噛み合いませんとさ
とりあえず真っ白な霧の中、真っ先に行った事は霧からの脱出。
霧が晴れた瞬間に、切りがあった領域に入っただけだし、そこまで距離があったとは思えなかったが、結果は脱出出来ず。
どんだけ進んでも霧から抜け出せる事はなく、諦めて引き返せばすぐに人が倒れていた場所へと戻っていた。
――つまり、
(魔法で空間が歪められてるんすかねぇ……)
(結界って線もありそうだぜ! HAHAHA)
(魔法、なら、術者、倒すしか、ない)
今の俺が抜け出せそうにないって事だな。
――さて、放置してたがそろそろ起きてもらうか。
「起きろよ、アイナ」
そう、霧の中に倒れていたのは俺を追放しやがったアイナ達ご一行。
ラグルフだけが見当たらなかったが、果たして何処に行ったのか。
先ほどよりも強めに揺すれば、少しだけ呻いてどうやら気が付いたらしい。
「みんな、無事?」
気が付いて真っ先に口に出したのは他のメンバーの安否確認。
まぁ、リーダーなら当然か。
「他の奴らはまだ気が付いてねぇぞ。さっさと起こしてやんな」
「あ、そうなの。――ってケイス!? あんたなんでここに!?」
起き上がったと思ったら俺から一気に距離を取ったらしいアイナは、
「むぎゅ……痛い」
「あ、アトリア……ごめん」
傍に倒れていたアトリアの顔を踏んづけてしまったらしい。
「ここ……どこ?」
「濃い霧の中。もっと詳しくってんなら、ティニンの町の離れにある滝の近く」
「あぁ、そうだ……依頼を受けて――ってケイス!?」
「アイナと同じ反応してんな」
「そりゃあ、追放した奴がいきなり居たらびっくりするでしょうが!」
俺は居るだけで驚かれるのかよ……。こいつらの中の俺の認識ってどうなってんだよ……。
「この間……っつってもだいぶ前か。お前ら遭難してたときに出会っただろうが!」
「遭難?」
「いつ?」
こいつら……、あの時の事覚えてねぇのか?
「俺がシューリッヒって商人護衛してたときだよ。お前らが遭難して焚き火見つけて寄ってきたとき」
「あんたがシューリッヒを護衛? シューリッヒは私達が港町へと無事に送り届けたわよ?」
「結果的にそうだったとしても、途中までは俺が護衛してただろうが!」
「ごめん、分からない。シューリッヒは最初から私達が護衛してた」
話が噛み合わねぇ。どういう事だ?
適当な所に腰を下ろし、周囲に警戒しつつ話していると、
「ん……」
という声を発したエルドールと、声を発する事無くグリフが起き上がる。
そいつらにも同じく俺が居る事を驚かれたが、流石に突っ込む気も失せた。
さっきの噛み合わない話を起き上がってきた二人にしてみても、反応は同じ。最初からシューリッヒの依頼を受けたのは自分たちだ、とシューリッヒと何処で出会ってどういった経緯で依頼を受けたなんて覚えてはいないのに断言してきた。
若干痛くなった頭を抱えつつ、じゃあ今回は何故ここに居る、と尋ねてみれば、
「近くの村で、気味が悪い霧が発生してるから何とかしてくれって依頼があったの。んで来てみればこんな濃い霧で確かに気味が悪いし、原因を探ってたのよ」
「そうしましたら、段々と霧が広がって来まして~」
「さっきまで、意識がなかった」
との事らしい。
こいつらがここに来たときは霧の範囲はまだ小さかったらしいが、それも今では広がっている、と。
となれば、この霧を発生させてる元凶をどうにかしなくちゃ、こいつらに依頼した村も、ティニンの町も、霧に飲み込まれかねない。
そうなれば、村や町の住人は大変に困る事だろう。
あらゆる生活に支障が出そうな濃度の霧だし。
かといって中にどんな奴が居るのか分かってないし……。
(とりあえず霧の外にいるセレナ達に何とかして情報集めてもらって、出来るなら霧から脱出させて欲しいところだが……)
(順番が逆じゃないんですかい? まずは霧の脱出からでは?)
(その考えをセレナやハウラが持たないとでも? もう一度霧を吹き払おうと考えても良さそうなのに、なんで今までに霧が吹き払われない?)
(霧の外で、何かあった? それか、やってる、のに、払え、ない?)
(どっちかだろうな。……トゥオン、シズと連絡って取れるか?)
よもやあいつらも霧の中に入っては来ないだろうし、何とかして連携が取れればいいんだが……。
(ちょいと待ってくだせぇ。……んー、ラグいっすけど何とかなりそうですぜ)
(向こうの状況を聞いてくれ。ついでに、霧の中で何かやっといた方がいい事も)
(がってん。…………何度か試したみたいっすが、案の定霧はどうにもならないらしいですぜ)
(やっぱりな)
あいつらでどうにもならないって事は、俺らじゃもっとどうにもならんな。
さてと……どうすっかなー。
(あ、それと)
ん? まだ何か報告があるのか?
(向こうにラグルフがいるらしいっすぜ?)