任務達成しましたとさ
「ケイスさん! お帰りなさい!! その――どうなりました?」
村へ戻ると俺の姿を確認したカナは、最初は笑顔で駆け寄って来たのだが、
俺の姿が綺麗過ぎると思ったのか。
もしかして失敗したのでは? という懸念に変わり恐る恐る訪ねてくる。
「無事ゴブリンは殲滅したぜ。そんで、ほれ」
依頼内容の達成を告げ、ハウラから預かった鱗をカナへと渡す。
「――これは?」
「この土地の守り神から預かった鱗。今身重らしくてな? 供物として農産物が欲しいらしいぞ?」
「えっ!? 守り神様とお会いしたのですか!?」
「おう、会ったぞ。それはそれは美しい白い龍だったな」
少し躊躇いながら、俺から渡された鱗を受け取って。
ゆっくりと胸に抱くカナ。
「これが……守り神様の……」
「それを持っておけばモンスターには襲われないらしいし、それを供物に添えて置いておけば守り神様の目印になるそうだ」
「それが3枚も……」
「村に置いてモンスター避けに一枚。供物の持ち運び役に一枚。供物の傍に一枚。供物の傍の奴は守り神様が供物持ち去った後に回収すりゃいいから足りるよな?」
ハウラという名前を出さず、カナに合わせ守り神様と言うのには少々訳があって……。
モンスターの中でも名有りというのは格が違う。
それこそ神。と呼ばれるようなモンスターのみが自ら名を名乗っている。
そんな恐れ多い名前を勝手に周りに言って見ろ。
即やられるわ。文字通りミンチにされるし、下手すりゃ塵すら残らねぇ。
「十分です。……ですがゴブリンの討伐が依頼だったのに、何故守り神様とお会いに?」
あ、そうだわ。そこ説明してねぇわ。
「えぇと、掻い摘んで話すぞ?」
と、そこから時折、「えぇ!?」だとか「そんな!?」とか相槌を打たれながら。
一連の出来事をなるべく俺がかっこ悪かったと思う部分を除いて伝え、
「そ、そんな事があったのですか」
目を丸くして驚いたカナは、
「ほ、報酬を上乗せした方がいいのでしょうか?」
何ておずおずと聞いてくるが、冗談じゃない!
白龍の鱗貰ってるのに報酬上乗せなんてしたら罰が当たっちまう。
「元の条件で構わねぇよ。てかそうホイホイ条件変えんな。他の奴らだと付け込まれてぼられるぞ」
「は、はい!」
パァッと顔が明るくなったカナは、「報酬を取りに行って来ます」と村の建物へ駆けて行った。
「旦那、とりあえずは納得して貰えましたね」
「おう。てか静かにしてくれてありがとな。おかげでスムーズに事情を説明できたわ」
「下手に複数人で説明するなんてややこしくするだけだからな。よっぽど説明下手なら横槍淹れてたと思うが。……トゥオンが」
「わざわざそれ言う為だけに横槍なんて使ったんです? 馬鹿馬鹿しい」
「あ゛? やるかおめぇ?」
「勝手に、やってて。カナ、帰って来た」
いつもの掛け合いが始まったが、それもカナが戻って来た事で収まる。
「あの、本当にありがとうございました!」
報酬を差し出しながら深々と頭を下げるカナから報酬を受け取って。
「もう会わねぇかもしれねぇし、何かの拍子に会うかもしれねぇ。世の中どうなるかわかりゃしねぇが、そん時はよろしくな」
カナへと向けて手を差し出す。
カナは意図を組んでくれたようで、
「はい!!」
と俺の手を握って勢い良く上下に振る。
俺が村から出て、恐らく見えなくなるまで手を振り続けてくれたカナの優しさに少し感動しつつ、俺は街へ向けて歩き始めるのだった。
行きは馬車で数時間かかったのをすっかり忘れてな! おかげで丸一日かかったぞちくしょう!
*
「ラグルフ、動き固いわよ? まだ本調子じゃない?」
「すいません、皆さんみたいな美しい女性に囲まれると、やはり緊張してしまうみたいです」
ケイスの抜けた穴、ハーレムパーティの男枠にうまく入り込んだラグルフであったが――。
かなり、かなーり内心焦っていた。
彼の為に言っておけば、一応それなりの強さを持っている。
が、しかし。年齢と同じく知識と経験を重ねたケイスに比べ、戦闘中や移動中の各判断が甘くなってしまうのは仕方が無い事で。
その甘い判断のせいでパーティメンバーが若干の危機に陥ったりしていた。
その度に先ほどのようなフォローが入りはするが、それも長引けば不平不満に繋がってしまうもので。
(実はケイスはかなり働いていたのではないか?)
という考えが、パーティの皆の頭を過る事となっているのが現状。
そんな中、新たに受けたクエストをこなす為、依頼主の居る町へ行く事となったが、その町が結構遠く、途中の山間の村へと寄って一泊する事になった。
その村というのはほんの数日前までケイスが居た村で。
もっと言えばケイスがクエストを個人でこなし、あまつさえ白龍の鱗を持ち帰った村で。
村に泊まった時に当然その話を耳にすることになり――。
もしかしてあの占いは実は間違っていたのではないか?
という懸念を女性陣は抱いてしまう結果となった。
ラグルフが内心冷や汗をかきまくりながら聞いていたのは言うまでもない。