持ち帰る事になりましたとさ
「ふむ。それで全員か?」
「察知してるんじゃないの? これ以上気配を感じちゃってる?」
「否。これで全員であるな」
値踏み、とまではいかないが、実体化した呪いの装備達を順番に見つめた白龍は探る様な問を投げかけて来た。
が、んなもん分かるだろ? と俺が返せば、確かに。と少しだけ表情を崩した。
「村の人達の依頼はそもそもゴブリンの掃討って事でそっちは片付けちまいましたが――。」
「今度は今ある食料が尽きた時にどうするかっつー問題が出てきちまう」
「んじゃあ供物としてどこかに備えさせるか? 相棒」
「それ、村の人、森まで入る、必要、ある。危険、じゃない?」
「どこか村の近くまで取りに行っていただけませんか?」
トゥオンが口を開き、会議がスタートして。
まず決めるべきは今まで勝手に運ばれていた食料を今後どうするか、という点。
「むぅ。負担がある故、動きたくはない」
「って言っても食い物無くなって困るのはあんただろ? 何とかなんねーの?」
「百歩譲りここを動いたとして、山を降りる程度しか動けぬ」
「山の麓まで供物として村の人に届けさせるか? 他のモンスターが持っていかね?」
妥協して麓まで、なんて言うこのわがまま龍の意見を汲み取り考えるも、どう思考しても他のモンスターが邪魔をする。
「なれば我の鱗を傍に置けばよい」
そう言って俺の目の前まで尻尾を垂らした白龍は、
「肌から浮いている鱗があろう? 古い鱗だ。好きに剥ぎ取れ」
と言ってきた。
龍族の鱗とかクッソ高級素材なんだけど? しかも肌から浮いてる鱗とかゆうに50枚はあるぞ。
「では数枚いただいていきますね。これを傍に置くだけでモンスターが近寄らなくなるのですか?」
シズが丁寧に、傷がつかない様に剥ぎ取った一枚の鱗は。
俺の手くらいの立派な大きさで、月明かりに照らされ、青白く輝いていた。
「逆鱗。言葉くらいは聞いた事があろう? 生える場所は様々なれど、果たして他のモノ達に逆鱗を判別できると思うか? 鱗と言うだけで警戒するであろう」
「これを作物と一緒に置いとくようにすればいいのな?」
「一枚では汝ら人間では不安である。故に、何枚か持って行くがよい」
ぶっちゃけ全部取れるのは欲しいんだけどな。売った金でしばらく過ごせるし。
「旦那、欲は身を滅ぼしますぜ? 数枚いただけるだけでも幸運な事ですぜ?」
「いや、分かってるぞ?」
「どう見ても金の事考えてる顔してたがな? HAHAHA」
周りに言われながら、俺も鱗を数枚失敬して。
トゥオン達もそれぞれ2枚ずつ剥ぎ取って……、
「って、お前らも剥ぎ取ってるのかよ!?」
「兄さま、うるさい。私達にとっても、鱗、重要」
「どれくらい? とっても! なんつってな! HAHAHA」
「下らない事言ってないで、次は村の人達用にいただきますよ。――おっと、ツキの分も取って置いてあげませんとね」
そういや棒立ちで一言も喋って無かったな、ツキ。
あー……寝てるわ。直立不動で。
村用に5枚。装備毎に2枚。俺が3枚ほど鱗を剥ぎ取らせて貰って、白龍は尻尾を下げる。
「鱗自体にも我の気配が宿る。もし有事であれば強く願え。我に届くやもしれぬ」
「んでも身重なんだろ? よっぽどじゃなきゃ頼らねぇよ」
「ヒュー、旦那、いかしてますぜ」
「今度は、割と、自然」
「そりゃ本心だからな」
白龍の言葉に対して出た無意識の言葉を褒められるが、相手が人間じゃないんだなこれが。
そんなやり取りを聞いて、僅かに微笑んだ白龍は、
「賑やか、というのも悪くは無いのかも知れぬな。汝ら、覚えておくが良い。我が名はハウラ。白龍ハウラぞ」
遅すぎる自己紹介をした。
「俺はケイス。エシット・ケイス。んで槍のトゥオンに盾のシエラ。鎧のメルヴィとブーツのシズ。今は寝ちゃってるけど兜のツキだ」
それに応えてこちらも自己紹介と装備の紹介を行って、
「ではケイスよ。そしてその装備のモノ達よ。汝らの先に光りあらんことを」
慈愛に満ちた表情と、温かさを感じる光を発したハウラはゆっくりと体を丸め、睡眠の体勢を取る。
「んじゃ俺らも帰るか」
「今回はあっし、かなり活躍しましたぜ」
「武器が一番活躍しねぇでどうすんだ? あん?」
「私も魔法を常に発動していたのでご褒美が欲しいのですけれど……」
「みんな、賑やか。私は、寝る」
来た道を戻り、洞窟の外へと向かった俺たちは……。
あ、――忘れてた。
「村ってどっちだ? 俺、気を失ってたから分かんねぇぞ?」
「SWを掛けて貰って上から探せばいいんで無いですかい?」
「こんな暗闇だとどうあがいても村なんざ見えねぇよ。大人しく洞窟内で休んだ方がいいと思うぜ?」
「シエラの意見に賛成です。洞窟内に戻りましょう」
結局回れ右をして、ハウラの所へと戻ってきて。
ハウラから距離を取り、壁に背中を預けて寝た筈なのだが――。
どういうわけか目が覚めたら、ハウラの体に背を預けるような体勢になっていたのは何故なんだろうな?