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襲撃ですとさ

 瞬間に走る緊張は、俺たち全員に臨戦態勢を取らせるには十分すぎた。

 空間にヒビを入れて現れた男? どう考えても人間じゃありません本当にありがとうございました。

 そしてこのタイミングで来たってことは、ハルデ国からの刺客だと考えて間違いないだろう。

 願わくば化け物じゃありませんように――。


「この気配……まさかイフリートか?」


 あ、化け物ですね。分かります。

 イフリート……流石に名前くらいは聞いたことがある。

 火属性を司る四大精霊の一体――って、四大本体が来やがったってのか!?


「そうだゼ? わざわざ俺が来てやったんだ、全力で持て成しやがれェ!!」


 そう言って、一番近くにいたセレナへと殴り掛かるイフリート。

 当然、セレナは身を翻して回避を行うが……。


「がはっ!?」


 完全に躱した筈なのに。その拳は体どころか服にすら接触していない筈なのに。

 まるで直撃したかのように、吹き飛ばされるセレナ。

 一体、何がどうなったってんだ?


「そういうことか。全員、精神世界に入れる者は入れ! 入れぬならばこの場から逃げよ!!」


 どうやら理解したらしいハウラの叫びは、俺に、スカーレットに、人を越えた力を発動させる覚悟を決めさせて。

 『降魔』出来るのはまぁ……シエラだな。

 今昼だし。


(人使い、いや、装備使いが荒い相棒だぜ全く)

(満更でもなさそうなのが腹立っちまいますね)

(すぐに……解除、されれば、いい)

(即解除は俺が死ぬだろうからやめてくれ)


 シエラと『降魔』することを他の装備から言われるが、そもそもお前ら『降魔』してくれねぇじゃねえかよ。

 文句言うなら『降魔』してくれよ。


(んじゃあ相棒、サクッとやっちまうぜ! 『降魔 衝猪撃(アテナ)』)


 いつもの『降魔』、いつもの変調。

 動機が飛び、血は圧縮され、思考がシエラとリンクする。


「ほぉ! こっちの人間も変わりやがった! やっぱ面白れぇなぁ!!」


 こっち()? あぁ、向こうでスカーレットが頭巾を被ったのか。

 ちらりとそちらを確認してみれば、赤い頭巾を被っているスカーレットの姿。

 流石にどれほどの相手かも分からないイフリート相手に、いきなり青頭巾は被らないらしい。

 慎重なのはいいことなのだが、属性相性的に火には水をぶつけて欲しいんだがな……。


(下手な水属性は打ち消されますぜ? 弱点ではありますが、水ってのは蒸発しちまうもんですから)

(ましてや相手は火の化身と言っても過言ではない相手です。それを鎮火するには……同じく四大のわだつみレベルをぶつけるしかないかと……)


 俺の意見は脳内でトゥオンとシズによって却下……とは違うな。

 やらない理由――やっても効果が薄い理由が示される。

 ていうか弱点属性に対応できるって普通にふざけてやがるな。

 相性とか何のためにあるか分からねぇじゃねぇか。


(相性、とか、人間用……。精霊は、(ことごと)く、それらを、超越……してる)

(全部が全部じゃねぇけどな。四大や二天、それらの眷属は基本的にぶっ飛んでやがるぜ。HAHAHA)


 何と言うか、本当に人間とはかけ離れた存在なんだなぁと思うわ。

 にしても、属性相性は人間専用か。研究者とかが聞いたら(いきどお)りそうだ。

 対精霊用魔法とか、そのものの根幹が崩れるぞ。


「ぜ、全員……精神世界へ行くのじゃ」


 吹き飛ばされたセレナが立ち上がりながら、俺らへと戦闘の場所を指示。

 いや、行きたいのは山々なんだが、俺らはそう簡単に行けねぇぞ?

 今まで精神世界に行ったのって、藤紅に無理矢理入れられてただけだし。


「おっと、悪ぃな。そっちには行かせるなって要望なんだわ」


 そう言ったイフリートはその巨体に似合わない速度でハウラへと近づいて。

 恐らく精神世界へと入る道を作ろうとしていたハウラへ、鉄拳を振るう。

 

「――ッ!?」


 すんでのところで気が付いたハウラは、身に着けている盾でその拳をガードするが……。

 だから何だと言わんばかりに、拳を振りぬいたイフリートによって、ハウラは大きく吹き飛ばされる。

 ……普通に強すぎないかこいつ。

 盾で防いだのに吹っ飛ばされるって……しかもそれがハウラだぞ?

 見た目はお姉さんだが、その質量はバカでかいドラゴンなんだぞ?

 それを吹き飛ばすってお前……。


「母上!?」

「大丈夫だ。……それより皆気を付けよ。こいつは精神世界へも同時に攻撃しておるぞ!」


 ハウラが口にした精神世界への同時攻撃。

 それが、先ほどセレナが回避できたにもかかわらず吹き飛ばされた理由であり、ハウラが精神世界に入れと叫んだ理由。

 そして、それは同時に、普段の俺とスカーレットの二人では――人間では。

 何の対処も出来ない攻撃というわけで。

 『降魔』化した俺と、頭巾を被ったスカーレット。

 少なくとも精神世界で行動が出来るようになった状態ならば、精神世界も視野に入れられる状態ならば。

 多少はあがけるだろうな。


「ケイス! 援護するのじゃ!!」


 叫ぶと同時に大地を踏んで。一直線にイフリートへと飛ぶセレナ。

 援護って具体的に何しろっていうんだよ……。

 とりあえず衝撃波を発射しとくけどさぁ。


「うん? 衝撃波だぁ? お前も面白いもンもってんなぁ!」


 突っ込んでくるハウラよりも、離れた位置から衝撃波を飛ばした俺の方へと視線を向けて。


「何のつもりじゃぁ!!」


 無防備になったその背中へと、セレナは拳を突き出すが……。

 その拳は――イフリートの体を貫通して、通り抜けて。


「!?」


 炎と化した体を抜けたセレナは、その事実に驚愕し。

 一切のダメージを受けた素振りがないイフリートは首を鳴らして……、


「おらぁ、遊ぼうぜぇ!!」


 とニッコリ笑顔で(のたま)ってくる。

 これひょっとして詰みなのでは?

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