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試されましたとさ

 傾けた水筒の角度を戻す頃には、すでにラグルフが地面に転がっていた。

 まぁ、直撃受けてないだけマシじゃね? 直撃だったら肉片に成り果ててるだろうし。


「何じゃ、もう終わりか」

「捌くどころか直撃を外すだけで精一杯か。ま、その程度よな」


 倒れたラグルフを見下ろしながら、ハウラとセレナが口々に言うが、お前ら周り見ろ。

 アイナ達が口を開けたまま固まってるぞ。……せめて目で追えるスピードで動いてやれよ。

 コキコキと首を鳴らし、伸びをするハウラと。

 屈伸をし、足首を回していたセレナは。

 揃って俺の方へと振り返り……。


「やはりダメだ。全く物足りん」

「同じくじゃ。……ケイスよ――」

「絶対に嫌だ」


 目が怖いくらいに光ってるのが嫌すぎるんだよ!

 絶対俺にも手合わせ要求してくるだろ!


「なに、軽く交えたら納めるさ」

「ほれ、早う構えよ」


 ……ダメだ。話を聞いてくれない。

 軽くとか言ってるが、その軽くの基準はあいつらなんだよなぁ。

 人間基準では絶対に軽くない事を断言しておこう。

 ……しょうがない。村に着く前に疲れたくなかったが、相手しますか。


(シズ、戻って来て早々悪いが頼むぞ)

(任せてください! ご主人様)


 シズに魔法による補助をお願いし、セレナとハウラが視界から外れないように注視し、(シエラ)(トゥオン)を構える。

 ハウラ達相手に装備の力借りないとか無理無理。

 ラグルフは自分だけの力だっただろうが、俺はそんなことはない。

 ひけらかしたりしないだけで、普通に使わせてもらう。……というか、使わないと死ぬ。物理的に。


「ではケイスよ」

「行くのじゃ!」


 そう言って、地を蹴る二人。

 その速度は先ほどラグルフを一撃で地に転がした速度と同じ。

 ……つまり、アイナ達は目で追えない速度であり。

 俺が癖を知っているからこそ対応出来るギリギリの速度である。

 まず警戒すべきはセレナ。ハウラももちろん危険だが、素手とパイルバンカーとを比べると、どう考えても素手が速い。

 取りあえずシズの力を借りて大きく跳んで、あえてセレナの正面に移動。

 どうせ避けるだろうからと、顔の高さにトゥオンを突きだして。

 下段への攻撃に備えてシエラを構え、衝撃を感じたら即座に後ろに跳ぶ。

 反射された衝撃も手伝って、かなり後方まで下がることが出来た。

 すると、先ほどまで俺がセレナを迎え撃っていた場所に、ハウラが降ってきて。

 パイルバンカーを射出しながら落ちてきたからなのか、地面に穴が穿たれる。


「むぅ、やりおる」

「小癪な」


 待て。軽くって言ってるのに小癪な、は無いだろ。

 絶対に本気じゃねぇか。

 ……とはいえ焦っても仕方無いし、どうせハウラは正面から突っ込んでくるだろうから、もうトゥオンの横薙ぎを置いておいて。

 セレナは左右どっちかは分からんが、側面からの攻撃を目論むはず。

 置き横薙ぎを終えた直後に、盾構えて右方向に突進をかけよう。

 まさか俺から近付いてくるとは思わんだろうし、うまくいきゃあ当たって吹っ飛んでくれるだろう。

 来る方向が逆だったら空中に逃げる。……む、二人とも突っ込んできたか。

 俺の横薙ぎを躱すために、ハウラは後ろへ、セレナは上へ。

 ……ていうかハウラ、物理法則を無視した動きやめてくれ。

 もの凄い勢いで突っ込んできた筈なのに、その速度殺して後ろに跳ぶとか足への負担どうなってんだよ……。

 取りあえず、空中に跳んで身動きが出来ないセレナに攻撃を――!?

 

「うおっっ!!?」


 あっぶねぇ、空中で回し蹴りなんて聞いてねぇぞ……。

 シエラでの防御が間に合わず、何とかメルヴィの手甲で受け止めた……が。

 そのせいで体勢が崩れてしまう。もちろん、そんな明確な隙をハウラが見逃すはずがなく。

 後ろに跳んでいる途中で空を蹴り、雷のような勢いで俺へと突っ込んでくる。

 流石にそれは無理! トゥオン!!


(はいはい旦那! 任せてくだせぇ!!)


 トゥオンに呼びかけ俺とセレナ、ハウラの間に氷塊を召喚。

 その氷塊で一瞬だけ時間を稼ぎ、その一瞬で俺は姿勢を立て直す。

 立て直すと言っても、シズで空中を一歩踏んだだけ。……とはいえ、踏ん張りが効かない時よりは圧倒的に立て直せたと言える。

 まぁ、立て直したところで、氷塊を砕いたセレナとハウラが目前に来ているし、後は衝撃に備えるしかねぇな。

 とはいえ、ハウラのパイルバンカーはまともに食らうと痛いどころの話ではないので、そっちは可能な限り回避しよう。

 セレナの一撃は甘んじて受けるしかねぇな。ちょっと……以上に痛いだろうがまぁ、しょうがない。

 と、覚悟を決めはしたが、いつまで経ってもその衝撃が訪れることはなく。

 ハウラとセレナは、俺への攻撃を寸止めした状態で止まっていた。


「ふぅ。……ようやく一本取れたのじゃ」

「流石に、我とセレナと相手取るのは厳しかったか」

「厳しいとかじゃなくて、無理だから。普通に考えて」

「じゃが結構持ったの。初撃で決めるつもりだったのじゃがのう」

「癖を読まれているからだろう。だからこそ、途中で我の指示に従ったセレナの動きにはついて行けておらんかった」


 あぁ、予想と違う動きしてきたと思ったらそういう事か。

 ……ていうか二人で意思疎通してんじゃねぇよ。ただでさえ勝てねぇのにより勝てなくなるだろうが。


「まぁ、満足したしよし」

「じゃの。……ラグルフとは大違いじゃ」

「比べるのすらおこがましいわ。起きたら言っておけ。ケイスの足下にも及ばんとな」


 パイルバンカーのカバーをつけ、ポカンとしているアイナ達へそう告げたハウラは。

 まだ起き上がってこないラグルフへ近付くと、片手で持ち上げ左右に揺すり、無理矢理意識を覚醒させるのだった。

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