鑑賞中ですとさ
「なぁ……」
「?」
「いや……何のことか分かりません的に首を傾げてるけどさ。――何で精神世界と普通の世界とでお前が両立してるわけ?」
精神世界に再び閉じ込められた俺とヴァイスは、一体誰の視界か、二つ名持ちのモンスター二体に大立ち回りを繰り広げる『黒頭巾』を写すその映像を。
他にやることも無いからと座って視聴していた俺らなのだが……。
ヴァイスは俺の隣に居るのに、確かに動き回っているのはヴァイスの肉体で。
聞いていいのか分からず、とりあえず脳内で『降魔』が可能かどうか、何だったら試してみたりしながら眺めていたのだが……。
明らかに人間を逸したその動きや強さに、とうとう痺れを切らして質問としてぶつけてみたが……。
「そりゃあ、あっちの肉体には別の人格が入ってるんでしょー。まぁ、あんたの『降魔』みたいな?」
と、あっけらかんとした表情で返された。
大丈夫か? 色々と知りすぎているから、この依頼終わったら俺、消されたりしねぇか?
「――この場に居ないスカーと関係……あるよな」
「そもそもさっき精神世界に閉じ込められたときもスカーは居なかったでしょ? つまりはそういう事よ」
……どういうことだ?
あいつだけ精神世界に捕らわれない……とかか?
誰かそんな存在に心当たりあるやつ……居る?
(旦那、思い当たるのが一つ)
(精神、世界は、文字通り、精神、の、世界)
(精神を持たない……道具や物の類いはこの世界に関与できません)
(道具っつってもアタシらみたいに意思のある『魔装備』ならこの通りだけどな! HAHAHA)
結論、みんなあった。
そして、その心当たりから導かれる答えと言えば――。
「スカーって……人形?」
「――まぁ、気付くよね。ほら、手入れ屋で出くわしたときあったじゃん? あれ、スカーの入れ物の手入れだったの」
「ふーん……。待て、あの時スカーは居たはずだぞ?」
「そだよー。だから、あの時のスカーは予備の傀儡だったわけ」
しっかりと、ヴァイスの口から「傀儡」という単語を引き出して。
未だに謎なままの最後の疑問を口にする。
「なぁ、今の――いや、今までのスカーは誰が操ってたんだ?」
傀儡というならばその操者が居るはずで。
てっきりヴァイスがそれなのだと思ったが……。
それだと精神世界に閉じ込められている今、スカーが動いている理由が分からない。
となれば、ヴァイスとは別にスカーを操っている誰か、が居るはずなのだ。
「……母さん」
「へ?」
静かに漏れた、思いもしていなかった人物に思わず変な声を出してしまった。
「だから、母さん。スカーの中身も、操っているのも母さん。もちろん、近くには居ないけどね」
「それ……俺が知って大丈夫な情報?」
「かなーり前からアウトな情報なんだけど……どうもスカー――母さんがケイスの事気に入ってるみたいなんだよね」
我が身が怖くなり、確認を取ってみると、安心も何も出来ない情報を提供してくれた。
ちっともありがたくない……。
「ん? でもスカーの目に魔法で細工されてお前に襲ってきたんだよな? 中身がお前の母さんで、遠くから操ってるなら効果は無さそうなんだが……」
「だから絶望してたんだってば……。母さんに裏切られたーって」
「あー……。なるほど」
だからこそあんなに歳相応になってたのか……。
――その割には、「お世話係だったくせに」とか言って無かったか?
「まぁ、母さんとはいえ、『頭巾被り』を引退して私に譲ってるから、そこらも弱くなったってことなのかなー、今思えば」
あ、何かまた妙な言葉出てきたな。『頭巾被り』か。
白と赤を被るヴァイスと、黒を被るスカーこと母親。
なんとなく言葉の意味は理解出来るけどな……。
「とはいえ、引退してるんだろ? お前より強くね?」
「生身じゃ無茶できなくなったから傀儡を使っているわけで」
「納得」
引退の理由は様々だろうが、まぁ一括りにすりゃあズバリ『身体が追いつかなくなった』だろうなぁ。
衰えとか、怪我とかで。
ましてやこいつらの戦い方や動き方見てると身体の負担考えてないようなのばっかだし、納得出来る。
「それでもおかしい動きしてるけどな。……ていうか今お前の身体使ってる内は生身じゃねぇのか?」
「私の身体と傀儡を重ねて操ってる状態だから母さんは大丈夫。問題は解除された後の私」
「南無三」
一気に翳りを見せた表情に手を合わせつつ、俺は視線を、意識を映し出されている視界へと戻す。
出来れば、このまま二人共を倒してくれるとありがたいんだがなぁ……。