奥にとんでもないものが居ましたとさ
「えぇと? 最初は数が多くなりすぎて……食料を得るために山を探索していたら村を見つけて――襲ったんですかい?」
実体化したトゥオンの問いかけに頷くゴブリン達。
本当に会話出来てやんの。
「つか最初はって事は、途中からは理由変わったのかよ」
「待って下せぇ旦那。……今聞いてみますので」
そう言ってよく分からないゴブリンの言葉でトゥオンは語りかけて。
何やらギャーギャーとゴブリンと言い合いを始めるのを眺めながら、
「シエラとかもあんな事出来んの?」
なんて問いかけると、
「一緒にするんじゃねぇよ相棒。トゥオンが特別なだけさ。あいつは魔槍だからな? 特殊な能力の一つや二つあるだろうさ」
「思考を読む。や、思考を繋げる。他種族との会話をする。と言った事は出来ませんがそれぞれ非戦闘系の能力はそれぞれ持っていますよ?」
とシエラは否定し、シズは肯定する。
「へー、初耳。……シエラは持ってないのか?」
「うっ……持ってるよ畜生」
「なんだ? 隠しときたかったのか?」
「そういうわけじゃねぇが……」
何とも歯切れの悪い返事をするシエラ。
このままだと能力明かしてくれそうにないし、外堀を埋めて行く事にしよう。
「メルヴィ、お前の能力は?」
「炎暑、厳寒、な環境で、装備者の、体温保持」
「かなり便利だな。……ツキは自分の能力知ってるか?」
「パパの目が良くなる能力だよー」
「あー、装備してから視界がクリアになったのはツキの能力だったか」
装備してても俺を困らせるような発言無いし、自分の判断で回復してくれるし、あまつさえ目を良くしてくれるとかツキちゃんマジ天使。
「私はあらゆる地形の踏破ですわ。ご主人様」
「あらゆる地形? 溶岩とかも?」
「可能でしょうけど、ご主人様の身の安全は保障いたしかねますよ?」
「ま、そりゃそうか」
つかその能力もSWあればあまり意味無い気もするが……。
「旦那、とりあえず聞き終わりましたぜ」
「トゥオンお疲れ。何が分かった?」
気が付けばギャーギャー騒いでたゴブリン達が静かになっていて、トゥオンがこちらを向いて報告を始める。
その報告の内容は俺らの予想を少しだけ掠ったもので。
「驚かないでくだせぇ。ここ、奥に――ドラゴンが住み着いてます」
*
「オーケー。整理しよう。最初は食糧不足で村を襲っていた。が、ドラゴンが住み着いておよそ3分の1のゴブリンが焼き尽くされた」
「そんで、ドラゴンの機嫌を取る為に今度は盗みを始めた。と」
「とりあえず、ゴブリン、滅ぼそう。ドラゴンを、どうするか、はその時、決める」
「物騒な事言うなメルヴィ!? お前そんなキャラだったか?」
思わず過激な発言をしたメルヴィを窘めるが、内心は俺も同意。
そもそも依頼がゴブリンの掃討なわけで、どうあがいても倒す事は必須。
別にモンスターだし、情報引き出してから全滅させればいいし。
「一応聞くが、村から盗みをしない様に説得は?」
「出来ると思いますかい?」
「何でもねぇ。忘れてくれ」
ですよねー。としか思えねぇわ。
もう慈悲も無く全滅させる事は確定。したし、さくっとやりますか。
――【自主規制】――
ふぅ、大分返り血を浴びちまったし、帰りに小川で身体洗いてぇな。
「旦那、あっしらも洗ってくださぇ。返り血浴びたのは旦那だけじゃないもんで」
「そうだな、特にトゥオンは血糊べっとりだし、手入れしねぇとな」
「兄さま、とりあえず、どうする?」
「奥に行ってドラゴンと対峙するかい? 相棒」
「出来れば避けたいんだけどなぁ。ゴブリンが機嫌取る為に食い物を献上してたのを踏まえると、話し合い出来るならしときたい」
荒くなった息を整えつつ、この後どうするかを装備の皆と話をする。
論点は奥に居ると思われるドラゴンをどうするか、という事。
「無視、じゃダメなのか? 相棒」
「無視して村までドラゴンが襲ってきたらどうするよ」
「どうしようもない、と思われますが?」
「そんな後味悪い最悪の結末が容易に想像できるようにはしたくねぇのよ。ゴブリンと意思疎通してたみたいだし? トゥオンなら会話出来るんじゃねーかなー? と」
「またあっしですかい? 結構今回働いてると思うんですけどねぇ」
働いてなんぼだろうが、お前らは。
「その思考はいただけませんねぇ。へそ曲げますぜ?」
「立派な槍だから曲がりはしねぇだろうよ」
「相棒、少し寒くなってきてねぇか?」
「そんなにつまんなかったか? トゥオンが前に似たような事言ってた気がするが」
「兄さま、違う。トゥオンが怒って、冷気、撒き散らしてる」
「うぉぉいっ!!? 悪かった! 謝るから機嫌治せトゥオン!」
洞窟に響く俺の慌てる声。その声はどうやら奥に居るドラゴンまで届いたようで。
僅かに洞窟が振動したのだった。