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やってみましたとさ

「うん? 監視用の蜘蛛が離れた?」


 ケイスの身体に潜ませていた発信器代わりの自身の分体。

 限りなく小さく分けたその一つから、音等の情報を手には入れられないが、現在地さえ分かれば十分。

 そう考えていた『牙蜘蛛』だったが、ここに来て一つ、誤算が生じていた。

 そもそも魔物同士、仲良しこよしでお手々を繋いで――等という雰囲気では無い。

 力こそ全て。

 その考えを土台として存在しているのだから、同じ魔物だろうが足下を掬い合うような関係であるし、それは『牙蜘蛛』と藤紅にすら当てはまる。

 ――つまり、


「なるほど、僕にまだ教えてない情報があるんだ。蜘蛛に気付く術か……。それとも、蜘蛛が潜めなくなるほどの特殊な移動法か……」


 確かに誤算は生じはしたが、すでに様々な罠は張り巡らされている。

 例えどのような手段で来ようとも、この屋敷に足を踏み入れた時点で終わり。

 ――の筈だった。



「お、やっぱあん時のお坊ちゃんか」

「んなっ!?」


 スカーの視界から飛び出ると、そこにはワイン片手に寛ぐガキが一人。

 セレナが踊っている間に、俺がふと気になったあのお坊ちゃん本人で、『烏の目(スケアクロウ)』で確認したとおり、『牙蜘蛛』に他ならない。

 現に、そいつの背中からは人間には生えるはずの無い、ごっつい毛むくじゃらの足が両脇から一本ずつ生えてきた。

 突如として。気配すら無く。

 が、例えそのような状況でもこちらが不意を突いたという事実には変わりなく。

 相手が身構える頃にはこちらの得物、トゥオンの先端はガキの顔面へと突き立てられる数瞬前。

 奇襲は成功。

 ――が、そんな簡単に話を進ませてくれないのがもう一体居る二つ名持ちである。


「久しゅうなぁ。と言っても、そないに長い時間経ってはないでありんすが」


 部屋に響くは妖艶な声。

 振り返らずとも、確認せずとも、それは藤紅のものに他ならず。

 顔面を貫くはずだった槍の先端は、『牙蜘蛛』の頬を僅かに掠める程度に留まった。

 ……元々の位置をずらしてたか?

 恐らくは藤紅の細工であろうソレは、この部屋の座標を微妙に回転させ、回転前の映像を上から貼ったような……。

 感覚だが、見えている景色と実際の景色をずらすような幻術……だろう。


「幻術は効かへんはずやのに……。そうやなぁ、確かにあんさんには効きまへんけど」


 俺の心の中の声を、思考を容易く読んだ藤紅は、否定はせずに、部屋の柱を撫でながら言う。


「部屋自体に細工してりゃ、あんさんには作用するみたいどすなぁ」


 その為に、時間をかけてタップリ細工したぞ、と。

 つーかこいつ、絶対俺がここに来るって確信してやがったな……。


「性格的になぁ。それに、あんさんのその『降魔』とかいうん? 長い時間使えへんみたいやし」


 一度見せた行動は、どうやら対策と読みと、両方を用意してくるらしい。

 ……マジでセレナの言うとおりめんどくせぇ。


「色々言いたいことはあるけど、一先ずはいらっしゃぁい。ようこそ、僕の館へ」


 頬の傷をペロリと舐めて、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)に言う『牙蜘蛛』へ、追撃をかけようとして。


「旦那!! 後ろ!!」


 咄嗟の声にその場に身を沈め、直後に左へ飛んで、脅威だと思われる背後からの一撃から回避する。

 俺がすんでのところで避けた攻撃は――スカーからの、一撃だった。


「――っ!? そうか、色々別んもん見せられてるみてぇだな!!」


 放った攻撃を躱され、体勢を崩しているはずのスカーへ、シールドバッシュを試みる。

 狙いは顔面、喰らって気絶でもしてくれりゃあ万々歳。

 しかし、現実はそう甘くはない。

 崩していた体勢から、無理矢理上体だけを後ろに逸らして最小の動きで俺の攻撃を躱し、即座に蹴り。

 それをトゥオンで受けつつ藤紅を見れば、どう考えてもよろしくない夜を召喚した直後。

 更には視界の端に毛むくじゃらの立派な足の先端がチラリ。

 ……常識的に考えて、三対一は無理だよな。


「早速弱音かや? 忌々しい白龍さえおらんなら、まぁ人間程度こんなもんやろなぁ」


 普通ならな。

 けど、一応満遍なく()()()し、後はなんとかなるだろ。


「撒いた? けどあんさんのデバフは軒並み防いで――」


 俺が『降魔』状態で藤紅と対峙した際、確かにツキの能力のデバフを何重にも百重にでも重ねはしたが、そもそもツキの能力はデバフだけじゃあない。


「そらそやけど、この場にあんさんの味方とか気配すらないで?」


 思考が読める故に、慌てて周囲への感知を強めてセレナを警戒するが、残念ながらそっちじゃねぇよ。


「狐!! 何が起こってるの!!」

「うっさいなちと黙りや!! 色々探っとる最中や!!」


 突如として始まった俺と藤紅のみの一方的な会話が面白くないのか、適当な攻撃しかこちらに流してこない『牙蜘蛛』。

 まるで手加減されているようで面白くねぇが、ガキぶん殴るのは大人の仕事。

 この場所に来る前に、俺はそう考えた。

 だからさ、ぶん殴ってやれよ。


「耐性も能力強化もこれでもかとくれてやったぞ!! 一発かませ!! スカー!! 目の前のクソガキがお前とお前の主を戦わせた張本人だ!!」


 おおよそ人間では並ぶ者が居ないほどの精神魔法耐性。

 それを手に入れたスカーは、一瞬で自身に掛けられた魔法を破ってくれたようで。

 それを示すかのように、鋭い握りこぶしの一撃は……。

 俺に向かって絶賛襲いかかっている『牙蜘蛛』の顔面へと――突き刺さった。

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