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模索しましたとさ

「『霧蛟』? ……わりぃが聞いた事無いぞ。そんなモンスター」

「ここらでは伝承として伝わっておるのよ。濃霧を伴う水属性のデカい蛇……簡略な説明ならばこんな所よ」

「ただ、確定じゃないのよね」


 『霧蛟』なるモンスターの説明を聞いていると、久しぶりに口を開いたのはスカーレット。


「確定じゃない?」

「あくまで可能性。本体を目撃なんてしてる訳無くて、濃い霧と何か大きな生き物が這ったような跡があっただけなの」

「しかし可能性でも困るのよ。絶対に安全であるという保証が無ければ行かせられぬのよ」


 受けるとは言ったものの、俺としても不確定な情報だけじゃ動きたくないしなぁ。

 普通のモンスターですら、事前準備を怠れば普通に死ねる。

 一体誰が、素手でオークやトロールに敵おうか。……ひょっとすると武術の達人ならやってのけそうだが、少なくとも俺にそんな技術も力も無い。

 ましてや二つ名持ちとなれば尚更だ。情報が少しでも欲しい。


「時期をずらしたり出来ないのか? あるいはどっか別の場所に行くのを待つとか」

「その待ってる間に私はキックスターの依頼をこなしてたの。けど、いっこうに霧が晴れる気配はないし――」

「この儀式は(よわい)十八を過ぎるまでにしなければならぬのよ。儀式の目的や詳細は極秘だが、そのようなものだと理解いただきたいのよ」


 スカーレットとノワールから説明を受け、そんなものか……と思った時。


「のう、ぶしつけな質問で悪いのじゃが」

「なに?」

「その儀式、『ワタツミ』と何か関係あるのじゃ?」

「んなっ!?」

「地形的にあやつの管理下――正確には、あやつの眷属の管理下であろう?」


 光の眷属の質問はどうやら核心部分に触れてしまったらしい。

 何だろう、隠していたのにあっさり言い当てられるとは……お気の毒に。


「とりあえず置いてけぼりは嫌だからその『ワタツミ』ってのを説明してくれ」

「いや、お主聞いた事くらいあるじゃろ。地を作ったユグドラシルと争い、結果として川や河、湖に池、果てには海までを作り、大地を飲み込まんとした四大精霊の一じゃぞ?」

「四大の水、激流であり静水の化身ぞ」


 手っ取り早くセレナに説明を求めてみれば、出てきましたよ……四大精霊。

 この間のユグドラシルも滅茶苦茶だったからなぁ……どうせその『ワタツミ』ってのも俺らの(ことわり)とか常識とか、通用しないんだろうなぁ。


「まぁ、バレたなら別に構わんよ。その『ワタツミ』へ……眷属への忠誠と(みそ)ぎを行うのが儀式よ」

「って事はその儀式する場所に『ワタツミ』が来たりすんのか?」

「来るわけ無かろう。この地が四大にとってどれ程ちっぽけか。そんな場所のためにわざわざ出向くなどあり得ぬのじゃ」

「来ても眷属であろうな。……はて? あやつに眷属など聞いた覚えが無いが?」


 四大精霊自体は来ないと聞いて僅かに安堵したが、ハウラの一言でその安堵は消える。


「新しく『造って』居るかもしれませぬのじゃ母上」

「ふむ、可能性としてはない事も無い」


 何やら二人で会話し始めた眷属ズは一旦置き、


「他に情報とかないのか? その、倒さなきゃいけないかもしれないモンスターについて」

「結構な頻度で偵察を送ってはいるのだが、成果が中々上がらぬのよ。存外、人の気配に敏感なのやも知れぬのよ」

「面倒だな……けど霧がある場所にいるんだから大雑把な場所くらいは分かるだろ?」

「霧の範囲が広すぎるの。滝と(ほこら)がある場所で儀式をするんだけど、その周辺がすっぽり霧で覆われてて、そのどの辺にいるか全く分かんないのよ」

「霧は動いてない?」

「動いてない」


 うーむ、やっぱり情報が足りない。せめて目視確認して、どんなモンスターなのか位の情報は欲しい……。


「のぅ、ケイスよ」

「………………嫌だ」

「まだ何も言うておらぬのじゃ」

「大体分かる。『烏の目(スケアクロウ)』使おうとか言うんだろ?」

「おお、読心術か?」


 絶対俺がやりたくないと思っていたからな。ていうかあの魔法は使用にキックスターの許可がいる。

 あいつの依頼でもない、スカーレットのプライベートな問題の今に許可が下りるとは思えない。

 だから、それが俺の盾だった。


「よく分からんがキックスターから許可を貰えばよいのよな? 余が現役の時に大層貸しを作っているゆえ、多少のワガママなら笑顔で許可されようよ」


 けれど、(もろ)くも砕け散った。

 (ふみ)を書く、と席を立ったノワールに入れ替わり、酒のおかわりを持った侍女が入ってくる。

 俺のグラスに黄みがかった酒をお酌しお辞儀。

 ……何だろう、これ飲んで頑張れって言われてるようにしか思えねぇ。


「しかしここの酒は非常に美味い。流石『ワタツミ』の膝元よ」


 ハウラは俺の事なんて気にせず酒に夢中だしな。

 ――というか仮に『烏の目(スケアクロウ)』使って『視た』として、霧しか見えないんじゃねぇか?

 それじゃあ結局意味が無いと思うんだが……。


「そう言えば思い出したのじゃ」


 突如として手を打ったセレナに、俺の嫌な予感は反応する。


「一応聞いとくけど、何を?」

「要は霧をどうにかすればよいのじゃろう?」

「まぁ、霧が晴れりゃあ世話はないが――」

「覚えておらぬのか? 妾とお主が初めて出会った時の事を」


 俺とセレナが出会った時の事? 確か毒霧に包まれた――、


「そうだったな」

「思い出したようじゃの」

「……シズ、どうやらセレナはお前をご指名のようだぜ?」

「――わ、私ですか?」

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