こんなことになるとは思いませんでしたとさ
サービス回のはずです。
外が明るくなるまでハウラの温もりを感じさせてもらい、全員でお礼を言って、洞窟を後にする。
何つーか、狂暴なドラゴンじゃなくて良かったわ。
「さて、旦那。残すは村に帰るだけですよねぇ?」
「他に何かする気か? さっさと報告しようぜ」
「相棒、今の自分の姿確認してみな」
シエラに言われ、自分の姿を確認してみると――。
あー、なるほど。
「ゴブリンの返り血でべっとりだったなそういや。小川で洗って落とさねぇと」
「ついでにあっしも手入れして貰えませんかい? こっちも血糊でべっとりなもんで」
「つーかあんな洞窟の中に居たらみんな泥だらけだぜ相棒? 全部綺麗にしちまおうぜ」
「パパ~。ツキ、キレイキレイしたいー」
「あいよ。川あったら綺麗にしてやるから」
「――ッ。……///」
「どうしたメルヴィ、何か言いかけたか?」
「何でも、無い」
? 何か変な事言ったか? 俺。
*
洞窟から少しばかり村と反対方向へ進んだところに沢を見つけ、そこで汚れを落とす事に。
つか、待て。こいつら俺の体から外れないじゃん。どうやって綺麗にするんだよ……。
「旦那、実体化したあっしらを拭けば装備も綺麗になりますぜ?」
「マジで!?」
「私達は本体が装備ですからね。実体化しても装備とリンクしてますのでそちらを綺麗にすれば自ずと装備も綺麗になります」
「なーるへそ、んじゃ――待て。いや、色々と待て。俺が何をするって?」
「あっしらの体を拭くんでしょう。お願いしますぜ旦那」
「俺が!? お前らの!? 体を!?」
「相棒が意識してないだけで色んな所を密着させてるんだけどな。HAHAHA」
いや、嬉しい……嬉しいんだけど――。
何かこう、女性たちから爪弾きにされた身としては、その、な?
「あの人らと違ってあっしらは歓迎してますから。さぁさ旦那、一思いにやっちゃってくだせぇ」
思考を読んで、我先にと俺の前に実体化したトゥオンは――、
「バッ!? おまっ!? 格好っ!?」
普段とは違う一糸纏わぬ姿で実体化してきて。
「この格好じゃなきゃ綺麗に出来ませんで。旦那、はやくやっちゃってくだせぇ」
両肩を交互に動かして急かしてくるトゥオンへ、
「とりあえずあっち向け! そしたらやるから!」
目のやり場に困った為、とりあえずこちらに背中を向けさせ、手で水を掬い、意を決して、トゥオンの手入れを俺は始めた。
*
「キヒヒ、旦那。ひゃ~ははは、ダメ。ちょ、やめ、イーッヒヒヒヒヒ」
無心無心、と心の中で唱えながらトゥオンの背中を流す俺の耳に届くのは、トゥオンの笑い声で。
どうやら手入れがよほどくすぐったいらしい。
瑞々しく、柔らかくも弾力のある肌に触れて、装備とリンクしている部分であろう箇所に装備と同じような汚れを確認した為、そこに重点を置いて手入れをしているのだが。
一か所の汚れを落とすだけで、くすぐったさからか暴れるわ動き回るわ。
ようやく背中側に見える汚れを全部落とした頃には、俺の息が切れていた。
「後は前だけですね。……旦那、大丈夫ですかい?」
「お前さ、ぜぇ。逃げるなよ、一々」
「やー、くすぐったいんすよ?」
「どうせ綺麗にするんだろうがよ……」
結局ここから小一時間程、トゥオンの手入れだけに時間が掛かった。
あいつ妙に足速えの。
*
「んじゃ、次は俺だ。頼むぜ? 相棒?」
シエラか。てかこいつ服着てないともうそれだけで反則なボディしてるな!
「旦那、キモイですぜ?」
うるせぇ! どこの世界にマーベラスなボディ見て興奮しない男が居やがる!?
