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確認しますとさ

 仕立てが出来たとの連絡を受け、ドレスを受け取りに行くと、丁度同じタイミングで取りに来たヴァイス達と出会い――。

 そのままいつもの流れで……。

 誠に遺憾だが()()()()流れで。

 俺の家へと集まることに。


「あ、この香りはアッサスティーかな?」

「お見事です。良質な葉が手に入りましたので是非ともと思いまして」


 俺の家へと入るなり、どうやら匂いだけで紅茶の銘柄を当てやがったらしい。

 と言うかメイリン、こいつらは別にもてなさなくていいぞ……。


「んで? ドレスは手に入ったし勉強は終えた。次は何するんだ?」

「本日は予定と計画の確認をしようかと思います」

「計画の確認っつったって、舞踏会に潜り込みます。じゃねえのか?」


 紅茶と共に出されたシフォンケーキを頬張っていたヴァイスが、それを聞いて人差し指だけを立てて左右に振る。

 ……殴るぞ。


「潜り込んで何をするというのだねチミィ。貴族に正面から喧嘩売るような真似してどうするって?」

「あ、いや……確かに」

「そもそも、舞踏会に潜り込む目的は隙を見て探索するポイントに当たりを付けるため。んで、後日改めて忍び込んで貴族ボコろっかなーって」

「すっげぇ簡単に言ってるけど、貴族の館とかって警備厳しいんじゃ無いのか?」


 口元にシフォンケーキのカスを付けたまま喋るヴァイスは、俺からの質問に淀みなく答えていく。


「そら厳しいでしょうよ。だからこその舞踏会に潜り込むわけ。後日潜入するための穴や仕掛け、それらを仕込むのもその日よ?」


 お手の物とでも言わんばかりに。

 自信に溢れた視線が、何よりも物語る。

 この方法が、彼女達の日常なのだ、と。


「って事はそれやるためにヴァイス達は離れて行動するわけか」

「当たり前でしょ? 何のためにセレナちゃんが着たらとびきりカワイイドレスを、あれだけ時間掛けて選んだと思ってるの? 私がわざわざ地味目なドレスを選んだと?」


 あ、お前の選んでたドレス、地味目なんだ……。


「つまりは……」

「セレナちゃんをこれ以上無いくらいに目立たせて私から視線を逸らそう大作戦!!」


 ……頭痛がしてきた。


「のうケイスよ」

「何だ?」

「と言う事は妾は、周囲の視線に囲まれた中で教わったダンスをするハメになるの?」

「そうだな」

「ついでに妾に視線を釘付けにせねばならぬのじゃな?」

「そうなるな」


 分かりきったことの確認を終え、ほんの少しだけ考えたセレナ。

 ――こいつ、まさかっ!?

 今更嫌だとk――、


「楽しそうなのじゃ!! 元々妾は聖白モガモガモガッ!?」


 あっぶねぇっ!!

 ごく自然に自分が二つ名有りのモンスターだって白状するんじゃねぇっ!!

 ヴァイスとかには特に変な情報渡したくねぇんだよ!!

 一体いつ敵に回るかわかんねぇんだぞ!?

 あと嫌ではねぇのかよ!!

 楽しみにしちゃうのかよ!!

 俺もうセレナの事分かんねぇよ!!


(旦那、何か賑やかっすね)

(当事者じゃなきゃあただただ面白いぜ。HAHAHA)

(がん……ばれ)

(流石に私達に出来そうなことは……ありませんね)


 一先ず脳内会話にて伝え、妙なことは口走るなと念を押す。

 さっきの不用意な発言でスカーの警戒マックスだからな?

 視線に冷たさを感じるくらいに俺らを観察してやがるからな?


「まぁ、何言おうとしたかは知らないけど、そう言ってくれるなら心配事は一つ減ったね。てっきり踊りたくな~いとか言い出すと思ってたもんだから」

「? 何故じゃ? 折角覚えたことを披露する場があるのじゃろ? そこで披露せずにどこで披露するというのじゃ?」

「おー。その考え貴重よ。んじゃあ、色々と当日の動きを伝えるから、頭に叩き込むよーに」


 そう言って何やら建物の見取り図を取り出したヴァイス。

 どうやら、潜り込む先の貴族の屋敷のものらしい。


「まず入ってすぐのエントランス。ここに貴族の雇ってる使用人がいるはずね。こいつらに簡単なボディチェックを受けて、招待状の提示と身分の口頭確認がある」


 ご丁寧にエントランスと記載がある場所を指さして、俺らと確認するようにゆっくりとした口調で説明が始まった。


「後で渡すけど、ソレを受け取った時点からケイス達は偽名での行動になれて貰うからそのつもりで。偽名の名前で呼ばれても、違和感なく反応できて貰わないと困るから」


 脅すような口調と視線に、思わず額に汗が滲む。


「そこをパスしたら大広間に通される。そこで舞踏会をするわけじゃないけど……、ま、言ってみれば控え室みたいなもの。食事と飲み物が用意されてあるはずだけど、飲み物以外は口にしないで」

「ダメなのか?」

「大の大人がションボリしない。何を仕込まれてても驚かないわ。自身の後援者になって貰うために、あらゆるものを盛った貴族なんてごまんといるもの」


 明らかに経験したと言う口調で言うヴァイス。


「お嬢様が耐性を持つものは少なくありませんが、それでも変調をきたすものもございます。目や匂いである程度分かる飲み物ならばともかく、料理に混ぜられてはお手上げのものも多いです。ご自身の身を守るためにどうか」

「いや、俺そんな意地汚く無いからな!? 哀れむような目で見るな!」

「続けるわよ? しばらくするとダンスホールに案内されるから、そこからはセレナちゃんがみんなの目をひいたのを確認して私は行動する」

「俺はどうすればいい?」

「多分ずっとだけど、セレナちゃんに言い寄ってくるガキだったり、貴族だったりが居るから、そいつらを全部いなしといて。セレナちゃんには教えたけど、行動一つ一つに意味があるから、間違っても求婚を受けるようなことをしたらダメよ?」

「やるわけが無いのじゃ」


 俺もいくつか覚えさせられた求婚の行動。

 えぇと……どんなのがあったっけ。


(ハンカチを、差し出す、と求婚。受け取って、ポケットに、しまうと、成立)


 あぁ、そうそうそんなのだ。

 一々面倒な生き物だと実感したよ。貴族ってやつは……。


「んで、私が行動を終えて合流できたらなんだけど……」


 メイリンが空っぽになったカップにおかわりを注ぎ、なおもヴァイスの確認は続くのだった……。


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