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整理しましたとさ

 時刻は夜。

 今日は装備たちを引き取ってもらえなかったために、普段通りにそこらへんに座り込んで眠る体勢に入り。

 そこでふと考える。

 これまでの事を。

 ――メリアは、スカーレットが同室し、その両脇の部屋にハウラとセレナが宿泊中。

 流石にこの状況で誰にも悟られずにメリアに接近は出来ないだろう。

 そして、アイナ達は夕方ごろにここを出て行った。

 宿泊施設の無料期間が終わったとかで、とても名残惜しそうにトボトボと歩いて行った。

 ラグルフももちろん同行していたが、あいつの発言力はもはやパーティ内では皆無だろう。

 それほどまでに信頼を失っていた。

 ――さて、


「何から整理しますかい? キックスターの理不尽を、無理矢理にでも納得できるような材料を見つけますかい?」


 俺が思案に没入するタイミングで、整理を手伝ってくれるトゥオン。

 ……いや、いつもいつも、トゥオンだけでなく、他の装備たちも手を貸してくれていた。

 今回もそれに甘えるとしよう。


「いや、それについてはもう目星がついてる」

「ほう。どんな材料ってんだ? 相棒」

「簡単だ。あいつは俺の口座の残高を把握してる。んで、俺から支払わせるってことは、俺の口座の残高で足りる額しか使わない想定をしていて、かつ、報酬でそれを補填した上で支払うつもりなんだろ」

「あとは、変な、足を……つけない。国からの、使途不明金、出せば、怪しまれる」

「あぁ、そうか。それもあるな。国としてはなるべくメリアと係わった形跡を消しておきたいはずで、そう簡単に消せない金の移動っていう痕跡を残すことを恐れたのか」


 意見の否定、精査、そして追加。

 情報整理において複数人でやるメリットを、こいつらが居ることで当たり前に享受できる。

 特に、メルヴィはこの手の事は得意分野だし、今みたいに足りない部分の補足すらやってくれる。

 ありがたいよ、まったく。


「よかったっすね、メルヴィ。旦那が褒めてますぜ」

「べ、別に……褒められる、ことじゃ……」

「トゥオン、茶化してこれからメルヴィが黙ったら困るのはご主人様なんですからね? ほどほどにしときなさい」

「はーい。さて、んじゃあ次の思考は何にしますかい?」

「今後の相手からの出方だな」


 消えるような声色だったメルヴィをその場に踏みとどめるように。

 そして、茶化したトゥオンへと釘を刺したシズはいい働きをした。

 素直に次へと移るトゥオンに、その釘が刺さったかは疑問だけどな。


「普通に襲撃か、遠くから観察して報告か、どっちかでしょう」

「他国の国境跨いでるのにいきなり襲撃とかするか? ……いや、可能性はあるっちゃあるな」

「ハルデ国ってのはそこまでバカなのか? それとも、目的のためなら手段を選ばねぇってか? HAHAHA」

「まぁ、目的を選ばないって意味では同じだ。けど、いきなり襲い掛かってきたってのは多分ない」

「というと?」

「襲う前にある手順ってか、ステップを踏むんじゃないかとは思う。……けど、それが出来るとは今は思えん」

「? いずれ出来る可能性があるんですか?」


 考えながら、口にしながら。

 一つだけ、思い当たったことがある。

 ……ただしそれは、どれほどのリスクがあるか分からんし、そもそも可能性すらない場合も考えられる。


「分からん。……けど、()()と組んで精神世界に連れ込んだり、そこから攻撃を仕掛けてくるってのは考えられる」

「けどハルデ国ってユグドラシル様を怒らせたんでしょ~? そんなところに協力する精霊っていないと思うけどな~」


 おはよう、ツキ。

 けど今日はもう遅いから寝ときなさい。


「精霊はそうだろうな。……けど、眷属ってなったらどうだ? 眷属のシステムってのを詳しくは知らないが、もしかしたらハルデ国の持つ情報を求めるやつがいてもおかしくないと思わないか?」

「……――っ!? 藤紅!」

「メルヴィ? どうしてそこで藤紅の名が出てくるんですか?」

「あいつが、シューリッヒに……力を貸した。それは、戦争を、起こすため」

「その為に協力してた節があったな! HAHAHA」

「じゃあ、その目的は、今は?」

「達成不能でしょうね。材料である薬も、それを運ぶシューリッヒも処分済みのはずです」


 そう。もし藤紅の求める結果がハルデ国とエポーヌ国の戦争だとしたら。

 この二国の関係を引っ掻き回そうとすることは容易に想像がつくし、あいつならやれなくもないだろう。

 しかし、その時に自分の影をちらつかせては警戒される。

 あいつを知っている俺だけでなく、エポーヌを含めた同盟を組んでいるほかの国の上層部。

 そいつらに危険だと認知されれば、藤紅の討伐隊なんてものが発足しかねない。

 もちろん、それにどれだけの効果があるかは分からんが、少なくとも暗躍を得意とする藤紅の一挙手一投足を見張られるとなれば、これまでのように動けなくなる。

 だから、なるべく自分から派手には動かないはずなんだ。


「行動を起こすためにハルデ国へと協力を持ちかける、と? 二つ名持ちのモンスターの言うことを信用して協力するなど、人間がするとは思えないんですけどねぇ」

「ひょっとしたら、もうハルデ国の国民として潜り込んでるかもしれないぜ? それに、俺らはセレナが知っていたから分かったが、何の情報もない状態で藤紅を二つ名持ちモンスターと判断できるとは思えねぇ」

「また、藤紅と、戦う可能性……」

「あいつもしつけぇな――ふぁぁ……」


 っと、眠気が来たな。あくびが出ちまった。


「旦那、お眠ですかい?」

「ああ、ひと眠りするわ」

「パパ、おやすみなさいなの~」

「寝坊するなよ相棒。明日は朝からハウラ様と稽古だぜ? HAHAHA」

「え、えっと……おやすみなさい! ご主人様」

「……おやすみ」


 五体の装備たちにそれぞれ見送られ、俺の意識は、眠りの世界へと旅立った。

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