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呆れたのじゃ

「お主、どこかで見た顔じゃの」


 霧に飛び込んだケイスの代わりに、逆に霧から飛び出してきた男の方を見れば、いやはや……どこで出会ったのじゃったか。


「そう? 俺は君みたいな小さい子と遊んだ記憶は無いんだけど」


 あぁ、思い出した。妾を子供扱いして頭を撫でようとしてきおった奴か。

 盛大に投げ飛ばしたはずじゃが、記憶にないとな? 思い出させてやろうか?


「まぁ、よい。何故貴様一人で霧から出てきた? パーティメンバーは心配ではないのかや?」


 とはいえ別に興味もなし、こいつらの置かれておった状況でも把握するとしよう。


(シズや、今一度先ほどの魔法を放つのじゃ)

(は、はい!)


「目を覚ましてて動けるのが俺しか居なかったからね。それに、パーティ全員が全滅するより、誰か一人でも生き残って情報を持ち帰ったりするのも重要なんだよ」


 斜め聞き程度に聞いていれば、つまるところ全員で助かろうという気はなく、別に自分だけでも逃げられればよい、と言ってる様にしか聞こえぬな。

 その証拠に、すでに霧には背を向けて、今にもどこかへ歩き出しそうな雰囲気を醸し出している。


「《神風『神の産まれ出る吐息(シナトベノミコト)』》」


 そんなラグルフとか言う小僧の事を一切合切無視し、シズの放った魔法で再度霧が晴れた事を確認――出来なかった。

 まるでこびりついた油汚れの如く、その場にしつこく居座り続ける霧は、微動だにしない。

 驚きはあったが、今は驚いている場合ではない。


(シズ! もっと強い風魔法はないのかや!?)

(も、申し訳ありません! あの魔法が私の最大威力です!)


 むぅ。いや、妾は魔法は撃てぬが、あの魔法が生半可な威力の魔法でないことは分かる。

 しかし、それすらも通用しなくなったとなれば、それ以上の魔法が必要であろう……。

 困ったのじゃ……。


「もしかして、今の魔法は君が撃ったのかい?」


 どうしたものかと首を傾けていれば、ラグルフが妾へと声をかけてくる。

 実際はシズが撃ったわけで、妾が撃ったわけではないが……そう説明しても面倒になるだけよな?


「まぁ、そうじゃの」

「君凄いんだね! ……ところで、君はそこのお姉さんと一緒に行動をしているのかい?」


 お姉さんというのは母上の事であろうか? まぁ、魔法でいじくった見た目なのであるし、妾の母とは流石に察せぬか。


「いや、もう一人おった。ケイスという奴じゃ。……ほれ、お主のパーティ達が以前組んでおった奴よ」


 ケイスには先の夜の恩もあろう。そう伝えれば流石に逃げ出すようなことは――。


「ケイス? ……って、もしかして俺が入る代わりに追放された奴のことか? じゃあ丁度いい! あんな弱っちい奴なんかより、俺と一緒に行動しないか? あいつより絶対役に立つぜ?」


 …………殺されたいようじゃの?

 恩を忘れ? あまつさえ自分の居たパーティのメンバーの安否すら心配せずに? ケイスを愚弄し妾達を勧誘する?

 ここまで来ると呆れや笑いの域ぞ。


「五秒くれてやろう。視界から消えろ」


 それまで口を開かなかった母上から発せられた言葉は、死刑宣告。

 殺気を纏い、怒りを表に出した表情から、それが脅しではないと理解出来る。


「へ?」


 しかし、折角もらった五秒はまるで理解出来ない、と立ち尽くす時間に消えてしまい。

 自分の発言が母上の逆鱗に触れたことを理解したときには、母上の姿はかき消えていて。


「ひぃっ!?」


 装備していた盾の面積へ、身体を無理矢理縮こめてやり過ごそうとするが……、


(バカ者が。敵から目を逸らすなどあってはならぬ事じゃ)


 ケイスは絶対に犯さないミスに、笑いより呆れが勝る。


(これでよくもまぁ、ケイスより自分の方が腕前は上だと豪語できるものじゃ)


 思わず漏れたため息が風に攫われる頃には、母上の振りかぶった拳によって、盾ごと近くの木へと吹っ飛ばされるラグルフ。

 ……母上は優しいのじゃ。妾ならば問答無用で霧の中へと蹴飛ばしておった。


「意識くらいはあるな? 次は殺す。我らを手伝うか、死ぬか、好きにせよ」


 ゆっくり歩きながらラグルフに問いかける母上だが、ラグルフからの返事はなく。

 木にもたれかかったままのラグルフを蹴飛ばして顔を拝んでみれば――見事なまでに気絶しておった。

 ……こいつ、いてもおらぬでも何の影響もないのではないか。

 そう思わずにはいられなかった。



 シズの魔法が効果がないとわかり、妾のブレスや母上のブレス。母上の魔法などを試してみたが、これといった目立った変化はなく。

 どうしたものかと考えあぐねていると、何やらシズが反応した。


(!? あ、はい。聞こえます!)

(何かあったのかや?)

(トゥオンからの念話です。霧の中から外へは出られないそうです)


 ふむ。出られないの度合いにもよるのじゃ。何かにぶつかる。元いた位置に戻される。終わりなき道があり、気が付けば距離を全く進んでいない。

 考えられるのはこれくらいか。どれも面倒なのじゃが……。


(霧から出ようとすると、まるで進めないそうです。どれだけ走っても、振り返れば元いた位置がすぐ後ろにある、と)

(霧の内部に結界を貼り、結界外への移動を禁止しておる感じじゃの。……となればどこかに結界を維持しておる者か物があるはずじゃ)

(けれど、動き回るのは危険なのでは無いでしょうか?)

(確かに危険じゃ。しかし、現状明確な打開策が無い以上、ある程度のリスクを冒してでも問題解決に向けて動いた方がよいと思うのじゃ)


 下手をすれば霧の内部と霧の外部で物や者を破壊せねばならぬかも知れぬ。

 動かず待つよりは、内部の情報を探りながら動いた方が幾分かマシの筈じゃ。

 シズにそう伝えるように言って、一度大きく伸びをする。

 さて、妾達もやれる事を探してみるのじゃ。

 そう気合いを入れ、とりあえず動こうと歩き始めたとき、母上の一言で思わずその足を止めた。


「そう言えばであるが、スカーレットとやらはどこぞ?」

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