仕方ないですとさ
「何の用だ?」
「少し、お話しておきたいことがございまして」
正直あまり部屋には入られたくない。
セレナと一緒にいるってのも理由だし、部屋は俺のプライベートだしな。
そこに仲間でもないキックスターを入れるというのは気が進まない。
――が、
「メリアさんの諸経費等の相談をしたいのですが……」
この一言で入れるしかなくなった。
だってさ……気になるじゃんか。
メリアの宿泊費は今現在俺持ちだし、あとでちゃんと補填されるのかってのは。
(入れるぞ?)
(なぜ妾に聞く? 構わんぞ)
一応セレナにも確認を取り、
「どうぞ」
中へと促すと。
「失礼します」
音もなくドアを開け、入ってくるなり――、
「も、申し訳ありません。……まさか逢瀬の途中とは」
などと抜かしやがった。
「ちげーよ!!」
「へし折るぞ?」
同時にツッコミを入れる俺とセレナ。
だが、ツッコまれたキックスターはどこ吹く風で。
「まぁ、冗談は置いときまして」
「お前そんなキャラだったか?」
「割とお茶目ですよ? 自分で言うのもなんですけど」
完全に会話のペースを奪われてしまう。
「さて、諸経費の話ですが……メリアの宿泊費と治療費、あとケイスさんの治療費も保証しましょう」
「治療費って、怪我すること前提かよ」
「おや? それは襲撃されても軽傷までしか負わないという自信の表れで?」
「そうじゃねぇが、……治癒魔法位は使えるぞ?」
「腕切り落とされたりは流石に治癒出来ないでしょう?」
何と言うか、キックスターの考える状況って、普通に欠損レベルなんだな。
もうちょっと軽傷というか、骨折程度を考えて欲しいものだ。
(相手の刺客に覚えでもあるんでしょうぜ)
(だろうなぁ。妙に襲撃予測日時立てるのも早かったし、相手の情報は握ってるみたいだな)
(じゃあ何でそれを伝えねぇか考えてみるか? HAHAHA)
(情報、安くない。……とか)
(理不尽だけど納得できちまうんだよなぁ。自分だけの情報って、価値がバカ高いからな)
情報を握っている。その事実だけで、有利になれる。
情報を与える代わりに――なんて交換条件を出すことが可能になるし、情報を知っているからこそ振り回すことだって可能だ。
もし仮に、俺がキックスターの立場でセレナ達に情報を渡す側だとしよう。
死にたくないからってのもあるが、俺は迷わず全部の情報を与える。
それはセレナのことを、情報を与えても変な行動をしない、という信頼をしているからで。
逆に言えば、信頼していない相手には簡単に情報なんて渡しやしない。
……巻き込みたくないっつー理由でなるべく伝えなかったアイナ達の事もあるが、あれは元パーティっていう例外だ。
つまり、キックスターも俺らの事を信用してない――どころか、二つ名付きのモンスターという、普通では到底括れない存在が居る以上、警戒をしているはず。
それも踏まえて、渡さないのだ。
もし万が一、俺が他の国に逃げ込んだりしたときのことを考えて、なるべく情報を与えたくないのだ。
……ま、ありえないけどな。
「つまり、そんな物騒な相手が襲ってくるってことでいいんだな?」
「動けないように死なない程度に解体する……くらいはやってくるでしょうね」
「心当たりでもあるのかい? 俺らを襲う連中の」
「襲ってくる連中たちかは分かりませんが、ハルデ国の追跡者は野蛮だと噂で聞いていますから」
追跡者――それは、さっきの俺の考えのように、他国の利となる情報をもって、他の国へと亡命する者たちが居る。
当然、元居た国としては困る事であるため、他の国へたどり着く前に捕捉して亡命を止める必要がある。
その止める役割を担う連中が、追跡者と呼ばれている。
捕捉……そういえば聞こえはいいが、実際のところ体の一部を失わせたりは当然ある。
手っ取り早く戦意喪失させられるし、暴れる気力すらなくせる。
死ぬか帰るかと問えば、十中八九帰ると答えてくれる。
……最も、情報持って抜け出そうとした時点で裁判は免れないし、すぐ死ぬか、死ぬのを先送りにするか程度の違いしかないが。
「追跡者はどこも野蛮だろうが」
「そうですね。……我が国の追跡者たちも、あまり変わっていませんよ。――ケイスさんが居た頃と」
何故俺が国を抜け出さないか。
正直、色々知りすぎているのだ。
キックスターの言うように、追跡者という立場に結構な年数居た。
やがて嫌気がさして、冒険者なんてのになったけどな。
……それでも、俺は追跡者に居たことで様々な情報を手に入れている。
だからこそ、悟っている。この国からは、逃れられないと。
追跡者たちと戦うくらいなら、俺はここで飼い殺される方を選ぶね。
あいつらはただのバケモンだ。
「まぁ、調べるわな。俺の事」
「かなり前から辿り着いていましたけどね。……後は、傭兵をやられていた時期もありましたよね?」
「その話はやめてくれ。あまりいい思い出は無いんでね」
「それは失礼しました。……何の話でしたっけ? ……あ、そうそう。保証の話でした。四肢欠損したとしても、義手義足はこちらで用意します。治療費も、入院費も、全てです。後は……無事に撃退してからお話しましょう」
嫌な記憶をチクリと刺され、話題にすることを拒否すれば本来の話題へとあっさり戻る。
義手義足……ねぇ? あんまりいい噂聞かないけどな。……ソレも。




