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完了しましたとさ

 (『降魔(こうま) 月天命(ゲッテンノミコト)』)

 体の内から響く声は、俺の意志に反して体を動かし始める。

 倒れていた体を起こし、起こす過程で相手に向けた手のひらから、大量のデバフを吐き出して。

 向けられた先の『オオモノヌシ』は、吐き出されたデバフが見えるのか身をくねらせるが、


「残念でした~なの。ちょっとでも掠ったら無条件適用なの~」


 俺の口から出るツキの言葉に、俺の方を睨みつける。

 ……これ、冷静に考えてキモイな。

 さて、デバフはかけましたがどう出てきますかね。

 ぶっちゃけツキの大量のデバフは『藤紅』ですら食らわないようにと避けた代物。

 二天精霊の眷属である藤紅にはキツくて、四大精霊の眷属……なのかは分からねぇか。

 分からないとはいえ、四大精霊と二天精霊の眷属とがほぼ対等とかセレナが言ってたし、実力もそれに近しいのだろう。

 ……平気で限定空間とはいえ気の遠くなるほどの長い時間をすっ飛ばしたユグドラシルとセレナが対等かとは思えんが。

 まぁそれでも、『オオモノヌシ』を縛るくらいならばツキのデバフは十分すぎるはず。

 ハウラはツキのデバフの事を知らないが、セレナは藤紅の件で知ってるはずだし、そうこう考えてるうちにやっぱりセレナが拳を構えて突撃を敢行。

 ツキとの『降魔』はシエラとの『降魔』より圧倒的に時間が短い。

 出来れば決着はすぐがいい。頼むぞ……。


「悪いが、敵意を見せた時点で貴様の運命は決まっておるのじゃ」

「潰せばよいのだな?」


 一瞬遅れてハウラが跳ぶ。

 セレナの行動を見てからだから仕方ないが、それでも疾い。

 瞬きをする間に一気に『オオモノヌシ』との距離を詰め、パイルバンカーを狙い定めて突き出している。


「しばらく眠っておれ!」

「我らが居たことが運の尽きよ」


 拳が、パイルバンカーが。『オオモノヌシ』の顔面へと突き刺さり。

 大きく仰け反った『オオモノヌシ』は、水晶に巻き付いたままの体勢を維持できず後方へと吹っ飛び。

 滝つぼの中へと消えていく。

 …………えっと、終わりか?


「無性に手ごたえがなかったが、あやつの実力はあの程度か?」

「母上、今のケイスの力で大幅な弱体化を受けていた結果なのじゃ」

「四大に仕える存在への弱体化? ……ケイスは本当に人間か?」

「正確にはパパの体に『降魔』した私の力なの~」


 とまぁ、ツキの『降魔』を知らないハウラから疑問が口にされ、それに答えるのはやっぱりツキなわけで。

 おっさんの口から、可愛らしい女の子の声が出てくるわけで。

 視界の端で肩を震わせるスカーレットが見えたが当然無視。


「ふむ、呪いの装備の力の一端か。……強いな」


 何やら考え込むハウラだが、俺の意識はそっちを意識するよりも。


(ツキ、スカーレットに儀式は大丈夫なのか聞いてみてくれ)


 俺らが受けた依頼、スカーレットの力を示す儀式とやらの成功のための護衛、その是非についての方が気になって。

 下手すりゃ『オオモノヌシ』倒したのがセレナとハウラだから無効だとか、そもそも倒しちゃまずかったとかあったりしないか、かなーり不安なのだ。


「分かったの。スカー――」

(ちょ!? 今はあいつはルビーだ!)

「えへへ、そうだったの。ルビー? パパが儀式は大丈夫なのかー? って聞いてるのー」

「ぷ、くく。――へ? 儀式?」


 まだ笑ってやがったなこいつ。……まぁ、俺が第三者なら今の俺見て絶対に笑うがな。

 というか、体の操作権渡すと喋れなくなるのはツラいな。そこだけでも返してもらえないもんか……。


「ああ、儀式ならまだ大丈夫。そもそも、さっきの『オオモノヌシ』は儀式にはあんまり関係ないよ?」

「は? 関係ないって……お、喋れるようになってる」

「ちぇ、戻っちゃった。面白かったのに」


 少しは隠せ。今更っちゃ今更だけども。


「ええとね、儀式はそもそも祠で行うもの。ってのはいい?」

「まぁ、言われたとおりだな」

「んでもってここは滝。『オオモノヌシ』が居たのもここで、水晶を持ってきたのもここ」

「つまりは?」

「まだ儀式って始まってないんだよね。祠に入って、初めてスタートだから」


 ホッと安堵。これで俺らのせいで儀式が台無しになったかと思ってしまった。

 うん?


「けどハウラが、『オオモノヌシ』は契るはずの者が現れてないって言ってたぞ?」

「うん。だからさっき倒されて水晶の中に戻ってるじゃん」


 疑問をぶつければ即答で返ってきて。言われて水晶を見れば、中でグルグルと泳いでいるように動いている『オオモノヌシ』の姿が。

 ひょっとしてこの水晶って『オオモノヌシ』の入れ物だったりしたのか?


「てことは、それ持って祠に行けばいいってことか?」

「少なくとも、儀式はそこからスタートだね。と言うわけで、依頼完了ありがと!」


 そう言って水晶を拾い、歩き出すスカーレット。

 そこへ、距離を取っていたアイナ達が寄ってくる。


「終わった……の?」


 そう聞かれると同時に『降魔』が解除される。

 やっぱ早えな、ツキの時は。

 それだけ効果の多い、高いデバフだったんだろうが。


「ひと先ずは、の。これから……ルビーは祠へ向かい儀式とやらを行うらしい」

「足を引っ張らなかったのは褒められる事だ。今後、自身の力を過信せずに生きるがいい」


 セレナとハウラの言葉に、考えるアイナとラグルフ。そして、ほかの三人はスカーレットの背中を視線で追う。


「ていうか、当たり前にケイスが戦闘に参加しててびっくりしたわよ」

「なんで、戦えるの?」

「すっっっっごく不思議なので~、教えてもらえませんか~?」


 と詰め寄って来られたが、悪いな。

 それに答えるどころか、意識を保つのすら無理なほど消耗してる。

 ……やっぱ『降魔』二連続はダメだな。こうやってぶっ倒れちまう。

 と、傾く視界と掠れる意識にさよならを済ませ、俺はぶっ倒れるのだった。

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