無謀でしたとさ
「いった……ちょっとケイス! 何して――」
「ああでもしなかったら抜けられてねえだろ! ……さて、全員いるな?」
「無事」
「大丈夫です~」
「平気」
腰の辺りをさすりながら声を荒げたアイナに重ねるように、俺の行動が正しかったことを主張して全員の安否確認。
ハウラは元より心配してないが、元のパーティの奴らは心配しすぎるぐらいが丁度いい。
とはいえ全員が無事に霧を脱出出来たようで、一先ず胸を撫で下ろし――。
「って、ルビーがいねぇじゃねぇか!!」
俺たちを脱出させた張本人。『オオモノヌシ』を恐らく『降魔』させたスカーレットの姿が無いことに気が付いた。
「あれほどの魔力を放出してすぐに動ける人間はいないと思うが? それに、『オオモノヌシ』も早い帰還を望むと言っていた。我らだけを逃がすのが精一杯だったのだろう」
鎧や盾についた氷の結晶を払いながら、ハウラがそんなことを言いだして。
何で今更とも思ったが、実際さっきまでのタイミングでそんな事を言うタイミングは無かったわけで。
仕方がないとため息をついて、未だに地面に座り込んでいるアイナ達へと向き直る。
「んで? お前らが依頼受けた村ってどこだ? 案内出来るか?」
「えっと……方向さえ分かれば、多分」
「多分て……。まぁいいや、そっちは合流出来たんだし、誰かしらは覚えてるだろ? 頼むぜ」
俺が言う合流がいまいちピンときてないのか、四人とも首を傾げているが。
遠くから手を振って歩いてくる俺と入れ替わりでパーティに入ったラグルフの姿を見て、どうやら合点がいったようだった。
*
「で? 何でケイスはラグルフと合流できるって知ってたのよ」
意外なことに道案内を買って出たのはラグルフで、ラグルフを先頭にアイナ、アトリア、エルドール、グリフと並び、その後ろを俺とハウラとセレナが並走。
端から見れば男二人に女性六人とハーレムパーティに見えるかもしれないが、別にそんなことは無い。
……ラグルフがどうかは知らんが、俺は少なくともセレナ達からくっつかれていないしな。
(旦那はあっしらと常に密着し、触っている立場なの忘れてませんかねぇ?)
(凹凸が欲しけりゃそこだけ具現化してやろうか? HAHAHA)
(断固、拒否)
(ツキが具現化しちゃったらー、パパの首折れちゃうよ~?)
訂正、女性十一人だったわ。呪いの装備五つも女性だったなそういや。
っと、アイナから問われてるんだったっけか。
「んなもん、セレナと連絡取ってたからな。ある程度離れてても意思疎通できるようにしとかないと、今回みたいな事になったときにどうしようもなくなる」
俺とセレナが連絡取り合ってたわけではないし、何ならセレナとじゃないと今回の意思疎通は出来ないけどな。
セレナがシズを履いていったからこそ出来たわけだし。
セレナじゃ無きゃ装備を外せない時点で他のヤツとやれるはずが無い。
「ところで、気になっていたんですけど、お二人はどうしてケイスさんと共に?」
俺の答えなど知らないと、セレナとハウラに話を振ってきたラグルフに軽く目眩を覚えてしまう。
まさかだけど、まだセレナとハウラを引き込もうとしている……なんて訳無いよな?
俺の予想が正しければ、ラグルフは一度見逃されているはずだ。
なのにそれを察せずに二度目……なんて事になれば、ハウラは確実に首飛ばすぞ。
「多大なる恩を受けた」
「最初は報酬目的じゃったかな。……ま、その延長戦でかなり巻き込んでしまってな。気が付けばこうして一緒に動いておるのじゃ」
そういやセレナは最初ハウラの鱗が目的だったんだよな。
そしたらセレナードの核の件で巻き込まれたんだっけか。……少しだけ懐かしい。
「それって、ケイスより俺の方が上だと証明できたらどうにかなる?」
――あ、ヤバイ。コイツ死んだ。
本能的に心の中で両手を合わせた俺だったが、隣に居るハウラからは驚きの言葉が。
「丁度いい。試して見ればいいだろう。よもや貴様程度が、ケイスに勝てるわけも無いが」
歩みを止め、眼を細めながらそう言ったハウラの目は……残念ながら笑っていない。
……嫌な予感しかしねぇ。
「うっし。じゃあケイスさんよ、また地に這いつくばらせてやるぜ!」
一度目の理不尽な手合わせの事を思い出しているのか、もう勝った気でいるラグルフだが、絶対そんな単純じゃないぞ。
「何を言うておるのじゃ? 直接殴り合う必要など無い」
「へ?」
「そもそも貴様の意見は『自分の方がケイスより上』だろう? ならばケイスと手合わせするでは無く、我らと手合わせしてケイスより上だと認めさせるほかない」
絶対に無理だ。二天精霊の眷属相手にまともにやりあえるかよ……。
ましてやラグルフなんてセレナのもハウラの癖もまるで知らないんだぞ?
目がついていかなくて一撃すら捌けるか分からんぞ……。
「えっと……それはつまり?」
「遠慮はしない。一撃でも食らえば死ぬと思い……構えよ」
冷や汗ダラダラで確認するラグルフに、すでにやる気満々のハウラとセレナ。
ゆっくりと拳を握りしめて体の前で構えるセレナと。
パイルバンカーのカバーを外し、何度か試射をして状態を確認するハウラ。
……二対一か。マジで死んだかもな。
「ちょ、ケイス! あの人達強いんじゃないの?」
「べらぼうに強いぞ? というか、俺は絶対に勝てん」
「何であんなに認められてる?」
「向こうが勝手に気に入ってるだけだろ。俺に聞くなよ……」
「率直に言って~、ラグルフさんは大丈夫だと思います~?」
「原形留めるように祈るしかねぇな」
「何とかならない?」
「ラグルフが土下座すりゃセレナ達も引っ込めるんじゃないか? 知らんけど」
流石にセレナもハウラも本気でやるまい。なら今回の事はお灸と言う事で、ラグルフに据えてもらうこととしよう。
手近な石に腰を下ろし、引きつった笑みを浮かべて小さく震えているラグルフを眺めながら。
俺は水筒をゆっくりゆっくりと傾けるのだった。