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「何か見えたかの?」
『烏の目』から意識を戻した俺に即座に詰め寄るセレナだが、ちょっと待ってくれ……。
頭痛と耳鳴りがすげぇ。
「何か飲む?」
「……水くれ」
表情から辛さが読み取られたか、ヴァイスからコップに水を注いで貰い、一口飲み下し。
……ダメだな、耳鳴りが止まねぇ。
「まぁ、いい知らせと悪い知らせがある。どっちからがいい?」
「ん~、じゃあいい知らせからで」
「スカーの事だけどな、恐らく操られてるだけだ」
「ほんと!?」
明らかに表情が晴れ、笑顔になるヴァイス。
『白頭巾』じゃなきゃ普通に可愛い少女なんだがなぁ。
瞳に闇の魔法が掛かっていただけだが、そもそもそんな魔法なんざ他にどんな目的で使うよ?
大方見ている景色を誤認させる類いの魔法だと思うが……。
「多分な。瞳のとこに闇の魔法被せられてたみたいだった」
「瞳に? と言う事は違う景色でも見せられておるのか?」
「違う景色って具体的には?」
幻術と呼ばれる魔法の中には、幻を見せるのでは無く、認識を入れ替える魔法も存在すると聞いた事がある。
今の状況で言うなら、スカーが従っているクソガキを、ヴァイスと認識していると考えてみると分かりやすい。
主人に見えるから従っている、と言うわけだ。
「さあな。けど、お前をお前の姿で認識してないのは確かだろうな」
「じゃあ、その魔法を解除すれば?」
「戻ってくるじゃろ。解除なら任せい。呪いの類いからデバフまで、妾がまるっと解除してみせるのじゃ」
「おぉ頼もしい。じゃあスカーはセレナちゃんを連れてけば解決しそう」
そうだな、連れて行って、対峙して、相手を無力化出来たらな。
結構骨だと思うけどさ。
「して? 悪い知らせというのは?」
「……藤紅が居た」
「な゛っ!?」
俺の口から悪い知らせを聞いたセレナは、絶句し黙り込んでしまう。
うん、俺も我が目を疑ったけどな。見ちまったんだよなぁ、ハッキリと。
「あり得ぬ! つい先日倒したばかりであろ!? そんな短期間で復活するような存在では無い筈じゃぞ!?」
「俺に怒鳴るなよ……。現に動いてたし、見えたし、何なら『烏の目』にも反応してたっぽいぞ……」
「奴なら感づくか……」
「ねぇ、その藤紅って誰?」
俺とセレナで盛り上がってる間に、まだ藤紅と顔を合わせたことの無いヴァイスが尋ねてくる。
まぁ、気になるわな。
「ちょっと前に俺らが……あぁ、てかシューリッヒの所に居たやつでな?」
「二つ名持ちのモンスターじゃな。『狼狐妖』という個体で、藤紅と名乗りおった」
「ふーん二つ名……。え? ちょ……えっ? マジで二つ名有りのモンスターなの?」
いや、目の前にもう一個体居るし、二つ名有り。
まぁ、それは別に教えるつもりは無いが。
「そうじゃの。二天精霊ゾロアストの眷属じゃ。面倒くさい相手じゃの」
「面倒くさい……じゃないから!? サラッと何!? 二天精霊の眷属!? 普通に人間じゃどうにもならない相手じゃ無いの?」
「けど俺ら二人がかりで退けたぞ?」
「うむ。面倒じゃったが、あいつは直接的な戦闘力はそこまでじゃからの」
セレナと顔を見合わせて話すが、ヴァイスは開いた口が塞がらない様だ。
何かを言いかけて、やっぱり止めて、と口をパクパクさせていた。
「とはいえ、悪い知らせのぅ。屋敷にこちらから赴くしか無く、そこに藤紅がおって……どう考えても罠張り巡らすじゃろ?」
「だろうな。だからこそ悪い知らせな訳だが」
「とりあえず、藤紅に関する情報頂戴……。冴えないおっさんだと思ってたけど、認識改める。二つ名持ちどうにかするとか、そりゃあ国が抱える訳よ」
ため息をつきながらベッドに倒れ込んだヴァイスは藤紅の情報を要求してきた。
どうせ敵だし、それに知っておいて貰わなければならない情報もあるし、まぁ丁度いい。
……が、その説明はセレナに頼もう。
もう、耳鳴りどころか頭痛が酷すぎて、意識保ってるのもやっとなんだわ……。
「セレナ、説明頼むぞ」
絞り出せた言葉でそう言い残し、俺は、必死に引っ張っていた意識の紐から手を放した。
*
「ありゃ、倒れちゃった」
「ま、あの魔法使った後はいつもああなのじゃ。さて、藤紅の情報じゃったな」
いつものこと、とケイスが倒れた事を片付けて、ヴァイスへと説明を始めたセレナは、ケイスの服に、一匹の蜘蛛が張り付いていることに気付くことが出来なかった。




