出てきましたとさ
槍を掴まれて見つめ合うという端から見れば怪しいことこの上ない行動が終わり、俺の心に今回の事が終わったらラグルフにいろいろと叩き込む事を決めたころ。
ボコリ。と。
不意に滝壺から、大きな泡が浮かんできた。
「――!?」
咄嗟の警戒はもちろん全員で。
何が起こるかと固唾を飲んで見守る中。
ソレは、ゆっくりと浮かび上がって来た。
青、水色、空の色、雲の色。
どの色とも表現できない鱗持ち、顔には長い髭を蓄えて。
頭には角、その全ての特徴は……その存在を『龍』だと物語っていた。
――これが、『霧蛟』か?
……威圧感はそこまで感じないのは、隣にハウラが居るからか?
まさか、これくらいのモンスターに慣れちまったなんて線は……。
(まぁ、旦那は藤紅とこの前まで戦ってましたし?)
(ついでに『牙蜘蛛』なんてのもくっついてたからな! HAHAHA)
(アイナ達、は、眼を、丸く、してるけど)
(あいつらは二つ名持ちなんて見たことないだろうしなぁ……)
(普通は見たことないと思うのー。パパだけじゃないかなー?)
否定もしてくれないありがたい装備達から意識を切り、何か仕掛けてくるかと目の前の龍へと意識を戻す。
……ていうか、何で動かないんだ? 同じくハウラも動かないし。
なんて、思った時である。
「相分かった。ならばこやつらを頼れば良い」
なんて言って、ハウラがこちらを振り返る。
「ケイスよ、こやつの名は『オオモノヌシ』と言う。――どうやら……」
僅かに笑みすら見えるハウラの表情は、もの凄く嫌な予感を覚えさせ……。
「助けが必要なようだぞ?」
その予感は、悲しいことに当たってしまうのだった。
*
ハウラから聞いた『オオモノヌシ』というヤツの状況はこうだ。
自分と契りに来る筈の者が待てど暮らせど来ず。
待っている間に眠ってしまい、契る際に必要だというアイテムがどこかに行ってしまった、と。
どうにもソレは四大精霊の『わだつみ』ゆかりのアイテムであり、俺たち人間が行使するには大きすぎる力らしい。
そして、探しに行こうと周辺を探ろうとしてみたところ、この霧によって囚われてしまった、と。
……恐らく契る相手ってのがスカーレットだな。全力で視線逸らしてるけど。
んでもってこの霧が作為的な者だと言うことも確定。
何に使うかは知らんが、『わだつみ』ゆかりのアイテムで企んでいるのだろう。
でなければ、自分に過ぎたモノだと返すはずだしな。
(旦那みたいな謙虚な人間は一握りですってば)
と呆れた口調でトゥオンに言われたが、どうなるかも分からない力なんて振りかざすの怖くね?
いつ自分に返ってくるか分かりもしねぇんだぞ?
「それで、私達に何をしろって言うのよ?」
話を聞いていたアイナがそう口にする……が。
何をするかなんて決まってるだろ……。
「『わだつみ』のアイテムってヤツを持っていった犯人捕まえて回収しろって事だろ」
「さらっと言ってるけど『わだつみ』なんて、伝説上の精霊のアイテムなんて私達の手に負えないでしょ!」
あ、この流れは非常に嫌な予感がする。
頼むから口を出さないでくれよ――ハウラ。
「まぁ、『わだつみ』本体を相手にするわけでも、『わだつみ』の神器を奪われたわけでもない。『オオモノヌシ』が与えられていた道具ならば、我らでもどうにか出来るだろう」
「か、簡単に言われますが~、私達そこまで強くはありませんよ?」
「? 別に貴様らに期待などしていない。我とセレナ、そしてケイスが居れば事足りる」
「ちょ、何でケイスも!?」
「? 知らぬのか? ケイスは二つ名――」
「だー! 言わんでいい!! 言わんでいい!! ややこしくなる!」
ハウラ本人が元眷属って明かす流れじゃなかったのは良かった。
――が、俺が二つ名持ち倒したって話もいらん! こいつら口軽そうだからすぐ広めそうだし、そうなると俺は他国から命を狙われかねん。
外交の道具にすらされる可能性すらあるし、そう言うのはあんまり広まるべきじゃない情報なんだよ。
「何よ、言いなさいよ!」
「俺を追い出した奴らに教えるかよ。どっか離れたところで俺の噂聞いて後悔でもしてやがれ!」
アイナが突っかかってくるが言うだけ言って無視だ。
「その『わだつみ』のアイテムってどんなことが出来るんだ?」
「……霧の発生と嵐までなら呼べるらしい」
「までならって……十分すぎるだろ。見た目は?」
「……青い水晶らしい。両手で抱えるくらいの大きさだそうだ」
結構デカいな。……そんなもの持ってたら、嫌でも目立つと思うが。
「ねぇ? 青い水晶って、アレかしら?」
と、俺の後ろでアイナ達が何やらひそひそ。
「村長さんの家に飾ってあった」
「家宝って言ってましたよね?」
「あれがそうなのでしょうか?」
「何の話だ?」
ズイと。俺の脇を一歩で抜けて、ハウラがアイナ達の輪の中へと顔を割り込ませる。
お前ら、素直に答えとけ。ハウラの右手のパイルバンカー、いつでも発射出来る状態だぞ。
「私達に依頼をした人の家に、今言ってた特徴のモノがあったのよ。それじゃないかと」
「なるほど。一先ずは手がかりがあるのだな」
一瞬納得したように頷いて、ハウラは。
――ジャキ。
アイナの眉間へ、パイルバンカーを構えた。
「へ?」
「ケイスは許しているが、貴様如きに対等な口をきかれるいわれはない。懺悔せよ」
そして、一瞬後。
俺は初めて、アイナの本気の土下座を見た。




