段取りをしましたとさ
意識を取り戻したラグルフの案内で、アイナ達が依頼を受けた村へと到着。
……というか、目が覚めてからラグルフ以外誰も言葉を発しなくてかなりいたたまれない気持ちになった。
いや、ラグルフが悪いんだけどさ。
一度は俺より強いとアイナ達に示したはずなのに、そうではなかったと、現実を見せつけられて。
最初に手合わせしたときには俺が勝つって選択肢はなかったからな。
あそこで俺がラグルフをボコってしまえば、それだけこのパーティに未練があるのかとアイナ達に責められただろうし。
何より、これからパーティに加入するやつがボコボコにされればその時点で空気が悪くなるだろ。
一応はリーダーのアイナの決定でもあるわけで、それが間違っているとなればハウラにも言ったように解散の方向へと向かいかねない。
だからこそ俺は負けた訳なんだけどもな。その事を理解していなかったラグルフが悪い。
しかも調子に乗って、素性を知らないとはいえセレナやハウラに声をかけたからさらに悪い。
パーティに入った以上、自分の身よりもパーティのメンバーを……仲間の方を大切にしなくちゃいけない。
その事を分かっていなかったラグルフは、アイナ達から無視されても当然。
セレナやハウラはすでに居ないものとして扱っているから、まだアイナの方が温情がある。
ほとぼりが冷めれば、前見たく無視はしなくなるだろうよ。
失った信頼はそのままだし、パーティないの序列も下がってるだろうがな。
「ここです」
声のトーンがいくつか落ちたラグルフが連れてきたのは、やや寂れた村の入り口。
アイナが言うには、『シラト村』という所らしい。
何でも、漁業を生業にしているのだとか。
早速村長のところへと案内して貰おうとして、セレナが足を止めた。
「どうした?」
「……嫌な予感がするのじゃ」
マジか。セレナの嫌な予感ってかなりの確率で当たるから正直よろしくねぇんだが。
「どんな感じのだ?」
「分からぬ。……ただ、藤紅ではないのは確かじゃな」
「ここであいつ出てきたらビビるわ」
「何の話?」
軽口に口を挟んだアイナへ、セレナの虫の知らせのことについて説明。
「そうなんだ……。過去に嫌な予感でどんなことがあったの?」
「二つ名付きのモンスターに襲われたり――」
言った瞬間にしまったと思うが、もう遅い。
というか、もはや二つ名と戦うのが当たり前の様に思ってしまっている自分が嫌だ。
普通は姿すら見ずに一生を終える存在だっつーの。
……セレナがこの場に居る時点でアイナ達も等しく姿を見てはいるのだが。
「二つ名付き……?」
冗談を、とでも言いたげにアイナ達に見られるが。
そんな目で見ても真実だ。……残念な事に。
「マジ?」
「マジ」
「何でケイスは生きてる?」
「生き延びたから」
「二つ名付きって~、伝説上のモンスターですよね~?」
「俺にとってはもはや伝説でも何でもない。すでに三体は見てるぞ」
「素材とか、ない?」
「あったらもっと贅沢してる」
唐突な一問一答が始まったが、やってどうなるよ。
まずは二つ名もそうだが、セレナの言う『嫌な予感』ってやつに備えなきゃだろうに。
「セレナよ。他に何か分からんのか?」
「母上、妾にはその程度しか分からぬのじゃ」
「卑下するな。我は何も感じられていない。セレナのその予感だけが今の所頼りよ」
ほう。ハウラは特に何も感じてないのか。
となると予感の正体は白龍に備わる何かじゃないってことか。
……だったら何だ? 二天の眷属だからって線はあるが、それだと過去のハウラも出来たはず。
ならばハウラは、昔は我にもあった。位は言いそうだがそれもない。
セレナ固有の能力なのか?
「して、ケイスよ。どうするのじゃ? 正面から村長のところに乗り込むかや?」
「ん? ……いや、それだと家全体が罠だったときのことを考えると美味しくない」
そんなことを考えていると、どうするか? とセレナからの問いかけが。
あんまりやれる事少ねぇんだよな、こっちから出向く時って。
「とりあえず、最初はアイナ達だけで行ってもらうか」
「はぁッ!? 私達だけ危険な目に遭えっての!?」
「最後まで聞けって! そもそも依頼を受けていない俺らが一緒には行けば、向こうは絶対警戒するだろ。もし村長の言う家宝ってのが『オオモノヌシ』の探すアイテムなら、後ろめたさで変な警戒をしてるかも知れんし」
「あ、確かに」
俺の説明に、相槌を打ったのはグリフ。コイツはどうやら俺の言わんとしていることが分かったらしい。
「つまり、家宝のことを探るだけならケイス達を連れていない方がいい、と」
「そういう事。変に刺激して嵐とか呼ばれたらシャレにならんし」
「でも、どのみち家宝のことについて問いただすのよね?」
「まぁ、そりゃあな」
「でしたら~、どのみち警戒されてしまうのでは~? 嘘を付かれないとも限りませんし~」
「嘘についてはハウラが見抜ける。俺らももちろん村長とお前らが話をしている時近くに居るし、何なら村長が怪しい動きをしようとしたときにすぐにでも飛び出せるようにしとく」
「……出来るの?」
「やるさ」
俺がまだパーティに居た頃の話。俺は必ず自分の事を過大評価せずに意見を言った。
これなら出来る。これは出来ない。全てを、正直に。
だからこそ、俺の『やる』という言葉は、こいつらにとっては絶対の証。
正直、まだ俺を信頼しているかは疑問だったが、どうやら先の件でラグルフよりは信頼できると思われたらしい。
「じゃあ、向かいましょうか」
話が終わったなら、と村長の家へと歩き出そうとしたラグルフを、
「待て。村長の所に行くのは夜にしてくれ」
と言って引き留める。
「どうして?」
そう尋ねてくるアイナへ、
「そっちの方が都合がいい」
とだけ答えて頷く。今夜は周期的に、満月が昇るはずなのだ。