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とんでもないものと顔を合わせましたとさ

「――っ!!」


 僅かな洞窟の振動。

と同時に身を震わせる程の空気の振動。

それが恐らく奥に居るドラゴンの咆哮であると装備者達も、当然俺も理解して。


 無言で槍を構え、盾を手に取り。

回避を容易にするために、足場を考えなくていいように、WW(ウインドウィーク)SW(スカイウォーク)をしっかりとその身に受けて。


 とりあえずは万全。普段ならシエラ辺りが軽口を叩いてきそうだが、今回ばかりは静かにただただ黙っている。

それだけ咆哮が、届いた気配が、強大な相手だと理解するに十分だった。


 少しだけ深呼吸、目を閉じて肩の力を一瞬抜いて、意を決して奥へと()ぶ。


(さぁさぁ、鬼が出るか蛇が出るか。一丁確かめるとしますか)

「出るなら蛇じゃなくて龍だと思いますけどね」

(緊張感ねぇな、トゥオンは)

「交渉者が固くなってて何を交渉するっていうんですかい?」

「夜の情事と一緒だぜ相棒? 固くなった奴が固くしたままだと引かれちまわぁ」

「シエラはこんな時に下ネタかますな!! 後でツキに説明しとけよ? 変な事吹き込まずにな」

「うげ、藪蛇(やぶへび)だったか」

「ですから蛇ではなく龍でございますよ?」

「もう、緊張感、皆無。けど、まぁ、私達……ぽい?」


 どうか神様、対面した直後にブレスとか飛んで来ませんように。

そう祈りながら俺らはとうとう洞窟の奥の存在と相対するのであった。



「マジかよ……」

「汝、参じた理由を明確にせよ」


 見上げながら思わず漏れ出た本音。その俺の言葉に僅かに眉を動かして、そのとんでもない存在は、当たり前のように上から目線でこの場所に俺らが来た理由を問いかけて来た。

否、問いかけるなんて優しいものじゃない。もはや威圧からくる強制的な尋問。


()く答えよ。我の我慢にも限界がある」


 その存在は座っていた。

洞窟の奥、だだっ広く開けた空間。

岩壁は無数に傷をつけられて、そのいくつかからは月明かりが差し込む。


 まるでおとぎ話の場面をそのまま切り出したような神秘的な空間に、ただただ座する純白の龍。

月明かりに光り、その場の空間を白く塗りつぶして、そして空気を重々しく変えて。


 そんな存在からの問いに俺は何と答えればいい。――何と答えれば()()()()()()


「僭越ながらお答えさせていただきやしょう。この洞窟に巣くっていたゴブリンがあなた様の事を話しておりまして、是非お目通り願いたいと――」

「虚偽は望んでいない。汝らの目的を答えよ」


 トゥオンが言葉を選び、もっともらしくついた嘘を、ふざけるな。と一蹴(いっしゅう)して白龍は再度問う。


「ここに居たゴブリンが人間の村から家畜や作物を盗んでいた。それを止めようと俺らはゴブリンを掃討に来た。が、ゴブリンはあんたの為に盗んでいると言った。だから、あんたと話をする為にここに来た」


 内心は震えながら。しかし、いつもと変わらない口調を意識して俺は白龍に言う。

正直に、本当の事を。


「であるか。ふむ」


 僅かにそれだけ呟いて、翼を広げて飛び上がったかと思えば、すぐ脇の岩壁の隙間から村から盗られたものであろう大量の作物が転がり出て来て。


「ゴブリンが盗んだものとやらはこれか?」


 と確認を(うなが)してくる。


「何をいくつとは聞いてないが間違いないと思う」

「であるか。これを返せ、と?」

「出来るなら」

「可能ならばこのまま置いておきたい所なのだが」

「理由を聞かせて貰えm

「黙れ」


 とりあえず作物を返して貰おうと話をしようとして、トゥオンが入り込んだ瞬間に強い口調でそう言われた。


「我の前で姿すら現さぬ無礼者と利く口は生憎(あいにく)持ち合わせておらぬ」

「――っ。……これで構いませんかい?」


 何故強い口調で言ったか。言葉を遮ったか。その説明を受けて実体化してから尋ねるトゥオンに、


「それなら構わぬ。理由を聞いたのだったな」


 と少しだけ口調が優しくなって白龍が話し始める。


「実はな、……その……なんだ」


 先ほどまでの威厳はどこへやら、歯切れの悪い言葉を続けて……


「我は……身重なのだ」


 ――はいっ!?



 龍の妊娠期間は長い事。その間普段通りの動きが出来ず食事になかなかありつけない事。

ゴブリン達が勝手に食料を持って来てくれて助かっていた事。もうぶっちゃけこの洞窟から動きたくない事。

これらを白龍から聞いて、思わず全身の力が抜け地面に座り込む。


 もう本当に食い殺されたらどうしようかと思ってたよ。


「でも家畜なんかは返してたよな? あれは何でだ?」

「肉より野菜の方が好みである」

「さいで。野菜さえあれば家畜要らない?」

「不要である」

「しかも野菜も結構残ってるからもしかしなくても小食?」

「基本動かぬ故にほとんど食わぬ。と言いたいが腹の子の機嫌次第だ」


 すっかりお母さんの考えになってまぁなんとも。


「とりあえず村の人々の依頼と、あんたが望む事のすり合わせでもしていきますか。トゥオン、シエラ、ツキ、メルヴィ、シズ、出て来てくれ」


 全員に実体化して貰い、白龍と交渉をするとしよう。

まぁ俺の中での議題は、今後どうするか。より、何をして帰れば村の人達を納得させられるか。なわけなんだけどな。

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