実力がわかりましたとさ
朝、目が覚めて部屋を出るとセレナと出くわし。
今朝の食事がルームサービスではなく広間で行われる会食のようなものに変わったとの連絡。
じゃあその前にと、装備を預かってもらって部屋についてる風呂を堪能。
最近はこうして湯に浸かれるから、あいつらを装備してすぐよりはかなり楽だ。
しかし急に食事を変えるって、何か考えでもあっての事なのだろうか?
「そういや、食事前にハウラとの手合わせがあったな……。先に風呂に入ったのは失敗だったかもしれん」
寝る前のシエラの言葉を思い出し、どうあがいても汗をかくことが確定している出来事を考えて。
とりあえずセレナに装備を返してもらい、広場へと赴くと……。
「あれ? ケイス? この時間にどこ行くの? 食事はまだでしょ?」
その道中でメリアと出くわした。
「食事前の手合わせだよ。……見に来るか?」
「いいの? 正直暇だったんだよね」
どうせなら見学にでもと声をかければ、二つ返事で見に来るとのこと。
普通の人間にならこんなこと提案はしないが、こいつに関しては普通じゃないし。
ドリアードの核を埋め込まれていたし、これから何かあれば守る存在。
ならば、どんな力を持っているやつが自分を守るかってのを自分の目で見ておいた方がいいだろう。
そう考えての提案だった。
そんなこんなでメリアを連れて広場へ。
広場にはすでにハウラが来ていて、広場の中央で座禅を組んで瞑想をしていた。
「来たか」
「待たせたか?」
「許容の範囲内だ。さて……構えよ」
俺が来たと気配を察知したか、広場へ入るタイミングで瞑想をやめ立ち上がりながら声をかけられる。
メリアに離れておけと伝え、シズに魔法の準備を願いまして。
「どれくらいやる気だ?」
「今日襲撃が来ないとも限らん。流す程度でよい」
「了解」
流す程度と言われて苦笑。
こいつの流すって概念は、人間でいうところの「ギリ死なない」位の認識で間違いない。
さて……やりますか。
*
「食前の良き運動だった」
「そうかい。……そいつは良かった」
息すら上げず、汗すらかかず。
疲れて地に伏した俺を見下ろしながらハウラが言って。
俺を心配したのか、メリアが駆け寄ってきた。
「ケイスってそこまで強くないんだね」
「俺を何だと思ってやがる。見ての通りのおっさんだぞ?」
「我と手合わせしている時点で一般の枠は軽く凌駕しているがな」
「というかお姉さんが強すぎるんだね」
「よくわかってんな。その通りだ」
けどかけられたのは優しくない言葉。
もう少しこのおっさんの体を労わって欲しいものである。
「けど、今のなら私も出来そう」
「は? お前何言ってるんだ? 核は抜かれてんだろ?」
ついでに追撃をしてくるあたり、中々に骨のあるやつだ。
「核は抜かれたけど、それありきの体に改造されてたじゃん? その結果、抜かれて出来た穴っていうの? その穴に精霊を埋められるようになったんだよね」
……こいつは何を言ってるんだ?
「例えば……こんな感じに?」
そう言って胸の前に手を構えたメリアは、
「こうやって……こう!」
その手に集まった視認できるほどの魔力を胸に押し込んで。
その姿を――変えた。
「これは――」
「元がドリアードの核だからなのか、地属性の精霊が集まりやすいんだよね」
変わった姿は紋章が刻まれており、一目で人間ではないことがわかる。
その紋章の色は茶。つまりは言うとおりに地属性を示す色であり。
「面白い女子であるな」
「というわけで、私とも一戦よろしくぅ!」
パイルバンカーを構えたハウラと、どこから取り出したか無数のクナイを弄ぶメリアは。
倒れてる俺をそっちのけで手合わせを始めやがった。
*
「っはー、つっよ。ここまで強いんだ」
「我と初めての手合わせであれほどやるなら十分だろう。ケイスとほぼ同等だな」
結果はハウラが軽くあしらって終わった。
が、問題は普通にやりあえていた点。
つまり、メリアは俺やスカーレットと同じくらいの強さということだ。
……精霊を体内に宿した時限定だが。
――というか、
「お前、その体質のせいで狙われてるなんてことないだろうな?」
「…………あ、そうかも」
「そうかも、じゃねぇよ!」
どう考えても強さが異常なのだ。
ドリアードというユグドラシルの眷属を……核を身に宿しているならまだわかる。
いや、分からないんだけど。それでも、まだ納得できる範囲だ。
けど、恐らくメリアが宿したのは名もないか名も知らない精霊のはず。
なのにあれだけの力となると……、
「余程地属性との相性がいいのだろう。産まれつきか、人工的にそうされたかは分からんが」
「どっちにしてもいい気分にはならねぇから」
「そうだね」
ハウラの言う通りなのだろうが、どっちにしてもハルデ国がクソなのには変わらない。
先天的に相性がいい奴に埋め込んだか、自分たちで相性がいい体に改造して埋め込んだかの違いしかないのだから。
「あ、やっぱりここだった。ケイスー! 会食の準備出来てるよ~!!」
走ってきて、手を振り伝えてくれたスカーレット。
ようやく飯か、と立ち上がりふらついて。
情けないことにハウラの肩を借りて広場へと向かう。
……朝っぱらから動けなくなるまで体動かさせるんじゃないよ全く。
ハウラやセレナは言うに及ばず、スカーレットやメリアとも年齢が違うんだから。
こっちは疲れやすいし体力無いんだよちくしょう。