立案中ですとさ
「とまぁこんな所じゃの、藤紅の特徴は」
「なんとなく分かったような……分かんないような……」
俺が目を覚ましたときに、真っ先に聞こえてきたのは、どうやら藤紅の特徴を説明したらしいセレナの言葉。
そして、それに対して、曖昧な返答をするヴァイスだった。
「どうだ? ……藤紅の事、分かったか?」
「あ、気が付いたんだ。……無理っしょ。瞬間的に幻術の類いに嵌めてくるとか、人間じゃ対処不能よ」
「妾が幻術に入っておらぬなら、即座に覚ましてやるのじゃ」
「その隙狙って攻撃されそうだけどな。――そういや、藤紅と会話してた奴が居たな。……広場で俺が気になった坊ちゃんだったみたいだが……」
やる前から諦めるヴァイスだが、何というか……。
幻術に嵌められはするだろうし、それを防げるとは思えないが、入っても直ぐに殺されたりは――。
あー……今回俺ら生かしとく意味ねぇのか。
ってなると藤紅対策必須か……。
「妾はそやつを見ておらぬのじゃ。何ぞこう特徴的なのをあげてくれぬか?」
「特徴……特徴ねぇ」
正直魔法発動中はスカーか藤紅を注視してたし、あまり印象に残ってないんだよなぁ、坊ちゃんは。
「あまり覚えてねぇな。印象に残らない奴だった、って特徴じゃダメか?」
「ダメじゃな。何かこう、動きとか、何をしておったかでもよいのじゃ」
「動き……ん? 待てよ……」
たぐり寄せるは記憶に残る映像。
確かあの坊ちゃんはワインを弄んでいたような……。
「ワイン……それを――」
「それを?」
「何かに染み込ませていた……様な」
空中で、何かがワインを吸っていた。……確か――糸?
「もしや糸か?」
俺が言葉を発しようとしたまさにその時、口から出るはずだった言葉は、セレナによって先回りされてしまった。
「そそ。心当たりがあるのか?」
「ワインを嗜み、糸が近くにあって、藤紅と知り合いじゃろ? ……『牙蜘蛛』位しか思いつかんのじゃ」
セレナが口にしたその名前は、残念ながらどう聞いても二体目の二つ名付きとしか思えない響き。
「嫌な予感がするんだけど、その『牙蜘蛛』って?」
「罠の精霊の筈じゃが、ゾロアストの力で強大になり始めたと噂を聞いた事がある程度じゃ。精霊がモンスター扱いになっておるのは些か気に掛かるかの」
俺と同じ気持ちだったヴァイスがセレナへ聞くと、セレナはある程度の解説をして、顎に手を当て考え込んでしまう。
「藤紅が後援……いや、奴は別の……。ならば誰じゃ? ……よもや本体などとは……」
「ねぇ、ケイス」
「ん? なんだ?」
「セレナちゃんって何者?」
一人でブツブツと呟きながら、何やら思考を繰り返すセレナの姿は、残念ながら見た目通りの少女とはとても言い難い。
そこからの疑問をヴァイスがぶつけてくるが、俺に出来るのは肩をすくめる程度だよ。
俺もこいつが二つ名付きって以外の情報、ほとんど知らねぇしな。
「なぁ、セレナ。その『牙蜘蛛』って奴の特徴を頼めるか?」
「ん? ……そうじゃの。罠の精霊で嗜虐心の塊じゃの。こやつの設置する罠は単発にあらず、全ての罠が連動して一つの大きな罠となるように設置されるのが特徴じゃ。やつはそれを高みから見下ろし、罠に掛かった獲物が逃げ惑う様を楽しみながらワインを傾ける」
「悪趣味……」
説明を聞いて思ったが、また自分の腕で戦わねぇタイプかこれ。
瞬間的に意識飛ばしてくる藤紅と、罠に掛けて観察する『牙蜘蛛』とかもう面倒なの確定じゃねぇか……。
「藤紅も同じ場所におると言う事で、もはや建物全体が罠と見ていいじゃろ……これどうするのじゃ?」
「言いたくなる気持ちは分かるが俺に聞くな」
「一応、何か考えある人挙手~」
聖白龍様がどうすりゃいいか分かんねぇなら、俺ら人間に分かるわけねぇだろ……。
「ま、居ないよね。って事で言い出しっぺの私の考えは~」
聞いてもいないのに自ら率先して答え始めたヴァイス。
どうせ突拍子もない事を言い出すんだろ。
「とりあえず範囲魔法ぶっぱなして、後は野となれ山となれ――」
「キックスターにお伺い立てろよ? 俺は絶対にやらんからな?」
「は冗談なんだけどさ」
どう考えても冗談を言う口調じゃ無かったぞ……。
というか即効意見翻しやがって……。
魔法ぶっぱで終わらせていいならどんなに楽か。
「まぁ、私がまず侵入して罠に掛かるしか無いと思うのよね。その藤紅? とか言うの、ケイス達は一回倒してるんでしょ? だったら、私が罠に掛かって逃げてる間に藤紅何とかしてもらって、さらにスカーに掛かってる魔法を何とかしてもらえば、後はスカーとケイス達で『牙蜘蛛』やっつけて……ってのはどう?」
どう? じゃないんだがなぁ。
どうにかしてって、具体的にどうするんだよ……。
一番肝心な部分曖昧じゃねぇか。
んでもってスカーの掛かってる魔法も、本人とセレナ会わせなきゃどうにもならん。
んでもってスカーは『牙蜘蛛』の傍離れるのか?
……ツッコミが追いつかねぇ。
「無理じゃろうな。そもそも根本が間違えておるのじゃ」
「根本?」
「単独突撃するのはケイスじゃ。ケイスが罠にハマっておる内に、妾と汝とで藤紅相手にしながらスカーを元に戻すのじゃ」
「待て待て待て待て! 無理だろ!? どう考えても無理だろ!?」
「無理ならば提案せぬのじゃ。ケイスよ、お主はどうやって……藤紅の呪縛から抜けたか忘れたのか?」
意味深な視線に、選ばれた言葉。
セレナのその気遣いは、ヴァイスに俺がやったことを知られないためか。
……また使うってのか?
――『降魔』を。