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決められましたとさ

 呼吸音。足音。殺気。匂い。

 見えない状況でも対象との位置関係を探る術はいくらでもある。

 だからこそ俺は、アトリアから何かが近付いてくる旨を聞いて耳を澄ませたし、どうせ見えないならと目も閉じた。

 片手はトゥオンを握りしめ、もう片方はシエラを身体へと引き寄せる。

 足音を頼りに身体の向きを調整し、……三、……二、……一。

 ――リン♪

 アトリアの短剣が音を鳴らしながら振り抜かれるのと、俺の繰り出したトゥオンがその音を貫くのが同時。

 ――が、そこにあるはずの手応えは無く。

 躱された。その事実を認識する前に身体は動く。

 左右に飛んだ音も、風も感じないなら。逃げる場所は一方向にしかない。

 すなわち……()

 けれども突き出した(トゥオン)をを引き戻し、上へと突き刺すよりも。

 すでに頭上を取った相手の方が次の行動に移るのは早い。

 だからこそ、突き出すのはもう片方の手だ。

 衝撃全てを跳ね返す呪いの(シエラ)ならば、逆にカウンターをお見舞いできる。

 ――しかし、想定していた衝撃はなく。

 代わりに優しく、俺の突き出したシエラに着地したその存在は。

 目を開け凝らして見てみれば、霧に溶けるように擬態した、()()()()を被っていた。



「んで? いきなり襲いかかった理由は?」

「襲ってませんー! 私はケイスと合流したかっただけ! 襲いかかってきたのそっち! 私じゃなかったら今頃物言わぬ(むくろ)だよ全くもう!!」


 子供のように、ふくれっ面をしているのが容易に想像できるスカーレットは、俺と一緒に霧に入ったはずがはぐれ、ずっと俺のことを探していたらしい。

 見つけたからと駆け寄ってきたが、そんな事情は知らない俺らは臨戦態勢だったわけで。

 やられないようにと回避に専念したとのこと。

 いや、ほんと。お前じゃなかったら無事じゃ済まなかっただろうよ。


「この子があんたの連れ? 随分幼いようだけど……」


 声だけで判断したのであろうアイナが言うが、こいつ……お前らの何倍も人殺してるぞ?

 いや、ひょっとするとゼロは何倍してもゼロのままだから、比較にすらならん可能性があるが。

 外見だけで判断しないのは冒険者の鉄則だろうに……。

 もっとも、今は外見ってよりは声色というか、声の感じだけの判断なんだが。

 外見より繕いやすい声なんて、ぶっちゃけ何の判断材料にもならん。


「連れっていうか、依頼主の一人……か?」

「まぁ、そんな関係かな。間違ってはいない」

「あんた、依頼主危険な目に遭わせてどうすんのよ!」

「心配いらねぇよ。少なくとも、お前らの何倍も頼りになるわ」

「……喧嘩もいいけど、小声で。霧の中に何が潜んでるか分からない」


 ひとまずのスカーレットの自己紹介……と言っても、名前だけ、しかも偽名の『ルビー』なんて名前しか紹介しなかったものを終え、アイナの質問に答えている内にヒートアップ。

 ついつい声が大きくなっていたらしい。

 その事をグリフに注意されてしまった。


「とりあえず、この後。どうする?」

「どうするって言ったって……。グリフ、選択肢」

「あい。一つ、滝に向かってみる。二つ、(ほこら)に向かってみる。三つ、朽ちた民家に向かう。四つ移動しない」


 一旦落ち着き、俺とスカーレットは抜きで話し合いを始めるアイナ達。


(滝に、向かうのは、正直、オススメ、しない)

(まぁ、何が居るか分からない。かつ、『ワタツミ』様の眷属がいるかも知れないってんじゃあ、妥当っすよねぇ)

(祠は、スカーレット、に、聞いて、みてから)

(目的の場所ってんなら、そこが安全かどうかは分かるだろうしな! HAHAHA)

(民家は……多分、無駄足)

(朽ちてるってんなら、何の情報も得られ無さそうだしな)

(留まるのは……愚策)


 俺らの中での結論は出た。(ほこら)の事をスカーレットに聞いて、安全そうならそこへ。

 駄目そうなら……またその時考えるか。


(そん時は滝に行きましょうぜ。何か出てくるならぶっ倒しちまって、霧が晴れるかもしれませんし)


 割りとそれでもいい気はするんだが、正直アイナ達が戦力になるとは思えない。

 いや、普通のモンスターとかならいいよ? ()()の。

 ――二つ名持ちのモンスターは普通か?


(全力でNOだな! HAHAHA)


 二つ名持ちでなくて四大精霊の眷属だったら?


(それを普通に分類しちゃあ、普通の定義が崩れちまいますぜ?)


 だよなぁ……。

 俺こいつら庇いながら戦闘する自信ないぞ……。


「じゃあ、とりあえず滝に行ってみるって事で!」


 どうやら向こうもどうするか決まった――ってちょっと待て!?


「なんでいきなり滝なんだよ! 祠でいいだろ!?」

「は!? 何で何奉ってるかも分からない祠なんて怪しい場所に行かなきゃいけないのよ!」


 思わず俺と違うベクトルの結論を出した事に驚き、抗議の声を上げれば。

 出てきた理由はなるほど、事情を知ってる俺ならば考慮しない事柄だった。

 祠に何を奉っているか? そんなの、『ワタツミ』の眷属以外にないだろ。

 スカーレットやノワールの話聞いた限り。


「いや、確かにそうだが……。ええと……ルビー?」

「はいはい。何?」

「祠について聞かせてもらえるか?」


 と言うわけで祠についてスカーレットに聞いてみると……。


「あー……あそこはちょっと。霧がかかる前から色々変な話があるのよね」


 俺が知らない話をし始めて。

 

「ほら、じゃあ滝行くしかないでしょ!」


 俺がパーティに居たときと同じように、俺の意見はほとんど考慮すらされないまま、行き先が決定したのだった。

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