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休めませんとさ

「おいっす。ケイス、元気~?」

「おかげさまでなんとかな」


 俺に気が付いたスカーレットが元気いっぱいに手を振ってくる。

 機嫌がいいのは無事に儀式を終えたからだろう。

 まぁ、調子乗ってあんまり使いすぎるなよ。そうなったら多分『わだつみ』が直々に乗り込んでくるぞ。


「隙ありじゃ!!」


 俺の方を向いてセレナから視線を外した途端、容赦なくセレナが殴り掛かるが――。


「ざ~んねん☆」


 ペロリと舌を出したスカーレットは、急にぐにゃりと歪み。

 色も形も失って、ただの水分へとなり変わる。

 あれが言ってた水の分身か。まるで見分けがつかねぇな……本物と。

 じゃあ本物がどこにいるかというと、セレナの足元。

 これまでの()()でまき散らしたであろう水たまり。

 そこから、ひょっこりと生えてきたのだ。

 真下や真上は当然に死角。しかし、セレナはこれを力技で突破する。


「気付いておるわ!!」


 スカーレットと違い、実体を伴う分身ではなく、速度のみで行う分身。

 もはやただの残像なわけだが、まぁ……残像が発生するくらいの速度で動いた。

 当然そんな速度に追いつけるはずもなく、スカーレットの一撃は空振るが。

 セレナの残像を目掛けていくつもの水弾を発射して。


「甘い!!」


 それらの水弾全てをはじきながら、今度は逆にスカーレットへと接近。


「!!?」


 残像を伴う速度で近付かれれば、そりゃあ当然反応など間に合わないわけで。

 もらったとばかりにセレナの繰り出した右ストレートは……。


「妾の勝ちじゃな♪」


 ピッタリとスカーレットの顎の直前で寸止めされていた。

 直後、頭巾から青が抜け、『白頭巾』へと戻ったスカーレットはへたり込む。


「いい感じに馴染んできたんだけど、まだやっぱり粗があるね~」

「普通に妾と勝負になっておる時点で異常なんじゃがな。ケイスといいお主といい、簡単に人間の領域を越え過ぎじゃて」

「流石に乱発は出来ないけどね」

「出来たら問題ぞ」


 にへら、と笑顔を向けながらセレナと談笑し、しばらくして立ち上がると、スカーレットは俺の方へと歩いてきた。


「ぶっちゃけセレナちゃんやハウラさんが活躍してただけのような気がするけど、ケイスも一応ありがとうね?」

「素直に言えんのかお前は……」


 別に礼とかはいらんけどな。俺は依頼で受けた訳で、その依頼の報酬はきっちりと貰うだけなんだから。


「ありがと。……あ、そうそう。キックスターからの連絡だけど、しばらくお守を頼みたい人がいるらしくて、近いうちにこっちに寄こすってさ」

「子守……? 要人のガキとかだったら俺に来るはずないよな?」

「顔見れば分かるって話だから、ケイスの知ってる人なんじゃない? 知らないけど」


 俺の知り合いでお守が必要? ……セレナ――な訳ないよな。今隣に居るし……。

 元パーティの連中もまだ居るはずだし、そもそもあいつらのお守を頼まれても御免だけどな。

 追放したってのにいいように使われてたまるか。


「まぁ、あいつが言うならそうなんだろ。……てことはしばらくここから離れられないのか」

「そうなるね~。……不満?」

「旦那はノワール様に宣言しちまいましたからね。ここに長くいると堕落するって」

「あー……しそう。すっごくだらけそう」

「そうじゃなくてするんだよ。だらけるの」

「胸張って言うことじゃねぇぜ、相棒。HAHAHA」

「ふむ。……では提案だが――」


 ようやく一本タバコを吸い終わったハウラが、横から口をはさんでくる。

 なんだろう、そこはかとなく嫌な予感がする。


「我らで毎日手合わせをすればよい。スカーレットは新たな力に馴染む鍛錬。ケイスは堕落せぬ為の保険。我らは暇つぶし。三方得しかないと思うぞ?」

「あ、それいいね!」

「それいいね! じゃねぇよ!! 俺はその度に『降魔』使えってか!?」


 どう考えても『降魔』無しで戦えるはずがない。

 

「それだと毎日できぬじゃろ。妾達も加減するわ」

「スカーレットの課題は『青』の接続時間だな。なるだけ長く保てぬと、相手はひたすらに待ちに徹すればいいことになってしまう」

「各自の目的に合わせて……か。流石にそれくらいはやんなくちゃだろうな」

「手合わせの後には温泉がある。たっぷりと汗をかかせてやろう」

「お、お手柔らかに……」


 こうして、俺がだらけないようにとセレナやハウラ、スカーレットが手合わせをすることが決まった。

 実際やってみると、これがまた吐くほどキツイのだが、手加減されているとはいえセレナやハウラと戦えているという事実は、中々に自信になってくる。

 そうして一週間ほどそんな生活を続け、たまには、と気まぐれで手合わせなしの日となったその日。

 タイミングがいいのか悪いのか、キックスターの言うお守を必要としている存在が、俺のことを尋ねてきた。


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