「俺はトゥオン見たく逃げやしねえから、手っ取り早くパパっと頼むぜ?」
「任せとけ、動かないでいてくれるならすぐに終わる」
何て思っていた時期が俺にもありました。
だってさ、いざ綺麗にしようとしたら
「Oh!! YES! YES!」
何て叫ぶんだぜ? 思わず驚いて手を退いたわ。
「相棒、なんで止めるんだ?」
「どう考えてもお前の反応のせいだ。何? 俺が何か間違えてる?」
「いや、だってさ。興奮して火照った体に冷たい水かかると気持ちいいじゃねーか。そら声も出るわ」
「声が出るのが問題じゃなくて出してる声が問題なんだよ! 音量少し押さえろ!」
トゥオンの時よりはるかに早く終わったんだが、トゥオンの時の倍くらい疲れたぞ。俺は。
*
「パパ~、次はツキね~」
「――ッ!?」
間一髪、目を閉じるのが間に合った俺は、声からも分かるし何度か実体化してるのも確認済みの。
およそ幼女としか思えないツキの裸体を見る事は無かった。
アウトだアウト! 誰が何と言おうが幼女はダメだ。トゥオン、思考読んでるんだろ? 俺このまま目を開けないからお前が俺の手を誘導してくれ。
「賢明な判断ですぜ、旦那。まずはそのまま右手を少し前に出して貰えますかい?」
言われた通りにするしかないし、……こうか?
ふよん。
「ひゃっ! パパーくすぐった~い」
後で覚えてろトゥオン。
「出来心だったんです旦那。許してくだせぇ」
それはこれからのお前の働き次第だ。次ふざけて見ろ。油でベッタベタに汚すからな?
「もうふざけませんよっと。じゃあ旦那、まずは――」
脅しになってるか分からなかったが、どうやらまともに誘導してくれたようで。
時折執拗にくすぐったがる声が聞こえてきたが、無心だ無心。
*
「ご主人様、次はわたs――きゃあっ!?」
実体化したのがシズだと確認し、思い切り沢へ突き飛ばす。
「何を――」
「手入れ兼ご褒美」
沢から出ようとする前にシズを踏み、ぐりぐりと汚れのある個所を足で擦る。
「がばべごぼがぼがべべがぼごぼ」
「よくわからねぇな。ほい次、反対。寝返り打って」
絶対他の奴にはやらない手荒さだが、果たしてシズの反応やいかに。
「極楽、いえ、天国が見えました! ご主人様! 出来れば先ほどのを定期的に――」
「そう頻繁にやってたまるか!」
「あぁ……放置プレイなのですね……」
独自の解釈し始めたが無視無視。
さて、最後はっと。
「メルヴィ、お前の番だぞー」
「私は、いい」
「いいわけあるか! 鎧なんざ一番見える部分多いだろうが! どんだけ汚れてると思ってるんだ!?」
「うぅ、……笑ったら、怒る、から」
と言葉を残し、気恥ずかしそうに部分部分を手と腕で隠して出て来たメルヴィは、他の4人よりも遥かに汚れている部分が多かった。
「何を笑うっつーんだよ全く。汚れの事ならトゥオンより少しだけ多い程度だろうが」
全く、つか汚れる要因は基本俺なわけだし、何を気にしているのやら。
「こんな時は旦那の鈍感さに救われますね。気にするだけ無駄みたいですぜ? メルヴィ?」
「それはそれで俺らがちょっと複雑な気持ちになるけどな。HAHAHA」
「あまり茶化さないの。ご主人様もメルヴィもその辺気にしてるんですから」
繰り広げられる会話がさっぱりわかりゃしないが、大人しいし、声も出さない。
メルヴィは手入れが楽だわ。
「……ん/// くぅっ。 ひぅっ」
や、ゴメン。押し殺した声の方が遥かに……その、可愛いぞ。うん。
*
結局、装備達の手入れを終えたのは、太陽が頭上から陽を降り注がせるほど高く昇った頃だった。