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また使いますとさ

 なーんか僕ってついてる? 適当に縛った奴が急所みたいだったねぇ。

 人間どんなに取り繕おうとやっぱ脆いなぁ。 ……けど。

 あの変な鎧付けた奴は何だったんだろー? 妙に固かったなぁ。



「スカーが裏切った?」


 突然のことで、オウム返しするしか出来なかった俺に、ヴァイスは目元を拭いながら頷いて肯定。

 ……いや、こいつらがどんな関係なのか知らんけどさ、結構信頼してたんじゃないのか?


「何でそう判断したんだ?」

「――ふぅ。うし、落ち着いた」


 俺からの質問に返ってきたのは、先ほどまでの嗚咽でも、落ち込んだ暗い声でも無く、普段通りのヴァイスの声色。

 息を吐いて、気持ちでも入れ替えたのか、先ほどとは別人のようにハッキリと喋り始めた。


「ケイス達には伝えてなかった私達側の動きがあんだけど、どーもそれを流されてたっぽいのよね。私の行く先に見たことないガキとスカーが居てさ」


 ガキって呼ぶなよ……。一応貴族の息子だぞ……。

 俺だって我慢してお坊ちゃんって心の中でも呼んでたのに……。


「その子供に命令されて私を襲ってきたんだよね、スカーが」

「偽物だって可能性は?」

「ないない。偽物なら私が攻撃当たるわけないじゃん」


 部屋に入ってずっと泣いていたのか、床に血を滴らせた彼女の右腕は、肩口にはべっとりと血が滲んでいるし、視界に入る肌には、赤い筋が枝分かれして指先まで続いている。

 避けられなかった。だから、攻撃を食らったのか。


「てっきり驚きのあまり足が止まったのかと思ったんだが……」

「その程度で動き止まるわけないじゃん。大体、ただ敵として出てこられてもちょっと厄介かな位の力関係よ?」

「でも攻撃は喰らったんだろ? 何があったんだよ」


 ヴァイスの喋る内容から、思いつくような選択肢は全て消す。

 その為には、多少の疑問でも口に出して潰して貰うに限る。


「連携がすっごく上手かったんだよね。私が、私との連携以上だと感じるくらいに」

「あー……」


 どれくらいの仲なのかは知らないが、彼女の信頼っぷりから察するに一朝一夕の間柄じゃないはず。

 その思いを打ち砕くほどに、連携が完璧だったわけか。

 裏切られていないと信じたかった心は、まざまざと見せつけられた事実に砕かれた。

 どんなに『白頭巾』の名が踊ろうと、中身はまだ、こんなに小さな少女なのだ。

 落ち込むのも無理はない……。

 ――が、


「でも、キックスターの依頼なら完遂すんだろ?」

「はん? 当然じゃん! 今まで私のお世話係だったくせに、反旗を翻したスカーに鉄槌喰らわせないと気が済まないし!」

「その言い草だと貴族ボコるのおまけになってねぇか?」

「まっさかー? スカーに鉄槌喰らわすのがおまけで、あの憎たらしいクソガキを一発ぶん殴るのがメイン。貴族はついでって感じで――」

「それ優先順位下がってっからな? 大人しく貴族ボコるの優先しとけ」

「えー……ぶーぶー……」


 唇尖らせてブーイングしても駄目なもんは駄目!

 つうか少しくらい考えろよ……。


「貴族襲撃すんのに必要な作戦をスカーは相手に流してたんだろ? んじゃあ貴族狙ってりゃスカーと、そのパートナーとか言うクソガキも出てくるに決まってんだろ。じゃあわざわざ俺らがスカーとかに標的絞らなくてもどっかでぶつかるだろうが……」

「――それもそうか。ん、じゃあ今から貴族血祭りに上げよ?」

「落ち着けよ、なりふり構わなさすぎだろ……。大体、あの貴族のとこはまだ舞踏会の最中だぞ? 目立つなってキックスターから言われてるんじゃねぇのか?」


 散歩にでも行くような乗りで『白頭巾』羽織って出て行こうとしやがって……口調だけは普段通りに戻りはしたが、内心はまだ動揺してやがんな……。


「のぅ、ケイスよ」

「ん? 何だ?」


 今まで俺とヴァイスのやりとりを黙って聞いてたセレナは、とてもじゃないがいい知らせを口にするとは思えない表情で、


「妾が屋敷に入った瞬間に震えたことは覚えておるな?」


 と尋ねてきた。


「まぁ。けどあの時大丈夫って言って無かったっけ?」

「確かに大丈夫とは言ったのじゃ。……が、『まだ』と枕詞を付けたはずなのじゃ」

「もしかしなくても嫌な報告か?」

「どうにも手遅れ感が否めんのじゃ」


 あの時セレナは何と言っていた?

 すでに捕まってしまったような感覚? そして、直接的にはまだ大丈夫?

 ……つまりは、


「あの時点でスカーが裏切っていた?」

「可能性としては高いと思うのじゃ」

「よく分かんないんだけど、私らが屋敷に入ったタイミングで感じたわけ?」

「うむ。屋敷に足を踏み入れた直後に嫌な気配を感じたのじゃ」

「んー……多分だけど、スカーはそんな気配悟らせないと思う。仮にも私と一緒に行動してたんだし、そんな気配あれば私が気付くはずだもの」


 うーん。でもセレナの言ってる様に、俺らをおびき寄せたから敵に寝返った、つまり、気配が変わったって説のが辻褄合うんだよなぁ。


「あー……もしかしたらあのクソガキかも。上手くおびき寄せられて油断したとか?」

「なくはないだろうが、それも確率低そうじゃね?」

「でも私、連携中でもスカーの攻撃以外まともに当たってないよ? あのガキの攻撃分かりやすかったし……」

「ここで言っていてもラチがあかんし、どうせなら確認せぬか?」

「「確認?」」


 確認という言葉に顔を見合わせた俺とヴァイスは、そんな方法があったかとセレナの方を見つめるが。

 そのセレナは俺の方を見てニヤつくのみ。

 ……いや、待て。凄く嫌な予感がする。


「遠見の魔法があるじゃろケイス。『烏の目(スケアクロウ)』とか言ったか?」


 ほらな、やっぱりだ。

 けど、それで確認が取れるならそれに越したことはねぇか。


「お、覚悟決めたのかの?」

「下手にリスク(おか)すより、黙って使った方が何倍か利口だろ?」

「直接行く以外の選択肢がソレしかないなら、お願い」


 珍しくヴァイスからも頼まれて、俺は渋々『烏の目(スケアクロウ)』を発動する覚悟を決める。

 と、同時に、


「その魔法、キックスターの許可なく使用するの禁止だから、ヴァイスが許可貰ってくれよ」


 面倒くさそうな事を、お返しとばかりに ヴァイスへと押し付けるのだった。

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