやられてくれりゃあいいんだがな……。
なんて考えは、光の密集体を突き破って伸びたイフリートの腕によって崩されて。
その腕が光を叩くと……集まっていた光が霧散する。
何が起こっているか分からないし、どうせ聞いたところで理解はできないだろうが、精霊や二つ名持ちの戦闘って、人間に優しくないよな。
「それで終わりか?」
「終わりがよいか?」
「追加でフルコースでも出してくれていいんだぜ?」
「ならば望み通り、存分に食らえ」
光が消えたことで、ハウラと対峙したイフリートがとんでもない会話をした後、ハウラの姿が人型から龍へと変わる。
「なるほど。元は光のところの龍だったのか。人間じゃねぇと思ってたが、納得だな」
「納得した処で、何か変化があるか?」
「ねぇよ。どのみち正面からぶっ潰すだけだ」
ゴキゴキと、首を鳴らしてそう話すイフリートは、先ほどのハウラが光を放っていたのと同じように、全身から炎を噴出して。
「いつ振りかも分からねぇ力の解放……。ま、全力じゃねぇが、これで十分だろ」
まだ力の全てを出していないことを口にして、
「誇っていいぜ? 人間やモンスターが複数いたとはいえ、俺にここまで力を出させたことを」
イフリートの話を聞かず、後ろに飛んで距離を作り、そこから助走を付けて突っ込んだハウラの勢いを、全身を使って停止させると、そのハウラへと剛拳一発。
仰け反るハウラだが、仰け反ったまま、イフリートへとブレスをお見舞いし。
「そんな雨みてぇなブレス、効くわけねぇだろ!!」
『牙蜘蛛』へと放った致命の一撃。
そんなブレスを、『雨』程度と片付けるイフリートはそんなブレスの中を昇っていき――。
「隙しかないのじゃ!!」
膂力に頼り、ハウラの口元へと跳んだセレナの拳によって、地面へと叩きつけられる。
「面倒だなクソが!!」
思わず悪態をつくイフリートだが、残念ながらまだ終わらない。
「道標は遠い空。不思議を分かつ潮流。欲するは恵み。されど、万物への恵みは無し」
聞こえてきた詠唱の方へ顔を向け、天へと嘶く『オオモノヌシ』の姿を確認すると、起き上がりと移動とを同時に兼ね備えた動きでスカーレットの方へと向かう。
……が、そっちは行き止まりだよ!
詠唱を始めた時には、セレナがフォロー出来ない位置に行って空いた俺が寄っている。
つまりは、イフリートへと『餓狼衝』をいつでも放てるというわけで。
イフリートが離れるまで続く幾重にも重なったソレは、正面突破を諦めさせるには十分で。
「選ばれるは我。篩われ、落とされるは敵。救いなきモノを掬う、慈悲なる氾濫をこの地へ!!」
(っ!? 旦那!! まずいんで思いっきり跳躍してくだせぇ!!)
スカーレットが詠唱を完成させると同時に、脳内でトゥオンが警告を発し。
その警告に従って真上に跳躍すると……。
「『満帯潮流』!!」
それまで俺の居た場所が……いや、地面全てが。
激流に、飲み込まれた。
「あ、危なかったのじゃ」
龍であるため、羽ばたけば空を飛べるハウラと。
ハウラに捕まってその激流を回避するセレナ。
「お前! 事前にこうなるって伝えとけよ!!」
「伝えたらイフリートにも伝わっちゃうでしょ!! ここにいる人たちなら何とかすると思ったの!!」
跳躍したはいいが、着地までに激流が消えなかったらどうしようかと思ったが、着地する頃には元の大地に戻っていた。
「今の魔法何?」
「『オオモノヌシ』を媒体にわたつみの力の一端を召喚する魔法」
何だろう、聞いたはいいけど、全く分けわからんこの感じ。
人間が四大精霊の力の一端とは言え扱えるって、こいつも中々に国から命狙われてもおかしくないのではなかろうか?
俺と一緒で特殊な冒険者カード持ってる時点で、首輪付けられてるのと同じだけどさ。
「あぁ……効いた。今のは効いたなぁ……」
「!!?」
先ほどまで倒れていたか、ゆっくりと手も使わずに起き上がったイフリートは、どこか遠くを見つめながら呟いて。
「人間風情が、ここまでやれるたぁ、うれしい誤算だぜおい」
そこから不敵に笑い、俺とスカーレットの方へと視線を向けると。
「終わったみてぇだな!! 藤紅!!」
聞きたくもない名前を呼んで……。
「まぁ、十分に時間稼いでもろたからなぁ。久しゅう、ケイス。えろう見違える姿しとるやん?」
「出来れば二度と会いたくなかったがな」
「つれへんなぁ。……ちゅう訳で、こん子の命が惜しいなら、ちょっとウチのお願い聞いたってや?」
その名前の主は、腕に抱いた意識を失っているのかぐったりしているメリアの首元へ、指を這わせながら妖艶な笑みを浮かべ、言うのだった。
ちなみに戦っている場所は精神世界と繋がったせいでだだっ広い広場みたいになってます。
今回の激流で建物が倒壊したりはしてませんが、撃つ場所で撃てば国が半壊するぐらいには強い魔法をぶっ放してます。
……味方に連絡なく。そりゃ怒るわ。