違和感を感じましたとさ
依頼を終えた達成感を胸に。報酬を懐に。
――そして、疲労を全身に。
丸一日の徒歩での移動を終えてようやく街に戻れたわ。
マジで全身バッキバキ、つかもう動けねぇ。
町に戻るや否や即宿屋に駆け込んで、布団に倒れ込んだ。
あぁ、多少固いは固いがそれでも木の根とかよりは全然マシだ。
このまま眠りてぇ……。
「御くつろぎの所悪いですがね旦那。少し耳に入れたい事がありやして」
「明日じゃダメか?」
「割と大事な話と言うか、シズ、後任せました」
明らかにメンドクサイオーラ全開でトゥオンに対応すると、当のトゥオンはシズへと丸投げしてそれっきり喋らなくなる。
多分寝やがったな。
「んで? シズ、お前から何かあるのか?」
「はい、あの……数日前に村でこの街の空気の事についてお話したじゃありませんか?」
「あったな、作られた風だとか何とか」
「はい、その風なんですけど、とても嫌な感じでした」
なんだそりゃ、凄くフワッとした言い方だな。
「具体的に何かないのか?」
「肌にまとわり付く風、感覚的に言うと墓場の空気とでも言いましょうか」
「そんな感じの風を感じた、と?」
「はい。だからどうこう、というわけでは無いのですが、普通では無い。少なくとも、依頼をこなす前の街とは別の空気という事を頭に入れておいていただけると……」
風魔法を操るが故に、風や空気には敏感なシズに言われたらまぁ、警戒はしとくか。
「分かった。他に無いか? 無ければ寝るぞ」
「おやすみなせぇ、旦那」
「いい夢をな、相棒」
「パパおやすみー」
「兄さま、ごゆっくり」
「ご主人様、私を下に敷いて眠りませんかっ!?」
何か一つだけ変な言葉が聞こえた気がするが完全に無視して俺は意識を深く沈ませていった。
*
朝、偉く肌寒さを感じて目が覚めた。
窓が少しだけ開いていてそこから隙間風が入って来ていたらしい。
ちょっとだけ頭痛いか。
「おはようございます旦那。……大丈夫ですかい?」
「おはよ、……薬草煎じて飲んどきゃ平気だろ」
「パパー、大丈夫ー? 治癒、するー?」
「ツキ、治癒魔法、ダメ。病気だったら、病原体、元気になる。余計に、悪化する」
「薬草湯飲んで安静にしておくのが一番ですね。――ご主人様は恐らく安静にして下さらないでしょうけど」
「当たり前だろ。金は有限だ。依頼をこなさなきゃ野垂れ死ぬしか未来はねぇぞ」
宿屋の一階に降りながら朝一の掛け合いを済ませ、食堂のおばちゃんに薬草を煎じてもらうようお願いする。
一階は受付と酒場、そして食堂。2階が宿泊部屋というのが主な宿屋のスタイル。
宿泊費とは別に金を払わなきゃ飯は出てこないし、金を出しても部屋で食う事は出来ない。
朝日が顔を出した程度の早起きだったが、すでに食堂には何組かのパーティが散見された。
つか俺昨日倒れる様に寝たせいで飯食って無いんだった……。
簡単な朝食を頼むか……。
と、薬草を煎じるのとは別にパンとスープを注文し、宿屋に置いてある情報板へと目を通す。
細かな情報こそないが、大体の街や村のイベントや起こっている事件などはこれを見れば大体把握出来る。
んーと……?
(旦那、ちょいと気になる記事、ありますね)
(いきなり脳内直通会話は結構ビビるぞ……。どれの事だ?)
(兵士が数名行方不明って記事ですよ。城下町なんかならまだ納得出来ますが、城から離れているこの街で行方不明なんて、よくある事ですかい?)
(ん、……昨日までで5人か。……逃走ってのも考えにくい。この兵士達の捜索依頼なんか出てるかもな)
トゥオンとの脳内相談をしていると、食堂のおばちゃんが頼んだパンとスープと薬草湯を持って来てくれる。
パンをちぎってスープに浸し、喉へと流し込んでいく。
(とりあえずギルドに行っておこぼれもらいに行くか)
(旦那、言い方言い方。ギルドで扱えない依頼を回して貰うとかもっとあるでしょうよ)
(んじゃあそれで、とりあえずギルドだギルド)
残りのパンを口に押し込んで、スープで流し込み、その後で薬草湯を飲み干して、俺は宿屋を出た――所で思わず顔をしかめる。
何だ? 妙に鼻につく匂いが漂ってんな。
「これが昨日シズが言ってた墓場の空気ってやつか?」
口布を着けながらそう確認すれば、
「昨日はここまで酷くはなかったはずです。あまり吸い込まないでください」
「とりあえず口布は着けたが、他に何かした方がいいか?」
「相棒! 私の出番だぜ!」
「は? シエラの? 何で?」
「シエラ、には、状態異常耐性、付与の効果、有る」
「マジで!? 滅茶苦茶便利じゃねーか!?」
「伊達に呪いの装備じゃねーんだぜ!? どうだ相棒、見直したか!?」
素直に感心だわ。なんだろう、初めてシエラを装備してて良かったと思える事かもしれない。
(それ、本人に言ったらダメですからね?)
と、トゥオンに釘を刺されつつ、先ほど感じた匂いが感じられなくなった事に感謝しつつ、俺はギルドへと向かうのだった。