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飛び出しましたとさ

「しっかし、手がかりはあるけどどうやってこいつらが依頼受けた町まで行く? 霧に入れば抜けられないし、唯一霧が晴れているここも空飛べないと抜け出せねぇだろ?」


 わざとらしく、特にハウラに向けて俺はそんな言葉を向けて見せた。

 本来、ハウラは空を飛べる。元々人間じゃないわけだし、元の姿に戻れば空を飛ぶなど余裕も余裕だろう。

 しかし、そんなことは百も承知な俺がわざわざそう口にするという事は、その事は言うなと言う釘刺しに他ならない。

 そりゃあ、それが一番手っ取り早い。……が、その事をこいつらが知って。

 どこからかハウラのことをアイナ達が知っているという情報を手に入れた奴らが、アイナ達を襲わないという保証は無い。

 ぶっちゃけ俺はいいのだ。装備がある、や、セレナもいる。と言ったことを抜きにして、いつ死んでもいいと思っているから。

 何度も死地を経験し、その都度に覚悟を決めてきたが、俺の覚悟はすでに決め終えているし。

 トゥオン達には悪いが、セレナやハウラを人間のいざこざに巻き込むくらいなら自害する腹づもり。

 ――今はこいつらが勝手に巻き込まれに来ているのだからそんな事をする気はないが。

 そんな俺の身よりも、まだまだ若く、これからがあるアイナ達が俺や俺についてきているハウラやセレナのせいで人生が歪むのならば。

 それは俺が防がなければならない。

 ならば、知らないに越したことは無いのだ。度々言われる、『人間は欲深い』という言葉の通り、どこまでもを求めるだろうから。


「ふむ。そうだな。……『オオモノヌシ』でもどうにか出来ないか?」


 どうやら俺の意図を汲んでくれたハウラは、顎に手をつけて考える素振りをし、振り返って『オオモノヌシ』の方へと視線を向ける。

 そんな視線を受けた『オオモノヌシ』は、申し訳なさそうにゆっくりと首を振った。

 ……ダメか。どう見ても同じ水属性っぽいし、何とかしてくれないかと期待したんだが……。

 となると――。


「ん? ……そうか」


 やっぱりハウラに、なんて考えようとしたとき、『オオモノヌシ』がハウラに何やら意思疎通をし。

 ――というかどうやってハウラ達は会話してんだ……。


(精神世界での会話みたいですぜ? あっしらにもぼんやりと聞こえますし)

(ぼんやりって言うか、虫が鳴く程度の音量だけどな! HAHAHA)


 納得。どうりで俺やアイナ達がキョトンとしてハウラが代弁するまで待つハメになるわけだ。


「娘。『オオモノヌシ』が所望だ。額に手を当てよ、と」


 『オオモノヌシ』からの指示があったのか、ハウラはスカーレットを指差し、『オオモノヌシ』の額へ手を当てろと促して。

 恐る恐る、『オオモノヌシ』に近寄って言われるままに額に手を伸ばすと――。

 『オオモノヌシ』が……笑った。

 いや、実際に笑ったかは分からないが、笑ったような気がした。

 纏う空気が丸くなったというか、柔らかくなったのをハッキリと感じた。

 ――瞬間。そこにさっきまで居たはずの『オオモノヌシ』の姿が消え失せて。


「――っ!?」


 俺とアイナ達が驚いていると、


「そういう事……」


 『オオモノヌシ』の額に触れたままの体勢で固まっていたスカーレットがゆっくりとこちらを振り返り。

 振り返ったスカーレットの額には、先ほどまでなかった変な紋章が浮き出ていて。

 三股に割れた槍を大きな雫が飲み込んでいるその紋章は、恐らく『オオモノヌシ』が()()()()()()()のであろう証拠。

 そして、スカーレットが今呟いた言葉の真意は……。


「道を今から作るから、すぐにそこから出て」


 どうにか霧を突破する方法が見つかったと言うことで。

 その言葉を聞いて、俺とハウラはいつでも走り出せる準備をし、少し戸惑ったアイナ達も、俺たちの様子を見て各々準備をする。


「カウント、ゼロで駆け出して」


 霧へ向けて指を差しながらスカーレットはそんなことを言った後、胸の前で手を合わせ、目を閉じて瞑想する。

 そんなスカーレットから感じるのは……冷気。

 何をどうするかなんてさっぱり分からんが、それでもあの『白頭巾』が言うのだ。

 ハッタリであるはずがない。


「三……二……一……」


 急速にスカーレットの合わせた手に魔力が集まっていき、魔力が濃すぎるせいか色がついているように見える。

 普通は視認など出来ない事を踏まえると、そこに一帯どれだけの魔力が集まっているのやら……。


「ゼロ!」


 言われた通り、それを合図に全員が指を差された方向へ全力ダッシュをかまし……。

 俺のすぐ脇を、水色の螺旋状のモノが通り過ぎる。

 直後、感じるのは身をすくめる程の寒さ。が、当然ソレで足を止めるなんて事は無く。

 その螺旋状を追うように、霧へと入ろうとして――。

 雪が……舞った。

 いや、雪というか、細氷、ダイヤモンドダストと呼ばれるものか。

 霧として漂っていた水が、先ほどの水色の螺旋によって凍りつき、このような現象になった……と。

 何とか人二人が並べる幅の霧に出来たその道は、もうすでに霧を貫通していて。

 元の形状に戻ろうとする霧に纏われまいと、俺とハウラは――。

 まるで示し合わせたかのように、前を走るアイナ達を巻き込みながら……前へと跳躍した。

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