実は凄いことですとさ
前回のあらすじ:「やったか!?」
「うっ……がぁっ!!」
俺の目の前で苦悶の表情を浮かべるイフリート。
これは好機と、『餓狼衝』をイフリートへ向けてぶっ放せば。
その姿が、一気に薄くなって消え失せる。
「精神世界に逃げたのじゃ!!」
一瞬何が起こったか分からなかった俺に、端的に情報を伝えてくれるセレナ。
逃げられたんなら追うしかないか。
(旦那、旦那)
(何だよ)
(ちょっとだけ能力の操作権いただけますかい? 頭の中で、あっしに任せるって思うだけでいいんで)
それだけならばお安い御用。
頭の中でトゥオンに能力の使用を任せると考えれば、すぐにぶっ放される『餓狼衝』。
何も狙っていない、文字通り虚空へと放たれたその衝撃波は――。
「うぉっ!!? なんだぁっ!!?」
突如として、空中にイフリートの姿を具現させる。
「前に旦那の体で『降魔』した時、あっしは精神世界の隔たりを喰らって無くしたのを覚えてます?」
「あったな。そんなの」
「普通に凄いことなんすけど……。まぁいいでさぁ。今やったのはそれの精神世界とこの世界との間を取っ払う版っす」
「……つまり今この場は――」
「精神世界と重なっている!」
俺の言葉を受け継ぐように、力強く声を発したハウラは、とても先ほど吹っ飛ばされたとは思えず。
さらに言えば、両手両足に光を纏うという、今まで見たことない光景を俺に見せたセレナも、先ほどとは雰囲気が変わっていた。
「何が起こった?」
「ケイスよ。ドリアードの事を覚えておるか?」
「忘れるわけねぇだろ……」
「ならばその時、妾が後援者と名乗ったことは?」
「あー……。そんなこともあったな」
聞いてて首を傾げたんだ。そのあと、ドリアードに絞められて……。
そういや、後援者は何かしら見返りを得ているって言ってたような……。
「後援者となっておるからなのじゃが、有事の際はあ奴らの力の一部を行使出来る」
「そうなのか」
「本来は面倒な手順が必要であったり、魔法陣が必要だったりで使わんのじゃが、こうして精神世界との狭間がないのならば話は別じゃ」
「直接的に、そして、単純に速く、その能力を身に宿せる」
俺に並び立ちながら、セレナとハウラは空中で体勢を立て直したイフリートを見据え。
「純白たる意思の煌きをわが身に宿せ」
「全てを支える確たる大地。その力の一片を注ぎ給へ」
詠唱なのか。それとも、自らが後援している精霊への呼びかけか。
短い言葉を発した後で、二人の身体に明確な変化が現れる。
ハウラには、全身から湧き出る燃えるような光。
セレナには、四肢に纏った光の色が、茶色へと変化して。
さらに言えば、先ほどイフリートに魔法を放ったスカーレットにも変化が起きていた。
つい最近の出来事を思い出させる、『オオモノヌシ』に巻き付かれた格好へとなっている。
――が、
「行くよ蛇助!!」
自分の体に巻き付く『オオモノヌシ』を『蛇助』と呼び、球体状の水を発射させる姿には、操られているという思いを抱かせない。
トゥオンの行った、精神世界とこの世界の境界を喰らうという行為だけで、そこまでこちらの陣営の姿が変化したのだ。
「まー、旦那は『降魔』してる時点で見た目が変わってるんで、今更っすけどね」
「ちなみに今の俺ってどんな見た目してるんだ?」
「群青の狼の毛を被った感じかの。あと尻尾も生えとる」
「全体的にトゥオンに引っ張られてんな。後からの『降魔』の方が見た目には強くなんのか?」
「知りませんよ。誰も『降魔』何て重ねたことないんすから」
どうやら今の俺の見た目に、シエラの要素は薄いらしい。
……というか、さっきから『降魔』を重ねた事例を誰も知らないって言ってるが、大丈夫なのか?
『降魔』が解けたら即死亡、とかやめてくれよ?
「む。来るぞ!」
なんてことを考えていると、ハウラからの警告が。
そして、その後に続いて殺気むき出しのイフリートが突っ込んでくる。
――が、
「いらっしゃいませー!!」
突如として俺とイフリートの間に入ってきたスカーレットが、目の前に水の壁を出現させて。
先ほど背中にくらった感覚から、まともに突っ込むとマズイと判断したか、イフリートが空中でブレーキを踏むと。
「隙あり!!」
その水の壁に突撃し、水を吸収しながら突っ込んでいくセレナ。
茶に光る拳を振りかぶり、イフリートが応戦するために拳を振りかぶる。
直後、金属音と間違うような轟音が鳴り響き、それが拳同士が打ち合った音だと理解して。
思惑通りと、ニヤリと笑ったセレナの拳から、大量の水が放水される。
「揺れ、動き、纏い、捕まえ、その全ては一滴へと回帰する。抗う力を削り取り、我に仇なす者を封じ給え!!」
そして、スカーレットが詠唱をし、放水された水がイフリートへと纏わりついて。
「『水捕牢』」
魔法名を宣言し、イフリートを捕まえようとする……が。
「されてたまるかぁっ!!」
イフリートは、水の拘束を無理矢理に吹き飛ばし、セレナへと蹴りを浴びせ、退避しようとして。
「捕まえたのじゃ」
その足を、しっかりとセレナが捕まえていた。
「母上!!」
「決してその手を放すでないぞ!!」
そして、天へと昇る光の帯を纏うハウラが、
「極煌の一撃を受けてみよ!」
その光をパイルバンカーへと集め、イフリートへと……ぶっ放した。
今回のあらすじ:「やったか!?」




