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出てきやがりましたとさ

 そういや、今回の『降魔』は長持ちするな……。

 何かツキの『降魔』と違うのか?


(『降魔』ってのは時限式なのとな? ――何つーか……消耗品なんだよ)

(消耗品?)


 とりあえず屋敷を適当に動き回りつつ、セレナの気配を探りながら、未だに解除されない『降魔』の事を考えていれば、脳への直接の解答が。

 とはいえ、その解答も不明瞭なもので。

 最初の時限式というのはまぁ、制限時間が予め設けてあるって事だろう。

 と言う事で、今ひとつピンと来ない部分について、つい聞き返してしまう。


(どう説明すっか……。例えば、ツキの『降魔』はバフ、デバフ特化なのは分かるな?)

(まぁ、分かる)

(その力を使えば使うほど、『降魔』の時間は減っちまうのさ)

(……つまりは?)

(アタシの場合は、衝撃波を使えば使うだけ短くなっちまうのさ。あんま使ってねぇからツキの時より長持ちしてるってわけだ)


 なるほどな。……てことは、ツキの能力って結構燃費悪いのか?


(その言い方酷いのー! ツキはパパにバフとか一杯かけてあげてるからどーしても短くなっちゃうだけなの!)


 頭一杯の言い訳をしてきたツキは置いておいて。

 普段隣に感じていたはずのセレナの気配を、一向に掴めないというのは中々に不安になるな……。

 それだけあいつの存在がデカくて頼れるって訳なんだが……。


「探知まだー?」

「そう早く出来るなら苦労なんぞしないだろうよ……」


 俺に着いてくるように動いているヴァイスが尋ねてくるが、どうせ藤紅が連れて行ったんだろ?

 下手すりゃもう屋敷にいねぇんじゃねぇか?

 なんて考えたが、それを否定する存在が――突如として目の前に現れた。


「――ッ!?」


 思わず急ブレーキをかけて身構えて。

 横目で咄嗟に攻撃しようとしているヴァイスを確認しつつ、ヴァイスが無事でありますように……とお祈りを済ませて。


「まさかホンマに『牙蜘蛛』をどうにかするとは思わへんかったわ」


 ヴァイスの拳を閉じた扇で受け止め払い、正直に驚いている風な藤紅相手にとりあえず衝撃波をプレゼント。

 屋敷程度の外壁なら簡単にぶっ壊すようなソレな筈だが藤紅は――。


「なんやまた面倒な能力どすなぁ」


 僅かに眉をひそめ、扇を開いて扇いだだけ。

 それで衝撃波を打ち消しやがった。


「もうちっと苦戦してくれると助かるんだが?」

「サービス言うんはお互いにギブ&テイクで成り立つんよ? 見返りも見込めぬ相手には出来ない相談でありんすなぁ」


 ケラケラと笑う藤紅は、不気味なほどに落ち着いていて。

 まるで、『牙蜘蛛』という存在なんぞ、どうでもいいと考えているような――。


「あ、それちゃうで。どうでもいいやのうてな? ()()()()()()無いんよ」


 ツキとの『降魔』で無いが故に読まれる思考。

 しかし……気にする必要が無いってのは――嫌な予感が。


「まぁ、そりゃあ――」

「こういうことだよねー」


 開いた扇で口元を隠し、クルリと一回転。

 すると着物の裾からは――先ほど氷付けにしたはずの『牙蜘蛛』がピンピンしていて。


「ちょっ!? さっき倒した筈じゃあ……」


 あからさまに同様してしまうヴァイスに、思わず頭を抱えながら、ここから何が出来るかを思考する。

 藤紅に読まれようと、やらなきゃ――やられる。


「まぁ、正解っちゃ正解でありんすが……。()()()()んよねぇ」


 その言葉が合図であったのか、いきなりグニャリと視界が歪み。

 全身の感覚が消え失せて。

 ついでに意識も強制的に引き剥がされるような感覚を覚え――そこからの記憶は……無い。



「こんな回りくどい事する必要あった?」

「保険の保険ではあったんやけど、機能してくれてまぁ良かったやろ。分身とはいえ、あんたを倒す人間二人。冗談としか思いたくないでありんす」


 床に倒れた二人を見下ろし。

 『牙蜘蛛』と言葉を交わす藤紅は、どこか違和感を覚える。

 人数が……合わない様な。


「もう一人居てへんかったか!? 探し――」


 辺りを見渡し、『牙蜘蛛』へと指示を飛ばそうとした藤紅だったが、何者かに遮られた。

 何か鋭利なもので、背中を切りつけられた。

 そう理解した藤紅は振り向きざまに手から闇を伸ばして空間を薙ぐ――が。

 何者かはその攻撃には触れすらせず。

 どころか闇を振り抜いた腕に鋭い痛みが走った。


(見えず、捉えられず、感知できずに好き勝手暴れられる……許せへんな)


 奥歯を噛み締めた藤紅は、『牙蜘蛛』がこの部屋全域に蜘蛛の巣の紋章を広げた事を確認。

 捕縛のための広範囲の罠であることを理解し宙へと飛ぶ。

 ――しかし、


「ちょ!? 何で!!?」


 慌てた『牙蜘蛛』の声に視線を落とすとそこには――。

 何者かによって……罠である筈の紋章が、真っ二つに裂かれていたのだった。

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