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追放されましたとさ

新たに書き始めました!


こっちは3日に一度の更新を予定しております!

「てなわけで多数決の結果、ケイスにはこのパーティを抜けてもらう事が決まりましたー!」


 おー、という周りの声とまばらに響く拍手の音の中で、俺、エシット・ケイスはどんな顔をしていただろうか。


「どうしたんです? 呼吸が出来なくなって水面で口を開けている魚のような顔をしてますけど?」


 そんな顔をしていたらしい。


「待て、待ってくれ。そもそもの議題がおかしいんだ! 何で誰か一人をパーティから追放する必要があるんだよ!?」

「だからぁ! 有名な占い師さんに言われたのよ! 今のメンバーじゃこの先苦しくなるだろう。誰かメンバーを交換する事をオススメするぞ、って!」

「胡散臭さMAXだろ……。占いなんてそもそも根拠がねぇだろうが!」


 思わず力を込めてテーブルに拳を振り下ろした事で他のパーティメンバーが、ひぃ、なんて声を出すが俺はそんな事に構っていられない。


「んな急にパーティ抜けろ、だなんて言われて納得できるかよ! つーかお前らはそれでいいのか!? 俺居なくなって!?」

「別に?」「いいんじゃに?」「だから多数決であなたに入れたんですけど?」


 多数決どころか票が集まったのは俺だけだったし、俺はそもそも冗談か何かだと思って誰かに投票すらしていない。

どうやら味方は居ないらしい……。俺、そんなに人望無かったのか……。


「大体、私達女性ばかりのパーティにあんたみたいなおっさんが居たのがそもそもの間違いだったのよ!」

「最近、加齢臭がきつくて……」

「むさ苦しいし暑苦しいです。言う事もいちいちオヤジ臭いですし」

「生理的に無理」


 おっさん、泣くぞ? そんな身も蓋も無く辛辣な事言われっと。


「分かった!? もうこのパーティにあんたの居場所は無いの! あんただけこの宿屋に3日分の宿泊予定入れてるから! それじゃ! 私達は冒険続けるから!」


 行きましょ、と俺以外のメンバーに声を掛けてパーティリーダーのアイナは俺に背を向け歩き出す。

他のメンバーもそのままアイナについていく、あるいは俺に軽く会釈(えしゃく)だけをしてアイナを追いかける。


 その場に残ったのは、悲壮感に溢れた俺だけとなった。



「あれで良かったんですか~?」

「構やしないわよ。あんなおっさんよりもっと素敵なメンバーも探してあるんだから」

「便利な人だった。けどそれ以上の感想は無い」

「それに、あの人の装備の呪い、こっちに影響が出ないとも限らない」

「「あ~、確かに」」


 なんて事を話ながら進んでいくアイナ達は、町の広場の噴水に腰を掛け、誰かを待っているような一人の美青年に声を掛ける。


「ごめん、待った?」

「? あ、これはこれはアイナさん。全然待ってませんよ」

「アイナさん、この方が?」

「そう! あのおっさんの代わりに私たちのパーティに入るラグルフ・ザックス!」

「紹介いただきましたラグルフです。これからよろしくお願いします」


 にっこりと微笑むラグルフにアイナを含め全員が黄色い声を上げる。

それ位ラグルフの容姿は整っていた。


「んじゃ、行きましょうか」


 全員の自己紹介を終え、アイナがリーダーらしく言う。が、


「すいません、ちょっと宿屋に忘れ物をしたみたいで。急いで取ってきます!」


 とラグルフは宿屋へ向かってダッシュ。

向かった先は――。宿屋の脇で水晶を出し、占いをしている老婆の元。


「上手くいったかい?」

「余裕、何も知らない世間知らずの子猫ちゃんだったし。美味しくいただきながら一緒に旅をさせて貰うわ」


 怪しい声で笑う老婆に袋に詰めた銀貨を渡しながらラグルフは言う。


「パーティの強さは確認済み。俺が多少足手まといになったって旅は楽勝だろうし。さーて、誰から抱こうかなー」

「キッヒッヒ、まぁ頑張りな。――そろそろ戻った方がいいぞ?」

「ん、そうか。とりあえずありがとうよ。これで俺も念願のハーレムだわ」


 ゲスい笑い顔を好青年顔に戻し、急いでアイナの元へ戻るラドルフに占い師の老婆は、


「そううまい事行かないのが人生ってもんさね。せいぜい頑張りなよ」


 と聞こえはしないだろう背中へ返すのだった。



 追放されてどれくらい経ったか、日が傾き始めた頃。

とりあえず取られていた宿屋の部屋で俺は思考を巡らせていた。

具体的には今後の生活。パーティを組むことで難しい依頼をこなし報酬で生活をしていたのだが……。

あんまりソロで難しい依頼はクリア出来ないだろうし……、誰かのパーティに入れて貰うのが一番だな。

そこまで考えた時である。


「旦那、旦那。考え中のとこ悪いがね」


 不意に声が響く。

もちろんこの部屋には俺一人しかいないし他の人間など居るはずも無いのだが。


「何だよトゥオン!? てかお前らさっき俺がパーティ追放される時フォローすら無かったよな!?」

「何言ったって無駄だったさ。女ってのはメンドクサイ生き物だからね」

「そう言わずに助けてくれても良かったろうに。んで? 何を言いかけた?」

「ん? あぁ、そうそう。よそのパーティに入れて貰うような事を考えていたみたいだけど、今回と同じ理由で断られやしないか、と思ってね」


 こいつ、痛い所を突きやがる。


「そりゃあ槍だからね! 突くのは得意さ」

「ナチュラルに思考読んでるんじゃねーよ!」


 そう、今は背に背負っている立派なランス。それが俺が今会話している相手である。

トゥオン、そう名乗ったその槍は氷属性を秘めた魔槍であり――呪われた装備であった。

手に持ったその瞬間から俺の体から離れなくなったその呪いの装備は何故だかこうして俺と当たり前のように会話を出来ている。


 いや、槍だけではないのだ。呪いの装備は。槍のトゥオン、盾のシエラ、鎧のメルヴィ、兜のツキ、そして靴のシズ。

もう全身呪いの装備な俺なのだが、……ひょっとしてこの装備達が原因の一つなんじゃないか?


「その可能性も否めないねー」

「だから思考読むんじゃねぇっつーの!」


 俺の悲痛の叫びは、5つの呪いの装備以外に誰かの耳に届く事は――恐らくなかった。

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