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謁見しましたとさ

 慰安に費やした日々は三日間。

 ほとんど動けなかった初日とは違い、今では手加減したセレナとトゥオン達を装備して手合わせが出来るほどに。

 まぁ、相手は魔法禁止体術のみの本当の舐めプみたいなもんだが。


「それでもまともにやり合える奴はそうおらぬ。誇るがいい」


 宿泊施設から出て少しだけ歩くと、馬鹿でかい広場が見つかって。

 施設の人に尋ねれば、自由に使って良いとの事。

 そこで休んでいる間に付きまくった体の錆を、こうして動かして取り除いている次第である。


「むぅ。納得出来ぬ。ケイスよ、トゥオン達の能力は使っておらぬのよな?」

「当たり前だろ。俺の勘取り戻すための手合わせなのに、トゥオン達使ってたら意味ねぇだろ」

「それでいてさも当然の如く妾の攻撃を捌かれると、中々に凹むのじゃが?」

「いや、結構近くで動きとか見てたし。お前、自覚無いだろうけど滅茶苦茶動きに癖あるぞ?」


 あまりに普通に手合わせをしていたら、どうやらセレナは気に入らなかったようで。

 普通の人間が、セレナの――二つ名付きのモンスターであり、かつ二天精霊の眷属たる自分の攻撃をいなす事などもってのほか……なんだろうが。

 別に俺がやってる事は特別な事でも何でもないしなぁ。

 攻撃前の予備動作。これがセレナは素直すぎるのだ。

 フェイントはなく、隠そうともせず。その予備動作さえ見ていれば、防御も、回避も……。

 いや、早すぎて回避は無理だな。

 ともあれシエラを構える事くらいは出来る。

 それを行っていただけの事。


「癖? ……癖か。そう言えば考えた事無かったのじゃ」

「素直すぎてある種惚れ惚れするけどな。真っ直ぐ過ぎて」

「……どれ、我も体を動かそう。ケイス、相手をせよ」


 俺からの指摘に何やら考え出したセレナの代わりに、ならばと座って見ていたハウラが立ち上がる。

 ――が。


「ハウラとやるとマジで疲れるからパス。これからヴァイスの母親と会う約束だし」


 と、構えを解いてトゥオンを背に担ぐと……。


「…………」


 ものすごーく残念そうな顔でこちらを見てくるハウラ。

 しかも目にはうっすら涙まで浮かんでいる。

 ……そこまで体動かしたかったのか。


「分かった。分かったからそんな顔でこっち見ないでくれ。帰ってきて風呂の前に手合わせするから」

「約束だぞ? 違えたら屠るからな?」


 んな嘘ついたら針千本飲ます、みたいなノリで殺す宣言されましても。

 ……似たような意味っちゃそうだけどもさ。


「あいよ。……さて、迎えは来てるようだな」

「全っ然気が乗らないけどねっ!?」


 俺の視線の先には何やらちょっぴりおめかししたヴァイスが待っていて。

 その横にはスカーがにっこりと微笑んで立っていた。

 ――傀儡なんだよな。あの向こう側に、ヴァイスの母親か……。


「んじゃまぁ、ちょっとついてきて」


 と言われ、俺とセレナとハウラは大人しくついていく事に。

 俺らが泊まっている宿泊施設の階段を降り、関係者以外立ち入り禁止区域へと足を踏み入れ。

 厳重に鍵が掛けられた巨大な扉の前へ。


「到着」

「いや、んなこと言われても。ただの馬鹿でかい扉の前な訳だが」

「見たところしっかりと鍵は掛かっておるぞ? どうするのじゃ?」

「破砕するか?」


 物騒な事を口走るハウラは置いといて、ヴァイスの意図がわかんねぇな。

 鍵なんて持ってるふうでもないし、マジで壊せって事か?


「今開けるから。……『開かれざるは力なき者。勇なき者。証明は過程、今その解を示さん』」


 と、ヴァイスが呪文のような者を唱えれば、鍵はひとりでにゆっくりと開き始め。


「「――っ!?」」


 俺と、装備達とセレナ達が、一斉に身構える。

 爆発的な気配は扉の奥から。開いた瞬間にも襲いかかってきそうな気配を感じたからだ。

 ――やがて……カチャリ、と。

 鍵が開いた音がして、扉が開かれれば……。


「眩しっ!?」


 薄暗かった施設の中とは思えぬ光に、一瞬だけ目が眩む。

 けど、ぶっちゃけ想定内。不可避の一撃もらうよりは全然マシ。

 と言うわけでシズに詠唱してもらってたWW(ウインドウォーク)SW(スカイウォーク)を発動してもらい、部屋の中へ。

 未だ視界は不明瞭だが、気配がデカすぎて探す必要すら無い。

 どんな戯れかと問いただそうと近付くと、光の中に、一層の煌めきを確認し。

 トゥオンか、シエラかと迷ったが、大人しくシエラで受ける事に。

 部屋中に響く金属同士がぶつかる音に、それに続いて空を割く音。

 下がるか受けるかの判断に、その場で受ける事を選択する。

 再びの金属音。そして、シエラを持つ右手からも、トゥオンを持つ左手からももの凄い力が伝わってきて……。


「シエラ!!」

「任せなぁっ!! HAHAHA!!」


 シエラからの衝撃反射で吹き飛ばそうと――って、その衝撃を反動に利用して空中で回りやがったぞ!?

 そしてシエラが防いでいた得物は、今度は俺の左脇腹目掛け振るわれて……。


「やらせませんさぁっ!!」


 トゥオンが相手の動きの道のりに氷塊を出現させる。予期せぬ部分に現れた物体に、予期せぬタイミングでぶつかった相手の体は勢いが消え。

 無防備な状態で空中を彷徨う事になり。

 そんな体勢では力が入らないのは必然で、トゥオンで受けていた得物を大きく弾き飛ばす。

 ――うむ。冷や汗が出た。


「くっ……。ふふ。かっかっか。良き良き。合格よ」


 笑いをかみ殺しきれず、愉快そうにそんな言葉を投げかけてきたのは。

 ……恐らくヴァイスの母親であろう人物だった。

 顔とかなんとなく面影有るし、多分親子なんだろう。

 ただ、()()()()()()()事だけが気になるが。


「連れている二人や装備にかまけた立ち回りをしようものなら首でも貰おうかと思っていたが、存外やれる奴だ」

「思いっきり装備に頼った動きしてたけどな」

「槍を持つのに素手で殴るバカはいまい? 盾を持つのに逃げ出すなど論外だろう?」

「ようは、真っ正面から受けて立ってろってことか?」

「どうかな。くふふ。さて、先日は娘が世話になったな。改めて名乗ろう。私は【クラミツハ・ノワール】。そこにいる【クラミツハ・スカーレット】の母であり、この地を治める領主である」

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