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増えましたとさ

 コンコンと扉がノックされ、目が覚める。

 気配的にアイナたちはもう部屋にはいないようだ。

 セレナやハウラならノックせずに入ってくるだろうし……であるならば、誰だ?


「どうぞ」


 まぁよその国の刺客ならノックしないだろうし、何よりここはノワール管理の宿泊地なわけで。

 特に深く疑うことなく返事をして。


「失礼するのよ」


 ノワールが中に入ってくる。


「あんたか」

「誰と思ったのよ」

「誰とも思わなかったからあんたかと言ったんだよ」

「なるほど」


 他愛もない問答を数回。

 しかし、こんな会話をするためにノワールがここに訪れた訳じゃないのは確実だし、一体……。


「変な駆け引きも好かん。単刀直入に言うのよ」

「お、なんだ? 改まって」

「ぬし、ここに住まわぬか? 共の二人も一緒に」


 何を言い出すかと思えば、俺に永住しろと。

 それほどまでに、俺の価値が高い。そう思ってくれているらしい。


「また急だな」

「優秀な冒険者や兵士の引き抜きは当たり前にどこの国でも行われているのよ」

「そりゃ確かにそうだが……」


 正直な話、普通だったら願ってもない話なのだ。

 基本的に冒険者も、兵士も、実績をもって国へと自分を売り込む。

 でなければ、よその国の兵士や、どこで何しているか分からん冒険者など、国の人間がいちいち把握などしていないのだから。

 しかし、今回のように話を持ってこられた場合は立場が違う。

 よそを出し抜いてでも自分が欲しい。そう言われているのと同義であり、それはつまり、自分にかなりの待遇の良さを確約できるのである。

 もちろん、声がかかるほどの活躍をしなければならないし、それが出来るのはどう考えても一握り。

 そうして声をかけられた者が、国の軍の中枢を担っているなんて国すらあると聞く。

 だから、願ってもない話なのだが……。


「無理……だな」

「何故なのよ?」

「まず、キックスターが俺らを監視してるだろう。そんな中であんたの誘いに乗れば、間違いなく消される」

「ふむ……」

「次、確かにここは居心地がいい。むしろ良すぎる。自慢じゃないが、俺はこんなところに長くいたら一切動かなくなるぞ」

「そ、それは単にぬしの問題なのよ……」


 考えてもみろ。今の待遇を続けるとして、温泉に入り放題でマッサージまでしてもらって食事は豪勢。

 わざわざ危険を冒しに行動する理由がないだろ?


「最後に、セレナとハウラ。あの二人は、ここでゆっくりするために俺についてきているわけじゃない。ていうか、下手したらここで俺たちと別れて別行動する可能性すらある」


 もともとセレナの目的は俺の持っているハウラの鱗だった。

 鱗どころかハウラ本人に出会えている以上、いつ俺から離れていくのかなんて本人にしかわからない。

 ハウラも、セレナが危険だったから駆け付けた訳で、その危険がなくなった今、自分の思うままに動いても不思議じゃない。

 だから、そもそもここに住む、という条件すら達成できるかわからない。


「以上の理由で無理だ」

「…………ま、そうよの。駄目で元々だったが、そううまくもいかぬものよ」

「んで、ちょっと聞きたいことがあるんだが……」

「? 余の分かる範囲でよければ答えるのよ」

「その……スカーレットって、ちゃんと儀式を終えたのか?」



 実際に見てみるといい。

 そう言って連れていかれたのは、セレナやハウラと手合わせをしていた馬鹿でかい広場。

 そこでは、セレナとハウラが見慣れない奴と戦っていた。

 楽しそうに。生き生きと。

 見慣れない奴を観察し、あの二人と戦えるのは何者かと気になってみれば……。

 あれ、()()()()()()か? にしては衣装が……。


「無事に儀式を終え、『わだつみ』の配下の力をその身に宿せたのよ。その影響で、頭巾が青へと変色しているのよ」


 そう、見慣れないと言ったのは見た目の色が青だったからだ。

 白も、赤も、黒も。それらはスカーレットが身に着けた頭巾の色で、俺は見覚えがある。

 ただ、今の青い頭巾は見たことがなかった。それを、『わだつみ』配下の力を得たから変色した?

 儀式は成功したってことだろうが、精霊の力を取り込んだ、と?

 すっげぇ嫌な予感しかしねぇが?


「お、ケイスか。目が覚めた――いや、動けるようになったのか」

「まあな。……そっちは変わらずっぽいな」

「あの程度の戦闘とも呼べぬ代物で疲れはせん。現に今、あのスカーレットの手に入れた新しい力を試すために、セレナと二体で遊んでいる程度には元気があるぞ?」


 俺に気が付いたハウラが軽く状況を説明してくれた。

 新しい力を使いこなすまでの遊び。まったく、軽く言ってくれるよ。

 セレナとサシで渡り合えてる時点で生半可な力じゃねぇぞ?


「『わだつみ』由来のせいか、妙に水の扱いに長ける。水を使った実態を伴う分身に、水から武器を生成したり、水を飛ばして攻撃してみたり、実に多彩だぞ」

「ほー。そりゃ凄そうだ。……で? 接続時間はどんなもんだ? そんな人間を凌駕しすぎた力が無制限ってわけじゃないよな?」

「見た感じ長くて三分。能力を使いすぎれば一分持たぬ」

「十分すぎるだろ。俺の『降魔』みたいなもんか」

「また一人、人間の枠を超えた力を持つ者が誕生した」


 そう言ってハウラは、タバコを咥えて吸い始めた。

 って、タバコとか吸ってたか?


「嗜好品だと言って貰ってな。すっかり気に入った」


 俺の考えを読んだか、あるいは表情に出ていたか。

 煙を吐き出しながらそう言って笑ったハウラは、思わず息を飲むほどに、魅力的だった。


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