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何も変わりませんとさ

申し訳ありません、一日ほど遅刻致しました。

 会食を終えて、結局ハウラとの手合わせで汗をかいていた俺は風呂に入ることに。

 もちろん、装備たちをセレナに預けるが、その場面をキックスターには見られたくないと、俺とセレナの意見が一致。

 結果、俺が風呂から上がるまでセレナが部屋で待機することに。

 なんつーか、ふろ上がりの姿見られるってのは恥ずかしいものがある。

 かと言って早風呂なんかは絶対にしねぇがな。

 まずは風呂で汗を流して、その後サウナと水風呂でしめるか。

 ほんと、無料で宿泊できる分にはここは天国だよ。



「遅すぎじゃ。貴様は女子か!?」

「女子よりおっさんの方が長風呂なんですぜ、セレナ様」

「風呂上がりの牛乳が美味い……」

「無視するとはいい度胸じゃねえか相棒! HAHAHA」


 ゆっくり堪能して上がると、当たり前にセレナに怒られた。

 トゥオンとシエラが味方しているあたり、いじられ役の俺が長時間居なかったのが気に食わないらしい。

 

「つうかこれから何するんだ? いつも見たく全員で手合わせをするのか?」


 ゆっくりできる場所だからと、だらけてしまえば腕は錆びていく一方。

 それを防ぐ為に……というか、俺がだらけ過ぎないために。

 ハウラ、セレナ、スカーレットと全員参加でチャンバラ的なことを行っていた。

 しかし、実際は俺やスカーレットの鍛錬の場と言っても過言ではなく、二つ名付きのモンスター二体から直々にどう動くのが適切か、や、戦いながらの自身の癖等を矯正していく時間となっていた。


「やってもよいのじゃが、おそらくキックスターは見学に来るのじゃ」

「昨日からメリアも加わったからな。敵が的にしているやつから目を離すのはどう考えてもありえねぇし」


 俺の問いかけに、苦い顔で答えるセレナ。

 キックスターが見学する。何ともないようなことに思えるが、相手は何を考えているか分からない国の丞相様である。

 そういった立場の相手に限らず、余程信頼している者以外に、自分の手の内を見せるに等しい行為を晒すのは誰もよしとしない。

 ましてメリアは、精霊を体内に宿せるようになってしまっている。

 そのことをキックスターが知っていようとも知らずとも、わざわざ見せびらかすものではない。


「妾達の実力を推し量られるのも嫌じゃの。これについては母上も同じ意見じゃ」

「だよなぁ。……ついでに、メリアの実力も見られるとなると、やる意味を見出せねえ」


 そう躊躇ってしまうほどに、周りの力を情報としてキックスターに与えてしまうことが嫌なのだ。

 何に使われるか分かったもんじゃないし。


「どうせ把握されてると思いますがね」

「そりゃあそうだろうが、情報を見るのと聞くのじゃ大違いだろう?」

「相棒……忘れてるようだが、便利な『烏の目(スケアクロウ)』を教えたのはあいつだぜ?」

「そうだったな……」


 そういや、先の『オオモノヌシ』の騒動の時、『烏の目(スケアクロウ)』を使おうと許可を貰おうとしたら断られたっけか。

 ……てことはその時に覗かれていた可能性があるのか。

 『降魔』……バレてるよなぁ。

 ついでに、スカーレットの『頭巾被り』も当然把握されてるだろうし……。

 そうなると隠す意味も無いのか……。


「まぁ、あれじゃ。どうせ隠し通せるか怪しいのじゃし、変に普段と違うことをして、刺客から不意を突かれる……等は避けたいものじゃな」

「大雑把な襲撃予想日は分かってるわけだし、その周辺で警戒を強めれば大丈夫だろ」

「だといいのじゃが。後はキックスターに戦闘能力が期待できるのなら、多少はマシなのじゃが……」

「その期待する戦闘能力ってのはどれくらいを想定してるんだ?」

「ケイスと同じくらい……かの?」

「普通に無理じゃねぇか? ……いや、俺を高く見てるつもりは無いんだけど」


 流石にというか、トゥオン達を装備してて『降魔』が出来る俺くらい強いってなると……。

 それこそ、スカーレットのような代々力を受け継いでる系か、メリアみたく改造で体の不調と引き換えに力を手に入れた系くらいしか思いつかんし……。

 さらに言えば、そんな力があれば別に丞相にならんでも……って思うのは俺の価値観だからなのか?

 だってさ、絶対に苦労するぜ? ストレス溜まるぜ?

 国の行く末考えたりとか、他の国との外交という名の化かしあいとか。

 俺だったら間違いなくモンスター相手に得物振り回してる方がいい。


「安心せい。お主は十分すぎるほど強い。……が、母上が言っておったのであろう? 母上をから鱗を一枚剥ぎ取った人間が居た、と」

「そういやそんなこと言ってたな」


 ハウラがパイルバンカーを使う理由……だっけか?

 それを装備した人間を相手にして、鱗を一枚持っていかれた……と。


「つまり、それほどの実力を持つ人間も居るということじゃ。ならば、少しくらいは夢を見てもいいじゃろう?」

「まぁ、蓋開けてみないとどうかは分からんけど、キックスターがそいつって可能性はないと思うぞ?」


 希望的観測を口にするセレナに対し、俺はキックスターの特徴からそれを否定する。

 キックスターは細すぎるのだ。武器を持つにしても、頑張って剣とかだろう。

 大剣になれば振り回せないだろうし、槌になれば持ち上がりさえしないだろう。

 盾と射出機構の合わさった重量を腕につけて、振り回すなんてなおさらだ。

 だから、あいつがパイルバンカーを使っていたという事実は否定出来る。


「あくまで希望じゃ。……さて、そろそろ装備を返すぞ?」

「そうだな、受け持ってくれてありがとさん」

「妾しか出来ぬ故構わぬ。……眷属の時の母上ならばできたかも知れんがの」

「元々脱げないって覚悟決めてたんだ。こうしてたまにでも脱げるだけで万々歳さ」


 装備の重さに……はないか。

 とはいえセレナも装備を着ていると普段との違和感がすごいのだろう。

 風呂から上がるまでと言っていたのに、こうして話し込む間も受け持ってくれていたし、これ以上の贅沢は言っていられない。

 と、セレナから装備一式を戻されたところで扉がノックされ――、


「誰だ?」

「私ですよ、ケイスさん」


 先ほどまで話題になっていたキックスターが、俺の部屋を訪ねてきた。

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