またこうなりましたとさ
さて、状況を整理しよう。
どうせ精神世界に縛られた。
しかもご丁寧に精神世界ですら蜘蛛の糸で四肢を拘束してくれている。
どういった原理かは知らないが、残念ながらその糸は多少身体を捻った位じゃ切れてくれないらしい。
それらを踏まえた上で、だ。
「どうしろって言うんだよ……」
俺は誰にも届かないであろう愚痴をこぼす。
前回精神世界に捕らわれたときは、ツキが一緒であり、その事が脱出に繋がったのだが……。
生憎視界に入る範囲には、残念ながら装備達の姿は無い。
今度こそ終わりかねぇ……。
思えばゆっくり落ち着いた時間なんて無い人生だった……。
次産まれるときにはもっと余裕のある人生を選びたいものだ……。
「何か陰気な感情が流れてきてんだけど誰!?」
そんなすでに来世へと希望を託そうとする俺のもとへ現れたるは、『フード』を被った……ヴァイス?
「ヴァイスか?」
「てことはケイスなのね」
フードを目深に被っており、おおよそ周囲が見えるとは思えないヴァイスは、どうやら声で俺だと認識してくれたらしい。
けど……その……。
「あ、もしかしたら見えてるかも知れないから説明しておくけど、今は『赤頭巾』モードだから」
『白頭巾』――もちろん、白い頭巾を被っているからこそのその通称は。
彼女が発したように、現在は赤く染まっている。
鮮やかな赤にはほど遠く。
どちらかと言えば、紅。しかも、汚れたように黒ずんだ紅色。
それはつまり……。
「幾人もの返り血で染め抜いた、真紅の頭巾。これが『白頭巾』の本当の姿だったりー」
「ばらしていいのか?」
「今まではばらした相手は解体してきたんだけどね。この世界だとこれじゃ無いと動けないっぽいのよ」
俺が『降魔』でしか動けないように。
ヴァイスもまた、『赤頭巾』でしか動けないとのこと。
何やら不思議な装備をお持ちな様で。――俺が言えたことじゃないけど。
「その姿の得物が何かは知らんが、俺を拘束してる糸斬ってくんねぇか?」
「拘束……? んー、無理っぽい?」
試す前に諦められちゃあ堪らない。
が、今の言葉引っかかるな……。
「じゃあ、俺の装備を探してくれよ。全部バラバラになっちまってる」
「……装備? んー、それなら出来なくも無い……かな?」
装備なら探せる? ……けど、俺の装備は残念ながら俺の手元に全部あるんだよな。
中身は居なくなっちまってるが。
……さて、どっちだ?
最初から装備の中身を知っていたか、それとも……今現在見えていないか。
何なら、何故それを黙っているのか……。
「とりあえず、俺の拘束を何とかしないとこっから抜け出せねぇ」
「? てことは動けさえすればどうにか出来るの?」
「まぁ、前に一回抜け出したからな。……最も、その方法がまた通用するかは分からん」
「ふーん。……んで、その為には装備が必要なのね?」
「その通りだ」
そんなやりとりをしていると、ヴァイスが被っているフードが独りでに浮き上がり、反転。
俺が知っている『白頭巾』へと変わり、そのままヴァイスへと被さっていく。
「探すんなら、こっちの方がいいかな」
「結構簡単に切り替えられるのな、それ」
「まぁ、裏返すだけだし。……けど、性能はぜんっぜん違うから」
「結構ピーキーなのか?」
「大分ね。説明省くけど、『赤頭巾』だと範囲と威力十倍……みたいな感じ」
「かなり場面選ぶなソレ」
「でしょ? だからさっきの『赤頭巾』で無茶苦茶に破壊してここに辿り着いて、んで、今度は装備探すから破壊すると面倒じゃん? ……あれ?」
そこまで喋って俺へと顔を向けたヴァイスは、一瞬キョトンとした表情になり……。
「装備あるじゃん。何探せって?」
と尋ねてきた。
『赤頭巾』解除した直後に突っ込み入れるって、もうそういう事だろうな。
強すぎる能力には何かしらの代償ってものがある。
こいつの場合、それが視力とかなのだろう。
こいつはこいつで中々に難儀そうだ。
「あー……うん。装備は確かにあるんだが……中身がな?」
「中身? 装備に中身も何も……。暗器とかそういうの?」
「暗器……ではないな」
果たしてどう説明したもんかと頭を捻るが、残念ながら直ぐに納得させられるような言葉は思いつかず。
結果、呪われた装備であることや、装備に人格が宿っていること。
この場所が精神世界であることを伝え、装備の人格を探して貰うように頼み込んだ。
…………何度説明し直したか分かんねぇ。