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細工は流々ですとさ

 ……おやぁ? どうして僕の領域にこんな奴らが入り込んできたんだぁ?

 面倒くさいなぁ……。 もうちょっと寝てたかったのになぁ……。

 まぁ、来たんならしょうが無い。美味しく捕らえて糧にしちゃおうか。

 飛んで火に入る夏の虫。そんな虫は、生かさず逃がさず殺さずで、ゆっくり養分にしちゃうに限るね☆



「? どうかなさいましたか?」


 気配が乱れた……いや、ほんの少しだけ震えたようなセレナに声を掛け、脳内会話にて普段の口調で尋ねる。


(何か嫌な予感でもしやがったか?)


 と。


「少し、肌寒いの。舞踏会で動くことを考え薄めのものにしてみたが、動き出すまでに身体を冷やしてしまったようじゃ」


 俺の方を振り返り、笑顔を向けてそう返したセレナだが、


(すこぶる嫌な予感がするのじゃ)


 脳内会話で震えが俺の勘違いでは無かった事を明らかにする。


(藤紅の時とは違う感覚じゃな。何ぞこう……すでに捕まってしまったような感覚じゃ)

(結構ヤバイ?)

(いや、直接的にはまだ大丈夫じゃろ。……ただ、近いうちに何が起きても妾は驚かんぞ)


 ()()大丈夫……か。

 その「まだ」が「今」に切り替わらないことを祈るぜ。


「ホットワインでも貰ってきましょうか? お身体を冷やして体調を崩されてしまっては旦那さんに合わせる顔がありませんし」

「ふむ。そうして貰おうかの」


 という会話をして、俺は一旦セレナから離れた。

 逐一べったりと言うのも変に目立つし、何より過剰な警護は主催者を信用していないと取られ、警戒されかねない。

 何度か距離を放す瞬間を作り、主催者への信頼を見せる必要がある、とヴァイスに教えられていたためだ。

 と同時に、この後の懸念も教えられている。

 ――すなわち……。


「私は――」

「俺は――」


 あの手この手でセレナを引き入れようとする貴族達の勧誘。

 少しでも好意を向ければ、侯爵家のお嬢様は自分に気がある、とあること無いことを吹聴し、逃げ場を無くしてから婚姻を迫る、なんて強引な手段も存在する。

 そしてそれらは、今だ成り上がりの野望を捨てず、隠しもしないような乱暴な男爵家によく見られる傾向だ。


「スマンの、今度見合いをすると父上に言われたのじゃ。その見合いが済むまでは、どうも返事が出来ぬのじゃ」


 そんな野蛮な連中を追い払うおまじない、とヴァイスに教えられたこの言葉。

 侯爵という地位を利用した、撃退法。

 簡単に言ってしまえば、父親の機嫌を損ねるぞ、と。

 見合いの場を設けたのに、そこに来たときにはすでに別の方との結婚が決まっています、など、果たしてどの親が許そうか。

 しかも、自分からお膳立てしたとあれば父親の面目は丸つぶれ。

 相手の家にも失礼を働いたとして、様々なマイナス要素が懸念される。

 この一言で、強引に結婚を迫ってくる奴らの数は激減する……例え嘘だろうがな。


「こちらのお料理は召し上がりましたか?」


 そうなった場合にそいつらが取る行動は一つ。

 おべっか、お節介、とにかく何でも世話を焼いて、気に入られようと、名前だけでも覚えられようと必死になる。

 ――が、


「結構なのじゃ。舞踏会が始まる前には何も食べないようにしているのじゃ。飲み物だけいただくのじゃ」


 その目論みも外す一言を発したのをしっかりと確認し、セレナの元へホットワインを届ける。


「お嬢様、遅くなり申し訳ありません」

「む、待っておったぞ」


 軽いお辞儀をし、両手でセレナへグラスを私と、静かに、音を立てずにグラスを奪うセレナ。

 動きを止めず、滑らかに。

 天上のシャングリラへとワインを(かざ)し、色を楽しむ。

 少女が、珍しい花を見つけ、観察するように。

 グラスの中でワインを回し、光の屈折を変化させて色の変化を楽しんで。

 そっとグラスを口元に引き寄せ、眼を瞑って香りを楽しむ。

 やはり、少女が華で遊ぶが如く。

 ゆっくり近づけ、遠ざけて、匂いの余韻までを楽しんで、ようやくグラスへと口を付け、最小限のグラスの傾きで、口の中へ、透き通った赤を招き入れる。

 周囲から感嘆の声が漏れるほどに。

 周りのお嬢様達が、嫉妬を忘れて見とれるほどに。

 子供特有の、妙に背伸びした大人っぽさ。

 着ているドレスと相まって、完璧な調和の元でお嬢様としての雰囲気を固定したセレナは――。


「ふふ、美味しいのじゃ」


 舌の先をチロリと出して、見た目相応の可愛らしい笑顔を皆に振りまいた。


「私もホットワインを――」

「私も――」


 そんなセレナの色気にでも対抗心を燃やしたか、見とれてしまっていたお嬢様達が皆、我先にとワインを求めて世話係や護衛に指示を飛ばす。

 一方お坊ちゃん達はと言うと……。

 セレナを取り巻いてどうにか会話できないかと、様々な話題をセレナに振るが、セレナは困惑した顔であまり食いついてこない。

 ま、そいつは人間じゃ無いし、浮世離れしすぎているからなぁ。

 押しても手応えが無い暖簾(のれん)だろうにご苦労様、と心の中で坊ちゃん達に手を合わせ、ふとセレナから視線を外すと。

 俺の視界に、遠巻きに俺とセレナと、そのセレナを取り巻く集団を見ている、一人のお坊ちゃんと目が合った。

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