依頼を受けましたとさ
「おっす、また滞ってるような依頼なんかない? よほどめんどくさいのじゃなきゃ受けるぜ? ……どうかしたのか?」
ギルドに行くと賑わっている――という雰囲気ではなく、いつもよりも活気が無かった。
その事を、この間依頼を斡旋してくれた受付嬢の元へ行き、何か依頼を回して貰うついでに聞いてみたのだが。
「それが……。ここ数日でこの街の空気が悪くなったというか……。あまり気持ちのいい空気では無いのはお気づきですよね? 口布しているみたいですし」
と依頼の件をスルーされ、昨日からシズが注意を促して来た空気の事について話し始めた。
「まぁな。んで? その空気とやらが問題なのか?」
「どうもそれが原因で体調を崩しているらしいんですよ。なのでこの空気が悪い元凶を突き止めたいんですけど……」
「見ての通りで人が少なくて任せられそうなのが居ないってことか?」
どうやらスルーしたのではなく、依頼の件は話が続いていただけの様だ。
しかし元凶探れって言ったって、ろくに情報無いし……。
「あ、いえ。すでに数組の冒険者達に依頼は済ませているんですけど――」
「? 何かあるのか?」
何故だろう、どうもこの受付嬢は駆け引きを通常の会話にでも混ぜていると感じるのは俺だけなのか?
こうも歯切れ悪く言われると思わず勘繰るぞ。
「ほとんどの冒険者達が依頼のキャンセルを申し出ておりまして……あと一組キャンセルを申し出てきたらお願いしたい、と思っていた次第で」
怪しさMAX。やばい匂いがプンプンするぜ。
冒険者が依頼をキャンセルしてるとなるとかなーりきな臭いな。
(旦那、何でキャンセルが発生してるだけできな臭いんですかい?)
(考えてみろ、実力と実績を重んじる冒険者が、「この依頼は無理」って投げ出すんだぞ。投げ出した冒険者の信頼ガタ落ちだ。だから冒険者ってのは依頼は自分が達成可能な物だけを受けて、失敗やキャンセルを起こさないのが当たり前なのさ)
(それなのにキャンセルが発生しているから、きな臭い、と?)
(あとこの嬢ちゃんの言い振りだと複数の冒険者が揃ってキャンセルかましてる。もう怪しむとかいうレベルじゃねぇ。おもっくそ怪しいし、危険な任務ってこった)
脳内で会話が行われている事を知らない受付嬢は、顎に手を当て何やら考える素振りを見せて。
「ケイスさん、この後――というか、今後のご予定ってありますか?」
「いや、依頼がなきゃねぇが……」
「どこの宿にお泊りか伺っても?」
「あー……」
どう考えてもロックオンされてるな。俺にぶん投げる気確定だろ。
と言っても依頼を回して貰わないと俺は稼ぎが無くなるわけで。
仕方無く泊まっている宿を受付嬢に教え、宿屋で待機する事となった。
ちなみにだが、待機中の宿の滞在費は、ギルドの方から出してくれるらしく、気兼ねなく俺は、宿屋でゆったりと過ごす事にした。
*
「うわっ!? ……外がうっすら紫に染まってんだけど?」
「言うまでもなく、体に悪そうですね」
「一応シエラの状態異常耐性があるとはいえ、直で吸い込んじゃいけませんぜ? 旦那」
「頼まれても吸いたくないね。つーか体調不良ってどの程度なんだ? この景色見る限りじゃ風邪なんて可愛いもんじゃねーよな?」
これまで以上にしっかりと口布で覆い、宿屋へと降りていけば、
「ケイス、ってあんたかい? さっきギルドの人から書簡が来たんだけど、覚えはあるかい?」
「間違いなく俺宛だよ。ありがと」
そう食堂のおばちゃんに手紙を渡され、
「あんたは、いつも通りのパンとスープでいいのかい?」
これまで毎日同じメニューで朝食を済ませていたせいか、いつも通り、なんて言われてしまう。
まぁ、変えるつもりは無いんだけどな。
「あと薬草湯も追加で。……そうだおばちゃん。最近具合が悪くなったりとかって、無い?」
「あら、毎日飲んでいるのに効かないのかい? 私は大丈夫だけど……そういや、町の人達が次々に倒れてて、医療所が混雑してるって話だよ」
この街に戻ってきてずっと続いている頭痛は、毎日薬草湯を飲めど、一向に収まる気配はない。
んでもって、医療所が混雑、ねぇ。そこも話を聞きに行きてぇな。
相変わらずパンをスープで流し込み、薬草湯を喉に流し込んで一度部屋へ。
ギルドからの手紙を確認すれば。
ほうら、厄介極まりない内容だ。
この街に風を起こしている魔法石があるらしく、そこに異常が出ている為今の状況になった事までは冒険者達の調べで分かっているらしい。
が、その魔法石を調べようとして、皆キャンセルを申し出て来たとの事。
そしてこれこそが厄介な理由なのだが、その魔法石は――。
この街の統治者が管理しているという事だった。
部屋にある暖炉に手紙を焼べて、俺は思わず奥歯を噛んだ。