二体目ですとさ
「出来なくは無いっすけどね」
「じゃあ――」
「けど、やるかどうかってのとは別ですぜ? そもそも、ツキみたいに簡単に『降魔』を許すのがおかしいんですよ」
この間藤紅によって精神世界に閉じ込められた時、ソレしか思いつかなかったからなのだろう。
ツキは、あっさり……いや――結構恥ずかしがってはいたが、それでもちゃんと『降魔』を行ってくれた。
「そうなのか?」
「そもそも『降魔』っていうのはですねぇ――」
説明しようとしたトゥオンだが、横に居るヴァイスを気にし、急に声が途切れるが……。
意を決したように、続きを口にした。
「あっしらが全てを許した相手にのみ行う、特別な強化魔法のようなもんっす。憑依以上で、一蓮托生と同意で、何なら――その相手になら殺されても構わないって意思表示と同義なんすよ」
「それが……『降魔』?」
「どんだけツキが軽かったか分かったっすか? あっしはすいません、そこまで旦那に心を許してないんすよ。――いや、多分旦那からも受け入れられないんすよ」
想像以上に重く――否。
以上どころか別次元の重さ。
それを……あんな簡単に、か。
しかも二回も。
……ひょっとして俺は、ツキに何かを託されたのだろうか?
――それとも……背負わされたのだろうか?
「けどトゥオン……だっけ? さっきはケイスの所に早く連れて行ってくれって懇願してたじゃない」
「ほぉー……」
「んなっ!? ち、ち、ち、違うっす! あっしが最後だと思って……かつ誰かが『降魔』を許したと思ってですねぇ――」
「ふーん」
必死に言い繕うトゥオンだが、それを何かを含んだような目で、面白そうに見ているヴァイス。
多分、全然違うんだろうな……トゥオンの主張と実際のとで。
「とにかく、そう簡単に『降魔』は出来ないんすよ」
「でも『降魔』を行わないと出られないんじゃ無いの? ここから」
「多分」
ようやくヴァイスが連れてきてくれたトゥオン。
そのトゥオンが拒否るのならば、また別の装備の人格を連れて来て貰わないといけないわけで。
と言う事は、またヴァイスに頼むことになるわけで。
トゥオンを連れてくるなり、疲労からか座り込んだ存在に、果たして俺は何と声を掛ければいいのだろうか。
……そもそもまた行ってくれるのか?
――と、
「申し訳ありません、お嬢様。――限界です」
どこからともなく現れたスカーの第一声は「もう無理」。
……ていうかどっから沸いたこいつ。
「私も限界だからまーいいんじゃない? あーあー、これじゃあ別の装備の人格探しに行けなくなっちゃったなー」
あからさまにトゥオンをちらちら見ながら、わざとらしくそう呟くヴァイス。
うん……まぁ……露骨だな。
「えぇ……。さっきまで精神世界の境界切り刻んで侵入してたじゃないっすか……」
「たった今『赤頭巾』使えなくなったけど?」
「う゛……。マジでやんなきゃ駄目っすかい?」
たった今……?
てことはスカーが突然現れたことに関係あんのか『赤頭巾』って。
あとトゥオンにそこまで拒否られると割と傷つくぞ……。
「うぅ……。じゃあ、こうしません?」
「お、何か打開案でもあんのか?」
「打開案ってか妥協案っすね」
微妙に言葉を変えたトゥオンの提案とは――。
「一瞬だけ『降魔』を行い、簡単に他の人格を探せるようにしましょう」
「出来るのか?」
「やりますよ。で、そこまでやったら『降魔』を解除しますんで、他の人格見つけてその人格との『降魔』で打開してくだせぇ」
何というかまぁ、苦渋というか、ギリギリの許容というような、苦しんで考え抜いた末の答え。
そう苦悶の表情が物語るその提案が、トゥオンの譲歩なのだろう。
「それしかない……よな?」
「そもそもあっしの力じゃあ精神世界を切り開く、なんて事は出来ませんぜ。せいぜい境目を壊す程度が関の山でさぁ」
「とりあえずやってみないと、このまま時間だけ過ぎても事態は変わらないでしょ?」
本人は『降魔』をやらなくていいのをいいことに、さっさとやれと言い放ってくるヴァイス。
あれ結構辛いだぞ……。
すっげぇ身体が無理してる感が半端ねぇんだぞ……。
「まぁ、そっすね。はぁ……んじゃあ、本当に一瞬すよ? あっしはまだ旦那と一緒に死にたくないんで」
「もうどうでもいいさ。とりあえず今の状況打破出来るなら」
「んじゃあ――。トゥオン・ハティスル。汝の内に宿りて、我の力を授けよう」
あ、今回俺の心の準備とか全部無視される奴だこれ。
――流石に三回目ともなれば、身体への負担はある程度慣れてしまったな……。
それでも大分キツいし、もう既に吐き気とか催してるんだが……。
(旦那の体調とかぶっちゃけ知ったこっちゃないんで。さっさとやりますぜ。『降魔 氷槍狼』)